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第36話 開戦

 オーガたちの動きがあわただしくなったのは、太陽が差し込み防壁の影を長く大地に映し出したころだった。

 いつもと変わらない朝日が巨大な建造物で遮られている。

 しかも一夜にして突然、その建造物が現れた。この異常事態に砦の建築どころではなくなったようで、都市に伝令が出たり砦周囲をあわただしくオーガやゴブリンが動き回っている。


「さて、混乱してくれているから、このまま作戦開始しようか」


 ラッテが頷く。ラッテ達工作部隊による火計の発動だ。

 合図の狼煙を上げると、すでに防壁に準備をしていた部隊が動き出す。

 塹壕から動き出した影が敵の砦に急速に接近する。

 彼らは可燃性の液体の入った瓶を次々に砦に投げつける。

 そこにパーシェット隊の火矢が撃ち込まれていく。

 木造建築に油をたっぷりとかけられて火矢を受け、一気に黒煙を吐き出して燃え上がる。

 周囲に大量の水を確保する水場もない。

 オーガたちやゴブリンは燃え上がる建物を呆然と見ているしかできない、そして、とうとう自分たちの手で打ち壊し始める。

 

「やはりそれなりの知恵があるんだな……」


 原始的な方法だが、一部の資材は守れるかもしれない。

 それらの行動をただ見ているわけにはいかない。

 パーシェット隊は容赦なく弓矢を射掛けていく、オーガの屈強な肉体も雨のように降り注ぐ矢に貫かれる。隠れるべき場所は今我々が奪った。

 焼け落ちなかった素材を盾代わりにするものもいるが、大きな被害が出ている。


「……魔物とはいえ、問答無用で戦闘仕掛けると気分はよくないね」


「先生、前の戦いでは『虐げられた思いを忘れたのかー!!』と勇ましく……」


「わーわー!! やめてくれ恥ずかしい!」


「いや、あの時のシタラ先生のお姿には胸を打たれたと皆の語り草です!」


 なんという黒歴史……


「と、とにかく、敵の動きに注視!」


「そうだな、ふざけてる場合じゃないな。戦争だかんなこれは……」


 きちんと意識を入れ替えてくれるのは自分としてもありがたい。

 結構緊張してるんだよこっちは……


 オーガの国中心の街へ向かった急使はまだ到着していない、とつぜんの建造物の話にオーガの国がどういった対応をしてくるのか、戦力の逐次投入でもしてくれれば一番楽だ。

 少数を多数で罠にはめて倒すという理想的な展開になって敵の戦力を減らすことが出来る。

 一番最悪なのは全兵力を持って砦奪還に向かってくること、コボルトと争っていたことを考えれば可能性は低いんじゃないかと思うんだけど……

 こればかりは判断はできない。


「先生、パーシェット隊からこれ以上の攻撃は弓矢の無駄だから攻撃を停止したって知らせが」


「ああ、そうだね。もう隠れられる敵は隠れたろうからね。

 各人の判断を支持すると伝えておいて、あとけが人はどんな軽症でもきちんと治療を受けるように徹底するように」


 簡易的な診療施設を用意してそこでけがの治療に当たる。

 直接戦闘もなく一方的な不意打ちのために、飛んできた火の粉で火傷など、ほんとうに軽症だけで済んでいた。


「なめときゃなおるじゃなーい。化膿したらどうするんだ。よく水で流して冷やしてワセリンで保護しておくんだよ、普通のガーゼはダメ、非固着性のくっつかない奴で!」


 熱傷の治療は動物の姿よりも人型のほうが楽だ。毛が無いからね。

 きちんと冷却をしたのちワセリンなどで感想を防いで非固着性のラッピング。

 感染兆候があった場合は変わるので注意。


「先生、当初の作戦通り交代制で砦への監視を続けながら休憩に入ります」


「ああ、当初の目的は果たしたから、あとはどう動くかね……」


「今のところは必死に身を隠しているだけですが、時間がたてば……怒るでしょうね」


「だよね」


 今では見るも無残ながれきの山と化している砦、うちの陣と違い、材料を搬送し加工してくみ上げてようやく出来上がった。それをいともたやすくあっという間にズタボロにされたのだから……

 さらに弓による追撃で少なくない被害が発生している。

 なんだかんだ言って、戦争に引きずり込む気満々で仕掛けているのは俺たちのほうだ。


 それからは待つことが仕事になる。

 敵の本体の動きを監視しながら、嫌がらせのように攻撃を加える。

 敵方に砦を襲撃された情報がもたらされて二日後、敵の取った方針が判明する。


「……ほぼ全力投入。一番嫌な方法を取られた」


「わかりやすくはなりましたな」


「ベイオ、なんかうれしそうじゃない?」


「なんだかんだ戦いは高ぶるものなんすよ俺たちは」


 ラージンやベイオをはじめ軍部の人間は戦いで自分たちの力を確かめられるのはある種楽しいみたいだ。

 ダンジョンではどうしても後進の指導という意味合いが強くなる。

 そういえば、最初に作ったダンジョンがもうすぐ最下層攻略にうつるから俺も参加しないとな……

 おっと、まずは目の前の戦いに勝たないと……


「それじゃあ、みんな集めてもらえる、ってみんないるか」


「うちのほうでも探りは入れていたので、動きがあったので集めておきました」


 すでにラッテさんたちは俺のパソコン以上の情報収集能力を持っているのね……流石です。


「さて、みんなもすでに知ってると思うけど、敵は全軍を持って我々に当たるようだ。

 オーガ族は非常に屈強な種族だ。初戦は圧倒的勝利に終わったけど、本戦は厳しい戦いになると思う。

 一人の脱落もなく戦闘に勝ち残ってほしい。

 戦い方は何度もシミュレートしたと思うけど、それでももう一度部隊ごとにしっかりと頭に入れておいてくれ。

 そして、怪我したら俺たちが救う。生きて戻ってきてほしい」


 俺の言葉に全員の顔つきがしまる。

 

 再び、俺たちの国は大きな戦乱の中に飛び込んでいくことになる。







 



明日も18時に投稿いたします。

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