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第4話 獣人とともに

「……う、うーん……」


 患者の中でも幼齢の個体が最初に目を覚ました。

 若いということはそれだけで回復が早い、若すぎると問題だけどね。


「おっ、目が覚めたかい?」


 不安そうにきょろきょろと周囲を見回して自分の状況を探ろうとしているのがわかる。


「こ、ここは……」


 俺を見る目も怯えと敵意が混ざったような視線を向けられる。


「えーと、慌てないでほしいと言っても難しいだろうけど、君たちが病気で倒れていたので勝手に治療させてもらった。君の体にはいろいろなものが付いているが、どうか慌てて取らないで俺の診察を受けてほしい」


「あ、貴方は……?」


「通りすがりの医者だけども、縁あって君たちを助けに来た? でいいのかな?」


「ゆ、夢じゃなかったんですね!!」

 

 怯えに濁っていた目がキラキラと輝きだしていく。


「夢!?」


「はい! 夢の中で神様が『君たちを救うものが現れるよ』って教えてくれたんです!」


 おお、神様ナイスプレイ。これで説得する労力がいらなくなりそうだ。


 その女の子が目覚めたことをきっかけに次々と村人たちが目を覚ます。

 みんな状況の理解に苦労していたけど、夢のおかげで真剣に俺の話を聞いてくれた。

 検査の結果、症状はかなり改善しておりあとは通院治療で大丈夫だろうと判断した。


 初めに目覚めたネズミの女の子、ラッテちゃんはすっかり俺を崇拝してよく手伝ってくれる。物覚えもよく村人からも愛されているので俺としても非常に助かる。

 村人たちは非常に協力的で、仮の住まいを提供して泣いて喜んでくれたが、これから先の村づくりに全面的に協力してくれることになった。


 森の開拓である程度の食料もあるが、さすがに継続的には維持が難しい。

 ネズミの姿はしているが、人間の食事も摂取可能で、牧草やペレットなどでも大丈夫というハイブリッドな生物らしい。そういう意味では獣人のほうがたくましいと言えるな。

 ネズミは雑食性だが、とりあえずはペレットを大量に購入して栄養バランスを整えることが肺炎の再発を防いでいくだろう。


「と、いうわけで、君たちには公衆衛生を学んでもらう。

 こないだみたいに病気の蔓延を防ぐために大変重要だからちゃーんと話を聞いてください」


 こういうことも俺の仕事だ。

 実際日本でも獣医師の大事な仕事でもある。


 いくら獣人が俺たちよりも強いと言っても限界はあるし、俺もその中で生活するんだから申し訳ないけど人間基準の公衆衛生レベルまで上げてもらう。

 

 肺炎騒ぎもすっかり落ち着き、村にも活気が戻ってきて建築や農作業などの仕事も回り始めたある日、俺はこれから先のこの世界の国盗りについて考えていた。

 36名の村人の内訳は人間年齢で考えて高齢者3人、おっちゃんおばちゃんが10人、働き盛りの若者が18人、子供が5人となっている。

 年齢分布は悪くない。これなら滅亡は避けられそうだなぁ……

 ネズミと同じくらい増えるのかな? とかゲスいことを考えているとラッテが白湯を入れてきてくれた。


「ありがとうラッテ。村の人々はちゃんと薬飲んでくれているかな?」


「はい! ちゃーんと厳しく言っていますから!」


「頼もしいね、ラッテが言うとみんな言うことを聞いてくれるから頼りにしてるよ」


「えへへへ……」


 嬉しそうに体をくねらせている。

 初めは灰色と茶色が混じったような毛色だった村人たちも、入浴というか洗浄を日常化することと衣服や靴を利用し始めていくとだんだん銀に近い美しい毛並みに代わっていった。汚れだったのね……

 特にラッテは白に近い色でほわほわしているのでかわいらしい。

 なんとなーく、最初に見たもろネズミな見た目よりも表情豊かになって俺の目からは擬人化しているように感じる。洋服を着ているからってのが大きいんだけどね。


「そろそろこれから先のことを考えないとね、俺の貯金も無限にあるわけじゃないから……」


 仕事が忙しすぎて対して使うこともなく貯めていたことがこんなことで役に立つとは思わなかった。

 それでもキャンプ用品などを一揃えしたのはまぁまぁ痛い出費だ。

 話は変わるけど、織田の野望はちゃーんとプレイできた。神様大好き愛してる。


「たくさんシタラ先生からもらってしまって、私たちもなんとかお返しできるといいんですけど……」


「今はとにかく健康に暮らしてどんどん繁栄していただくことが俺のためだと思ってほしい」


「繁栄ですか……」


「そう、たくさん子を産んで農地を広げて産業を起こして必要なら外敵と戦える力も手に入れないといけない!」


 俺が熱く語っているとラッテはなぜかポーっと話を聞いている。


「あれ? ラッテさーん?」


「子を産んで……子を産んで……私と、先生が……フヒヒ……」


 ぶつぶつと謎の言葉をつぶやいている。少し怖い。


「せ、先生はいますか!?」


「どうした?」


 突然病院に村人が飛び込んできた。


「うちのが急にお腹が痛いって言いだして動けなそうだから先生を呼びに来たんだ!」


 えーっと確かラック君だったよな。働き盛りで真面目な青年。

 奥さんのラーシャを溺愛している。

 今はその奥さんの急変みたいだ。


「わかったすぐ行く、ラッテ留守番頼む」


「わかりました」


 俺は往診バッグを収納してラックの家に走る。

 すでに村人の家は木造建築化している。ラックの家も小さいながらも機能的なログハウスだ。


「大丈夫かラーシャ!? 先生連れてきたぞ!!」


 寝室に飛び込むラック、寝室からはミーミーという謎の声がする。

 俺も続いて部屋に飛び込むと……


「キャーーーー!!」


 ラーシャさんの悲鳴に迎えられた。

 一瞥して理解する。出産だったんだ。

 授乳中に突入すればそりゃ怒られるよ。


「ラック、俺は外で待ってるよ。ラーシャさん落ち着いたら皆と君も診察を受けに来てくれ。おめでとう」


「あ、す、すみません先生! ありがとうございます」


 ……そうか、ネズミの妊娠期間は一か月程度、あっという間だよね。

 俺は出産後に必要そうなものを考えながら病院へと戻る。

 きっと今頃あわてんぼうのラックは怒られながら、うれし泣きしているんだろう。

 俺も自然と笑顔になってしまう。

 しかし、乳幼児を抱えてこれから何が起きてもいいように勉強しておかないとな、と気を引き締める。

 

明日も18時に投稿いたします。

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