第42話 ダンジョン踏破
今日はダンジョンへと来ている。
メンバーはフルメンバー、各部隊の隊長たち、それにラッテ。
俺は完全にお客様状態でみんなに守られてダンジョンを進んでいる。
今日目指すのは最下層部、最初の街に作った初級ダンジョン攻略の日だ。
「すでにボスは何度も倒していますが、気をつけてください」
ベイオ君が全員と俺に向けて助言をしつつ気持ちを引き締めてくれる。
強固な大盾と片手剣、勇者っぽい。
その両側にラージンとガイア、ラージンは大剣、ガイアは斧を最近利用している。
二人の圧倒的な攻撃力の前に敵はいない。
その後方にミーヤ、内政面でもミーヤは優れた能力を持つが槍の名手、二列目からのスキのない攻防への参加でパーティを支えている。
後列は俺、ラッテ、パーシェット。
ラッテは神出鬼没で後列からも一瞬で敵の背後に回ったりしているが、基本は俺の護衛に徹している。
パーシェットは激しい動きの戦闘中に後列から的確に敵だけをしかも急所を打ち抜いていく。
このパーティは強い……
次世代にも新規参入のキツネ、ヒツジ、ニワトリ型獣人からもきらりと光る逸材が生まれている。
各ダンジョンで鍛え上げられ、いずれはここにいる我が国のトップと入れ替わっていくんだろう……
「まぁ、まだまだ先の話だ。みんなまだ20代ってところだもんな……」
「いきなりどうしたんですか先生?」
ラージンがいきなり話し出した俺を怪訝そうにうかがっている。
「いや、この最強メンバーに代わる次世代のエースはいつ生まれるかなと思ってね」
「なかなか若い奴らは生きがいいですからね。なんだかんだと挑んでくる奴らは、強くなります」
ガイアが嬉しそうに微笑んでいる。
「先生、こういう戦闘の前に未来のことを話すのは死亡フラグじゃなかったでしたっけ?」
「あ、そうか。やめやめ。これからの戦闘に集中しよう!」
「ははは、先生の広めた漫画はファンが多いですからね死亡フラグもそこからですよね」
パーシェットはさわやかな笑顔を浮かべている。
いやー、このメンツ、強いだけじゃなくて、全員眉目秀麗! もうね、なんかアイドルグループに一般人が混じってしまったみたいな絵面になっていて、ちょっと劣等感を感じる。
「先生、またどーでもいいこと考えましたね?」
まるでこっちの心を読んだかのようにラッテが手を握ってくる。
最近のラッテは自然にこういう行動を取ってきて俺をドキリとさせる。
他のメンバーははいはいごちそうさまですと言った感じで周囲の警戒に戻る。
まぁ、ここにいるメンバーは皆幸せな家庭を築いているんだけどね。
「それじゃぁ先生、行くぜ!」
ラージンが最深部の部屋の扉を開けて内部へと侵入する。
初級ダンジョン最深部の主はアークキマイラ。
強靭な肉体と3つの首、鋭い爪と毒を持つ尾による攻撃、さらには翼を利用した三次元機動を可能にする俊敏性。非常に厄介な敵だ。
「ヘイトスマッシュ!!」
一気に飛び出したベイオが剣の腹でキマイラの顔をぶん殴る。痛そうな攻撃だが、主な目的は自分へと攻撃を集中させるためだ。
頬をひっぱたかれたキマイラは怒りに任せてベイオに猛攻をかける。
しかし、ベイオは自慢の大盾でその攻撃を見事に受け切っている。
「シールドスタンプ!」
さらに絶妙な攻撃で完璧なヘイト管理をして他の人へ攻撃を集中させない。
その動きに呼応してラージン、ガイアが着実にキマイラの肉体に傷を残していく。
キマイラは非常に生命力の高い生物で、傷をつけられる端からみるみると肉芽が盛り上がり傷を塞いでいく、ふつうなら焦って大技を繰り出して傷の回復に抵抗しようとしてしまいがちだが、二人は冷静に攻撃を続ける。
ミーヤパーシェットもある意味地味に攻撃を積み重ねている。
「聞いてた通り、職人技だね」
「ええ、あまり強力な技を放つとベイオから敵が離れてしまいます。
再生力を少し上回るぐらいの攻撃をしっかりと続けていくことが目的です。
キマイラの再生力も無限ではありませんから……」
ボスとの戦いだというのに、恐ろしいほどに静かだ、時々ベイオがヘイトを上げる攻撃を繰り出しているだけで、他のメンバーはもくもくとキマイラを攻撃し続けている。
この攻撃が功を奏してくるのにそれほどの時間はかからなかった。
「なんか、キマイラの攻撃頻度が下がったね」
「再生に体力を使われすぎてばててきていますね。そろそろ決めにかかります」
よく見ると傷口の再生もだんだんおぼつかなくなってきている。
キマイラの攻撃数が減ることによってこちらの攻撃する回数が増えていく。
「シールドスタンプ!」
ゴォォォン。と凄い音が響く、その音がゴングのように全員が一気に加速する。
ラージン、ガイアが力を溜めるように構えると、何も言わずともミーヤとパーシェットがキマイラを不動化させていく。
「手足穿ち」
ミーヤの槍が腕と足をえぐり取るように穿つ、大きくキマイラの体勢が崩れる。
「拘束型呪縛陣」
ワイヤーを仕込んだ弓矢が大量にキマイラの周囲に打ち込まれる。一本一本でもすさまじい硬度を誇るワイヤーが何百本とキマイラの体を地面に縫い付けていく。
「ハンドレッドスピア!」
「アローストリーム」
すさまじい光速の突きと弓矢の雨がキマイラに降り注ぐ、すでに傷はほとんど言えることは無く肉体からは血とも肉汁ともいえぬ液体が地面に広がっていく。
それでもキマイラは渾身の力でワイヤーを引きちぎり立ち上がろうとする。
「クロスエッジ!」
踏ん張ろうとした前足にベイオが無慈悲に剣による一撃を放ち、その腕を切り落とす。
「とどめだ」
大剣と斧を構えた二人が同時に振りかぶる。
「「×の字斬り!!」」
強靭なはずのキマイラの胴体がに十字の斬撃がめり込み、身体を分断する。
豊富な生命力を持つキマイラも、その体を二つに分けられ絶命した……
全員が一つの塊としてキマイラを飲み込んだようにさえ見えた見事な戦闘だった。




