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第31話 ラッテ、酔う

「あれ? 先生……ここは……?」


「おはよう。落ち着いてね、激しく動いたら痛いぞ」


「ああ……そうか、俺手術したんだ……」


 術後の患者と話すってのはあちらの仕事ではないことだった。

 一方的に話すことはあるけどね。


「経過は順調だよ。胆嚢も破裂することなく摘出できた。

 胆管も問題ない、肝臓も激しいダメージはなかった。でも、まだ安静にね」


「ありがとう先生……って、先生ずっと見てくれていたのかい?」


「いやー、終わったから言うけど、ここまでシビアなオペ久しぶりで……」


「不安だった、と?」


「ぶっちゃければ」


「はっはっはイてててて、笑わせるなよ先生、痛いんだからさ」


「ごめんごめん、まだゆっくり寝るといい。

 疲れてるだろうからね」


「ああ……先生。ありがとう」


「どういたしまして、今家族呼んでくるから」


 応接室で心配そうにしていた家族に声をかけて面会をさせてあげる。

 奥さんにも子供にも涙を流して感謝されてしまった。


 ご家族が帰ってから泣いてしまった。もともと涙腺が弱いんだよ俺は。


「先生、今日は……?」


「ああ、俺が見るからみんなゆっくり休んで、さっき連絡しておいたから満腹亭で夜ご飯食べておいで」


「でも先生……」


「おれは久しぶりのカップ麺が楽しみだから大丈夫だよ、ラックさんが退院したらみんなで飲みに行こう」


 ラッテは俺の言葉でしぶしぶ病院のスタッフを連れて町のレストラン、というか居酒屋に向かってくれた。

 俺は久しぶりに通販でカップ麺を取り寄せる。

 最近はこっちの料理ばっかりだったから、たまにはこういうものも懐かしい。


 お湯を注ぎ2分半ほどでお湯を捨てる。少し硬めが好きなんだ。

 決してこの時にソースの香りが立ち上ってはいけない。

 もしこの時にソースの香りがしたら作り方を間違えている。

 ソースをかけて軽く混ぜたらスパイスをかけて出来上がりだ。

 この香り、無駄に食欲を刺激してくる。

 焼きそばが食べたいんじゃない、コレが食べたくなる時があるんだ。

 フニャフニャの麺、端っこに片間ってしまうキャベツ、ソースとスパイスの味。

 すべてがコレらしさにあふれていて俺を満足させてくれる。


 食事を終えたら入院室を見て回る。

 モニターは院長室で見られるけど、漿液の具合や痛がってないかなどを見て回る。

 

「取りあえずうまくいってよかった。まだ安心できないのがこの手術の嫌なとこだけどな」


 時間がたってからおかしな症状が出ることも稀にある。

 そして、何か起きると激しい症状を見せる。

 明日の血液検査の結果を見るまでは安心できない。


「先生、起きてますか?」


「あれ? ラッテどうしたの?」


 夜の見回りを終えてPCでいろいろと資料作りをしているとラッテが戻ってきた。

 どうやらお店で少し食事を包んで持って帰ってくれたようだ。

 

「おお、ありがとう。夜食にさせてもらうよ」


「先生大丈夫なんですか? 結構大きな手術をやってそのまま夜勤とか……」


「ずっと起きてるわけじゃないし、よくあることだよ」


「……先生は働きすぎです……みんなはそれに甘えすぎです」


「そうかなぁ、こっちに来てから体の調子もいいし、それに、()()()()()()()()()()()()()()からなぁ……」


「今よりですか?」


「うん、病院の仕事だけだったから息抜きも家に帰ってからのわずかの時間だったし……」


「先生は凄いんですね……」


「ただ慣れてるだけだよ」


 実際ただそれだけだ。


「週休二日とか祝日休んでる友達からは変人扱いされていたけど、獣医師ってこんな生活している人が結構多いんだよ」


「やっぱり先生は凄いです。それなのに全然弱いところを見せなくて……甘えてくれたっていいのに……ブツブツ……」


「ん? 何か言った?」


「いえ、何でもないです///」


 ラッテが持ってきてくれた料理は油で揚げた肉と野菜を炒めた炒め物、果実が練りこまれた生地で作られたパン、それに魚介をすりつぶして団子状にしたものが入った野菜スープ。

 どれも居酒屋メニューなので少し強めの味付けでお酒を飲みたくなってくる。


「一本だけ……」


 我慢できずに冷蔵庫に入っていたビールを取り出す。


「先生、私もいいですか?」


「珍しいね、何を飲む?」


「あの果実のシュワシュワする奴で……」


 ああ、ストロング○ロね。ラッテさんお酒強いから……


「お疲れさまでした」


「お疲れ様です」


 缶ビールもグラスに移すと結構雰囲気が出る。

 町で出すお酒は日本産ではなく皆が苦労して出来上がった果実酒が多い。

 ビールっぽいものも少しづつ出来てきて地ビールっぽい味わいで面白くて嫌いじゃない。

 作り方自体は資料がしっかりとあるから、きっとすごくおいしいお酒ができるだろう。


「先生って、なんていうか鈍感ですよ」


「おおい、いきなりひどいな」


「その、町の女の子でいいなって思う子はいないんですか?」


「いやー、なんていうか、患者さんだし。

 それにほら、俺人間だしみんなの恋愛対象にならないんじゃない?」


「そんなことないですよ!!」


「お、落ち着いて……」


「先生結構人気あるんですからね! 自覚してください!」


「そうんなだ、いや、嬉しいけど実感が……」


「先生は獣人だからダメなんですか?」


「いや、だめって言うか、なんていうか、動物的な外見だと、こう、女性的なというよりは動物としての可愛いなぁ~~って気持ちが勝っちゃうんだよね……」


「やっぱり先生はカグラさんみたいな人間の女性が好きなんですね!」


「いや、まぁカグラさんは女性として素敵だとは思うけど、神様の「素敵だと思うんですね!!」


 酔ってるなラッテさん……


「ああ、ええ、まぁ、はぁ」


「あー、そうですか! そうなんですか! そうなんですね!!」


 なんか今日は妙に絡んでくるラッテさん、それでも一緒にゆったり飲む機会も少なかったので楽しくお酒をいただいた。

 途中で何度か状態を監視しながらゆったりと飲んでいたらラッテさんが舟を漕いでいた。


「ラッテ、家まで送ろうか?」


「……大丈夫です……」


 眠そうに眼をこすってる姿は本当に可愛らしい。

 思わずその毛並みを撫でてしまう。


「先生……ずるい……」


 あっという間にすやすやと寝息を立ててしまうラッテ。

 昔から動物を撫でるとあっという間に懐柔して寝付かせてしまう半ば特技を持っている。

 思わず撫でてしまったけど、悪いことをしたな。


「とりあえず仮眠室に寝かせてあげるか……」


 ラッテを抱き上げて仮眠室のベッドに横にさせる。

 ラッテは気持ちよさそうに眠っている。


「いつもご苦労様」


 俺は心からの感謝を告げて、扉を閉める。

 

 流石に少し疲れていたのか、早朝、病院を出て進化の神殿へ行く人影に、気が付けなかった。

明日も18時に投稿します。

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