第25話 今後の展望
今日は土曜日なので10時と18時に投稿します。
「さてと、オーガとコボルトの戦争は終わったみたいだ。ただ、両国とも消耗が大きい、うちに攻めてくることは無いだろう」
「新たに隣接した国家は?」
「北の国家だね、湖と沼地が多い国でリザードマンの国のようだ」
今更ながら現状確認。
最初に降り立った地は南と西をとても生物が生活できない山岳地帯に覆われており、北、北東、東をそれぞれゴブリン、オーガ、コボルトの国によって囲まれていた。
北のゴブリン国の母魔石を奪ったおかげで、我がアニステスは北に領地を伸ばした。
東をオーガの国、北にリザードマンの国という位置関係だ。
神の目は隣の国までしか見えないという制約があるので、北の国の情報は最近手に入った。
「あと、他の国家でゴブリンが奴隷に近いような扱われ方で生活している。
どうやら国を追われると文化や知恵などを失って一般モンスター扱いになるみたいだね」
「この世界で暮らしていく上での厳しい掟のようなものですね。明日は我が身だ……」
そう、ベイオの言う通りだ。あともう少しで滅びかけていた獣人と同じ。
いつ何が起きてもおかしくない弱肉強食の世界なんだ。
「皆さま、お茶が入りました」
ガウスは執事として俺の世話をしてくれることになった。
人の姿はNPCだけなので、そばにいてくれるとなんとなく落ち着く。
もふもふ祭りもいいんだけど、俺だけ違う姿なのはやっぱりちょっとだけ居心地がね。
気も効くし、なんでもこなす。最近はラッテにいろいろと乞われて教えているようだ。
「さすがに次の戦争をすぐに開始するわけにはいかない。
国土に比べて人口が少なすぎる」
「今回もほぼシタラ先生のお力で勝ったようなものですからね」
「土掘って壁を作るだけでもとんでもない力だかなぁ……国境線沿いに全部作るかも考えたけど、無駄に他の国を刺激するよね……」
「生活するエリアだけしっかりと守りを固めて、周囲からの侵略にはできる限り早く気が付けるようにして、生活基盤を安定させる。と言ったところですかね」
ラッテが要点をまとめる。
結局、戦後処理は内政となる。
「仕方なかったけどモニュメントを建てた3か所を町の予定地にしようか」
「設楽様、モニュメントは今は3つしか建てられませんが、仕舞えますよ?」
「マジでか!!」
ガウスの言う通り、モニュメントは収納できた。
これで再設置も可能だ。やったぜ。
まずはゴブリンの首都跡、それに最初の街をメインに開発していく。
ダンジョンを中心とした物資の充実、それに食糧事情の改善だ。
「そういえば神の像があったな」
この神の像、これもチート系アイテムだ。
設置すると足元にある水場から水が供給される。
水源のない土地だろうがこれで解決だ。
ゆくゆくはゴブリンの跡地で利用予定としている。
本格的な首都もあちらにしたほうがいいだろう。
「今の街も区画整備をしたほうがいいかもしれませんね、人も増えますし」
それからみんなと都市計画を話し合うことになる。
いろいろと話しているとらちが明かなくて、暇そうにしている人たちを呼び入れてみんなの要望を聞く会に変化して、食事の差し入れなんかが来て、お酒が入って、宴会になった。
「ちょっと仕事してから飲むよ、みんなで話し詰めてて」
俺は少し抜け出して病院に戻る。
落ち着いたとは言ってもまだまだ入院患者はいるから。
「今日の診療は大丈夫だった?」
「はい、今日は目立ったことは無かったです。入院されている方々も調子いいです」
まとめられたカルテに一通り目を通しながら病室へと向かう。
病院で働く人も増えた。みんな一生懸命勉強してくれて本当に助かっている。
さすがに手術は俺しかできないけど、ラッテをはじめ数人は見事に助手を務められる。
いつの日か獣人によるお医者さんも出来るといいな。
「ふぅ、重症だったみんなももう一般外来で大丈夫そうだね」
「外の騒ぎを恨めしそうに見てますよー」
「わかったわかった全員退院でいいぞー」
病室の奥から歓喜の雄たけびが聞こえる。
「お酒は……ほどほどにな~」
遠くで可愛らしいはーいって声が聞こえる。
退院後の内服や外用薬など、カルテに記入をして作っていく。
こういった作業は俺しかできない、これ、どうするかねぇ……
看護師が呼んでくれた家族と一緒に笑顔で退院していく村人たち。
この瞬間は何度味わってもうれしいもんだ。
後片付けをして、今日のカルテにもう一度目を通して、よし、問題ないな。
俺も再び宴会会場と化した集会場へと戻ることにする。
「あら、先生。先生も飲み会へ?」
病院を出るとネコ族の女性、名前はミーヤさんだっけかな? とバッタリと会った。
「飲み会へ、はは、まあそうですね。一応名目は村の今後を話し合う会なんですけどね」
「そうでしたね、私もご一緒させてくださいね」
するりと俺の腕に手を回してくるミーヤさん。
見た目は青に近いシルバーの美しい毛並み、ロシアンブルーにそっくりだ。
診療においては実はちょっと身構えてしまう、今もこっそり緊張してしまう。
ロシアンブルーの猫さんは、なんというか家族以外にきつい子がやや多いのだ。
看護師さんも獣医師も傷の一つくらいプレゼントしてもらったことはあるだろう。
この世界では関係はないみたいだけど。
「あら、先生。彼女さん見つけたんですかー?」
「いや、いや、偶然一緒になっただけでー」
「え? 先生まだご結婚されてないんですかぁ~? え~こんなに素敵なのに~」
古巣のネズミ族の肝っ玉ねーさんに茶化されてしまう。
ミーヤさんもくねくねと体を寄せてくる。
すりすりしてくる猫ってかわいいよね。
「ただねぇ、先生。それ、ラッテに見られたら、明日訓練で血を吐くことになりますよ」
急に冷徹な声で忠告されて思わず手を放してうずくまってしまう。
「うう、訓練、血反吐……いやだ……」
「せ、先生大丈夫ですか?」
「ほーら噂をすれば……」
「設楽先生お帰りなさい、あら? ミーヤさんでしたっけ?
先生と偶然ご一緒になったのですか?
もう中でみなさんお待ちですよ、どうぞお先に中へ」
俺の悪寒がより一層強くなったのはなぜだ……
「あはは、せ、先生お先に~」
するりとミーヤさんは死地から抜け出してにぎやかな会場へと入っていく。
「な、なんか怒ってるラッテ?」
「怒っていません」
「ははは、そうだよね、怒られることもしてないもんね」
「あ?」
「いや、なんでもありませーん」
俺は逃げるように集会場へ突入して一気に置いてあった酒を飲みほした。
今日は、飲んでしまいそうな気がする……
次は18時に投稿します。




