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第35話 前夜

 コボルトの国方面に放った斥候から大きな報告はない。


「よし、準備は整った。砦も完成間近、このタイミングだな」


 相手を怒らせる最大のタイミングは完成寸前での破壊……


「なんか、戦争に持っていこうとしてるな、俺」


「仕方ないですよ設楽先生……うちはこっちの土俵に上がってもらっての戦闘でないと今の状態では敵国に勝つチャンスはありませんから……」


 ラッテの言う通り。

 挑発して、こっちの場に呼び込んで罠と奇襲で撃退、それからの反攻作戦。

 今の我が国でとれる戦法で、最も確実性が高い方法はそれしかないのだ。


「すでに皆準備は整っています」


「え? そうなの?」


「先生が攻めるのはこのタイミングだろうってみんなで話し合ったいたのです」


「皆流石だなぁ」


「先生気がついいていませんけど、時々考えていること全部口に出してブツブツ言ってるんですよ」


「あ、ああ……よく言われる……特にゲームしてる時とか……」


「そうですね、仕事中はそんなことないですもんね」


「ゲームの時の戦略とかこの先どうするかブツブツ話しながら整理してるんだよねたぶん……」


 なんとなく口に出して耳に入ってくるとこう整っていくような……癖みたいなものだ。


「つまり、みんな準備万端。やる気も満タンだね」


「はい」


「……それじゃぁ、行こうか」


 これから戦争へ行くには軽すぎる号令だったかもしれない。

 しかし、内に秘めた決意は大きい。


「みんな揃っているね」


 全隊員が準備を終わらせて並んでいる。

 周囲には町の人々が戦士たちを見送るために集まっている。

 これだけ多くの命を預かるその責任の重さに、胃のあたりにズーンと錘を乗せられて様な気持ちになるが、ここにいる全員を連れて、勝利して戻ってこないといけない。


「出発!」


 俺の号令で一斉に動き出す。

 思えば大きな集団になったものだ。

 俺はパソコン上のマップを確認しながらバギーで先行する。

 途中の駐屯予定地に資材を取り出して展開しておく。

 陣としての外回りは取り出し方を工夫すればあっという間にできる。

 宿泊施設や倉庫などの建築は各部隊にお任せする。

 戦闘予定地すぐそば、ここに建築を始めれば敵方からもその様子が把握できるだろうし、場合によっては建築という行為だけで敵の攻勢を呼ぶ可能性だってある。


「さてさて、ヤブをつついて蛇が出るか、それとも鬼が出るか。

 ま、オーガなんて鬼そのものだわな」


 すぐに戦場へと向かい最後の仕上げを行っていく。

 掘る行為はまず敵から見つかることは無い、しかし、土を積めば当然敵から発見される。

 塹壕を作成して得た大量の土を使っての防壁などの作成は最後の仕上げに残してある。

 土の密度を極限まで上げて、塹壕に沿って次々とブロック状の土を取り出せして積み上げていけば、あっという間に巨大な防壁を作り上げることが出来る。土ブロックを組み合わせることで以前より頑強で厚みがある壁を作り出している。

 

「皆が来るまでに防壁を出来る限り作っておかないとな、敵に動きは無しと……」


 上空からの情報を得ているためにこちらは非常に有利といえる。

 敵がこちらに対応して動く出すかどうかもリアルタイムで把握できている。

 いまのところオーガの砦建築場所では今も一生懸命木材などで建物を作っている。

 大きな素材はオーガが運び出し、ゴブリンが細かな作業を担当しているように見える。


「適材適所だな、これ、どんどん進行していくと敵国はどんどん強化されていくんだな。

 なかなかうまくできている」


 滅ぼした国の種族がフリー化することによって単一種族よりも多様性が生まれる。

 また、言葉は悪いがフリー化した魔物は奴隷化するようだから単純な労働力兼兵士を手に入れられる。

 もちろん部隊指揮や複雑な行動は制御されているんだろうけど、それは操る種族次第だと思う。

 自分だったらどうするか、そう考えるだけでかなり楽しい。


「けどね、うちの優秀な人材はそう簡単に倒せると思わないでほしいね」


 特に意味もなく独り言、でも、誇る相手がいないから誰かに誇りたいぐらい自分の仲間たちは優秀だ。

 そして、最高の友人であり隣人だ。


「よし、一通り防壁は完成したな。

 そろそろ陣のほうに皆到着したかな?」


 パソコンで陣を映し出すとすでに設営がかなり終わっていた。

 同時に炊き出しも開始される。

 炊事の煙なんかもオーガたちを刺激するために隠ぺい工作はしない、もくもくと煙を上げて皆の食事を作っている。


「さすがに行動が早い、なるほど、一部を先行させたのか、本当にみんな判断力が凄いよなぁ」


 バギーを陣へと向けて走り出す。

 ほどなくして陣を守る兵士たちに迎えられて作戦会議室でお茶をすすっている。


「はぁ、温かい飲み物はホッとするねぇ……」


 ホットだけに。

 ホットだけにね。


「先生お疲れさまでした」


 心底くだらないことを考えていたらラッテ達が部屋へと入ってくる。

 隊長格はすでに指示を出し終えたようだ。

 続いて夕食が机の上に運び込まれる。


「おお、おいしそー!」


「先生がいると町と変わらない食事が出来るから幸せです」


「遠征訓練をやっていると先生の偉大さが……」


「ラージン、それでは先生を食糧貯蔵庫扱いしているみたいですよ」


「はは、まぁ動く倉庫だと自覚はしてるから」


 作戦前夜でも皆リラックスできている。

 ようやく圧倒的劣勢ではない、本当の戦闘が始まろうとしていた。



 

 

 


明日も18時に投稿いたします!

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