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第37話 オーガの力

 戦いは、ごく自然な形で開始された。

 全軍をもって侵攻してきたオーガ軍は、砦跡から友軍を救出、その後弓の射程外まで後退して展開した。

 俺たちもそれに合わせて戦場予定地へと陣形を展開する。

 特にほら貝を吹いたわけでもなくオーガ軍の侵攻が開始される。


「すごい圧力だなこれは……弓も物ともしない」


「奇襲ならある程度効果ありますが、防備を固めたオーガたちに曲射はほとんど効果ないですね」


 分厚い盾を構えて塊として進んでくるオーガの歩みを止めるには、弓矢では力不足なようだ。


「特殊兵装の使用を許可する。相手に対応される前に出来る限り被害を出していく」


「すぐに取り掛かります」


 オーガとゴブリンの混成部隊とは言っても、実際の戦力はオーガ、ゴブリンはみすぼらしい装備で数合わせにもなっていない。

 その不均衡をついていきたい。


「まずは定石通り相手の進軍を遅らせるぞ」


 投石機に設置されたのは鉄のとげ、まきびしだ。

 強固な足底の靴なんて履く習慣は魔物にないだろう、それにあの巨体ならばかなりの重量であることは間違いない。地味にまきびしは凶悪な兵器となるだろう。

 それから我が国の十八番火計だ。

 油の入った袋が次々と敵の付近ではじけ飛び周囲に油をまき散らかしていく、そこに火矢を打ち込めば一面火の海になる。これだけでも塊となって進んでいたオーガ軍の列に乱れを生じさせられる。


「崩れたぞ! 撃て撃て撃て―!」


 分厚い防備の隙間を弓隊が撃ちぬいていく。厳しい訓練を乗り越えたうちの部隊の射撃精度は素晴らしい、敵の攻勢をそぐ打撃を与えることに成功する。


「引いてくぞ!」


「追撃は不要、というかまきびしが邪魔でできない……」


 これが最大の欠点だ。敵味方関係なく攻撃してしまう。

 普通回収には莫大な労力を払うのだが、こっちには便利道具おれがいる。

 敵が安全圏まで引けば俺が走り回って回収する。

 戦場には焼け焦げだ地表と血の匂いが蔓延しているが、これも俺たちの国を守るための戦いだ。


 結局オーガたちは大きく引いたところでこちらの動きを探っているようだ。

 想像よりもはるかにオーガたちの肉体は頑強なようで、被害の多くはゴブリンでオーガ自体はあまり数を削れなかった。

 俺がまきびしを回収して回っている間も特に動き出したりはしてこなかった。

 それと、ゴブリンの国の結果として王だった将軍のように人間っぽい会話を求めてくるようなこともない。


「次はどうしてきますかね?」


「普通に考えれば分散して攻めてくるだろうね。火計も弓も効果が薄くなるから。

 そうすると防壁が非常に邪魔になる。まずは破壊を試みるだろうけど、まぁ無理だろうから、ようやくこっちの戦場に引きずり込めるはずだ。しかも分散してからの再集結っていうタイムラグをつけてね」


「とうとう俺らの出番だな」


「皆の盾となって戦おう」


「今回は退路を塞がない、あの屈強なオーガたちが前だけを向いて決死の突撃をされれば被害は甚大なものになる。あえて逃げ道は開けておく」


「その先が逃げ道かどうかは、また別の話ということですね」


 ガイアも初めての戦闘で興奮気味だ。


「準備はしっかりしているけど、皆冷静に、慎重に、丁寧にね」


「怪我をおったらすぐに引く!」


「過度な追撃はしない、出来ることを出来る範囲で確実に」


 口を酸っぱくして伝えていることを再度みんなが確認する。

 

 結局オーガたちが動き出したのは翌朝だった。


「先生、オーガたちが動きました」


「わかったラッテ、すぐに行くよ」


 仮眠を取っているとラッテが呼びに来てくれた。

 戦闘装束であるシノビ衣装は人化したラッテにとてもよく似合っていて、忍者スキーな俺はひっそりと興奮していた。カッコいい!


「そういえば診療所は問題ない?」


「ええ、大きな病気は起きておらずみんなで対応できているそうです」


「皆には苦労をかけるね……」


「設楽先生にはここでたっぷり働いてもらいますから」


「できればあんまり俺が忙しくない状況が嬉しいけどねぇ」


「出来る限りそうなるように、がんばります」


「ああ、頼りにしているよ」


 ぽんぽんと頭をなでるとピコピコと耳が動く、びしっと決めた忍び装束の獣っ子のデレというなかなかてんこ盛りだなぁと我ながら冷静に見てしまう。


 ……ラッテは人化してからものすごく積極的になって、さすがの俺もその行為には気が付いている。

 しかし、明確な返事は出来ずにいる。

 そもそもこの世界にずっといるわけではないし、俺は借物の仮初の存在だと思っているから……

 他にもいろいろあるんだけどね、まっすぐな好意はとても嬉しいし、ラッテは人の基準に合わせてもものすごい可愛いし、そのスタイルも凄い。鍛え上げられた芸術品みたいな美しさがある。

 それでいて仕事を手伝ってくれているときの清楚で知的な感じも、女性としてとても魅力的だと思う。


「ただなぁ……動物の時の可愛さとのギャップがなぁ……」


「何考えてるんですか先生?」


「ああ、いや、なんでもない」


 つい口に出てしまった。適当にごまかして会議場に入る。

 すでに歩きながらパソコンで相手の動きは把握している。


「やっぱり散開した横形陣を取ってるね。

 今のところは思った通りだ」


「さーて、つっかけて来ますかぁ!」


「防壁の通過場所間違えるなよ!」


 わかってまさぁ! と手を振りながらラージン部隊が出発する。

 俺も急いで防壁へと向かう。

 俺がいれば防壁は仲間を通過させることもできる。壁をしまってすぐに出せばいい。

 一応俺も役に立っているんだ。







明日も18時に投稿いたします。

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