第29話 ヌクヌクの終わり
今日は祝日なので10時と18時に投稿します。
その日もいつもの日常が始まるとすっかり油断していた。
いつものように朝起床して、前日のカルテと今日来院予定のカルテに目を通す。
そしてパソコンで国内と隣国を確かめる……
「なっ!」
オーガとの国境付近に動きがあった。
どうやら国境付近に砦を築くつもりのようだった。
大柄なオーガたちが巨大な木材や石材を担いでいたり集団行動を取っているのが見えた。
ゴブリンと比べると体も大きく力も強い、この間のコボルトとの戦争? から時間がたち、とうとうゴブリンの国を落とした俺たちを警戒し始めたようだ。
下働きにゴブリンがチラチラと見える。もしかしたらそこら辺から俺たちの情報も流れているかもしれないな……
「仕方ない、対策を話し合わないとな……」
朝食を準備して、朝の8時を超えた時点で病院の前に設置してある鐘をカーンカーンカーン。と3回鳴らす。これは話し合いたいことがあるので集合してほしいという合図だ。
遠くで同じような鐘の音がする。気が付いてくれた人の返事でもあり、広くなった村、もう町と言ってもいいかもしれないけど町にちゃんと響き渡るようにしている。
「先生! 何かありましたか?」
「うおっびっくりした! ラッテか……ほんとに忍者みたいになってきたね」
いきなり気配もなく現れたラッテに驚いてしまった。
ラッテは白い毛色にとても良く合う紺色の着物に似た服を着ている。
今この村では和装ブームが起きていた。俺もいつもの白衣、ケーシーではなく甚平を愛用している。
食料品ダンジョンのおかげで動物由来の素材が増えて、服飾関係も発展している。
製造系のクラスも存在していて、たぶん製造系レベルも存在している。
今では各方面の親方的な技術者も生まれている。
戦うだけじゃなくて、生活を支えたり、戦う人々をサポートする人だってたくさん必要だ。
「いや、オーガの国に動きがある。まだ急ぐようなことじゃないけど、対応は話し合っておかないとね」
「とうとうですか……」
ラッテさんが指をぽきぽき鳴らすと、背筋がゾクッとする。
戦闘の時のラッテさんは本当にすごいからなぁ……
その後、続々とメンバーが集まってくる。
皆流行りの和装に身を包んでいる。動物たちが人の服を着ているだけでも可愛いのに、和装だと破壊力が高い……
最近体つきがしっかりしてきたベイオ君はゴールデンな毛色とさわやかな水色の着流しがとても上品な雰囲気を出している。奥さんに子供もたくさんいるけど彼が歩くと周りの女性陣が色めきだつ。
ラージンは黒に近い毛色に黒と金の刺繍入りの着物、とがって傾いているけど、本人はクール系なのでかっこよさが際立つ。実は愛妻家で子煩悩なのは有名で、子供いじめた子供に本気で討ち入りを仕掛けようとして部下に止められた話は有名だ。
トラ族のガイア君はその鍛え上げられた肉体に赤い浴衣を身に着けている。まるで相撲取りのように立派な姿に思わず抱き着きたくなる。ウサギ族の女性に惚れているのはみんな知っているが、自分だけは誰にもばれていないと思っている可愛い一面もある。
パーシェット君は真っ白な着物だ。気品さえ感じてしまう。いつも沈着冷静でお酒を飲むと笑い上戸になるギャップにたくさんの女性がやられている。でも、愛妻家だ。
技術職の代表としてネコ族のミーヤさんが来ている。華やかなピンク色の着物がとてもよく似合っている。すれ違う男性陣が熱い目線を送っている。現在この村で嫁にしたい女性No1。ラッテがいないと妙に距離が近い困った女性だ。ほかの男性がすごい目で見てくるんだよ……
「さて、今日集まってもらったのはオーガ国の動きにどう対応するかを話し合うためだ」
円卓につくとガウスがお茶を出してくれる。
ガウスは和装ブームに流されずに執事服を堅持している。
仕事着ですから、だそうだ。
いくつかの写真をプロジェクターで映し出す。
パソコン周りのアイテムも増えてきた。
皆は真剣にその画像を見つめている。
「国境付近の防備を固めるつもりなんですね」
「あんなガタイしてるからもっとおおざっぱかと思ったら、しっかりやるじゃねーか」
「ガタイと考え方は関係ないと思いますけど……」
「おっと、確かに。失言だったスマン」
「いえ、ただ、これ放置しておくのはよろしくない気がしますね」
「ガイア君の言う通りだね、砦を築かれれば要所を攻めるという戦闘が必要になる。
我々は守戦には長けているが攻勢はに出るには人的要因が不足している」
「うちらもいろいろと作ってはいますけど、使う人数はそんなに簡単には増やせませんから」
皆の意見はなんとなく一致している。
砦ができるのを静観するのは得策ではない。
ただ、攻め入るのは不安がある。
俺と同じ意見だ。
「そうなると、こちらにリスクがない程度で、けん制する感じですかね」
「嫌がらせするってことだな」
「それしかないかなぁって思うよね。ただ、相手の攻勢を呼ぶかもしれないことは考えて動かないとだめだと思う」
「先生の例の力で砦の下でも崩せばいいんじゃないですか?」
「いや、敵国の場合相手が自分の領地って考えてるとそれはできないんだ」
「うちの国に入り込んでも陣とかを奪い取れないんですよね」
「そうなんだよ。他人の所有物はしまえないんだ」
「なるほど……」
「まぁ、木造建築しかできないみたいだし。
あれならうちの火計は防げないから準備して動くしかないのかね……」
「平和な時は数か月で終わりですか……」
「やっと町の防備が終わったと思ったら……今度は犠牲者を出来る限り減らす!!」
それから、もし敵が勢いのまま攻められた場合の戦場の準備など、ある程度戦に向けての話し合いが進められていく。
なかなか穏やかな内政タイムは送らせてくれない。
弱小国家で始めるシミュレーションゲームあるあるだ。
次は18時に投稿します。




