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第34話 愚痴

これはひどい愚痴回。


 ようやく戦争における俺の仕事が終わりを告げた。

 土木建築作業員である俺の仕事は終わりだ。

 今でもダンジョンとかで戦っていて、中堅クラスの実力はあるけど、その程度だ。

 命のやり取りである戦争においては後方支援に徹する。

 むしろ、それこそ俺の生きる道だ。

 獣医療を深く理解してくれた衛生兵部隊隊長。

 それが今の俺だ。


「繰り返すけど、戦場では冷静にトリアージをすること、その際、身内などは第三者による二重チェックをっ徹底してください。俺たちの仕事で一番つらいことだけど、きちんと命の選択をしないと助けられるものも助けられない……」


 トリアージ、緊急時における重症度による選択。

 戦争用にタグも作った。

 黒タグは、死亡、もしくは死に向かって急速に進み治療が不可能。

 赤、このままにしておけばすぐに命に関わり、すぐにでも治療が必要な場合。

 黄色、重症であっても全身的には安定しており早期治療は必要だが緊急性が低い者。

 緑、今すぐ治療は必要がなく、緊急性のない者。 


「俺たちは、万能じゃない。

 自分たちの実力と能力を正確に理解して、出来る限り多くの命を助けることを目的としている。

 つらいかもしれないが、あえてきつく言えば、無駄な治療をしている時間があれば、治療できる者を一人でも多く治療していく。

 つらいだろうけど、すべての責任は俺がとる。

 皆、ここでの勉強や処置、たくさんの練習や努力を信じて、一緒に頑張ろう」


 俺は、戦争における罪悪感を、その責任の所在を自分に置くことで贖罪しているような気分になっていることを自分自身が一番知っているし、卑怯者だと思う。

 でも、そうでもしないとチームとして医療が提供できない。

 誰かに批判されることを恐れて何もできなくなることが一番怖い。

 そのためになら俺の立場だって利用する。


 前の世界において、最近の獣医療に俺は少し違和感を覚えていた。

 最新の設備や検査方法がどんどんと増えていること自体は素晴らしいことだと思う。

 治療方法も日進月歩でどんどんと有効な治療が生み出されているのはたくさんの人々の努力のたまものだ。


 しかし、その一方で、常に最新最高の治療を行わなければいけない。というような風潮が漂い始めている気がする。

 最新の設備、最高の環境、専門医、そういったものでなければ治療をしてはいけない、そういう社会に向かっていくのは必ずしも飼い主さんや動物が幸せになっていくとは言えないのではないだろうか?

 俺はそう考えていた。

 もちろん、そういう場所は必ずあったほうがいい。

 それでも、限られた方法、限られた中で最善ではなくとも最良の治療を飼い主さんと話し合いながら探していく努力を俺は忘れたくなかった。

 それに、ペットは家族かもしれないけど、飼い主も疲れ切っている中で一分一秒でも『心拍と呼吸を維持させる』治療を続けることは幸せなのか? その思いが常に頭に存在する。


 誤解しないでほしいのは、俺は飼い主さんがどんなことをしてでも頑張りたいというのならどんな努力もいとわない。出来る限りのことをしてあげたいと思っている。

 最高の設備での治療を求めるのならそういった病院を紹介するし、それは当然だと思っている。

 セカンドオピニオンだってどんどんやってほしいと思っている。

 ただ、間違い探し、あら捜しは誰も幸せにならない。

 そんなことを続けていれば、獣医師は間違いのないようにどんな症例でも正解に近づけるためにたくさんの検査を行い経過を完全に把握するための入院なども多くなるだろう。

 その結果はどうなるだろう?

 大量の検査を繰り返された動物は疲労するだろうし、また、莫大な検査費用が飼い主への負担になってくる。

 的確な検査を最低限にする。そんな理想論を掲げても、結果がすべて、少しでも差異があれば訴えられる。そんな社会になって誰が動物を診るのだろう?


 結局、医療従事者は知識と経験と技術を積み上げて情報を集めて、予測し処置をして反応を見て治療の成否を確かめながら治療する。

 ○か×かでやれる世界ではないのだ。


 あと、一番ないがしろにされているのは、獣医師自身は当然だけれども誰よりも自分が見ている患者、動物に元気になってほしいんだ。という獣医師の想いな気がする。

 もちろん、ごくごく一部の人の話だ。

 ただ、心に突き刺さるのはそのごく一部の人の鋭利な悪意の刃なんだ。


 病気の動物を治す。ことが仕事であるのももちろん理由の一つだけど、自分の病院にきて自分が診察している動物を病気から回復させてあげたいと思っているからに他ならない。


 副作用がありますか? 薬を出されて初めに聞かれるのはその言葉だったりする。

 もちろん不安な気持ちがあるのは心の底から理解できる。

 ただ、副作用を前面に押し出すような薬を処方するメリットが獣医師にあるだろうか?

 こちらは、薬を飲んで、回復しなければ途中でも相談してほしい、こういった症状が出れば相談してほしいと繰り返しお話しているのに、そういうことをはじめに聞いてきて、そもそもこちらをあまり信用していないタイプの飼い主さんに限って、薬を飲ませていたけど治らなかったから3日でやめて二週間後に治ってない、酷くなったと、怒りながら来たりする。

 吐いたから飲ませるのやめて、一か月様子見たけど良くならない。こんなことも少なくない。


 絶対に飲ませるのをやめないでね、飲ませるのを途中でやめるくらいなら飲ませないほうがいいから、飲ませられなかったら必ず相談してね。

 これだけ丁寧に診察室の中でも受付でも繰り返し繰り返し繰り返し話して、上のように言われて、どうしろというんだよ!


「……気分が悪くなった……」


 なんか、途中からただの愚痴になった……


 おかしいな、こんなはずじゃなかったのに。


 しかし、戦争の準備は整った。

 皆に連絡を回す。


 ……我々の生存をかけた次の戦いが、今始まろうとしていた。

反省はしていない。


明日も18時に投稿いたします。

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