第24話 仲間が増えた!
いつもの病院見回りを終わらせるとラッテがお茶を入れてくれていた。
「先生すみません、いつも負担ばかりかけてしまって……」
「なーに言ってんのさ。みんながいなかったら今の状況どうにもならなかったよ。
おかげで全員状態も安定してきたし……そもそも、戦争からそのまま治療から看護までとかありえない激務だったんだから、俺からかける言葉は一つだけだよ。お疲れさまでした」
「せん……せい……」
ラッテが泣き始めてしまった。うーん。女の子の涙は慣れていないので苦手です……
なんかに頭をポンポンしろって書いてあったのでそうしてみる。
フワフワして柔らかい毛並みが気持ちい。
ぽふっと抱き着かれてしまった。
「少し、このまま……」
戦っていると本当に頼りがいのある戦士のラッテも、こうしているとただの可愛い小動物だなぁ。
「……先生……全然何とも思ってないでしょ……」
「え? いや、毛並みがきれいだなぁってゴフ!」
「バカ! 先生はやっぱり大馬鹿です!」
「ご、ごめんよぉ……」
「はぁ、ドキドキして損した……」
「ん? なんか言った?」
「何でもないです!!」
日常を取り戻しつつあった。
経過が心配だった患者も皆落ち着いてくれた。
これ以上犠牲を増やす事が無かったのは俺の心を救ってくれた。
名誉の戦死を遂げた家庭には俺と隊長格がそろって報告に行った。
厳しい時代を共に過ごした人々だからか、子と家族を守ってくれたんですねと受け入れる家庭が多く、そのことに俺自身は驚いていた。
平和な世界に住んでいた自分としては、死は巨大な壁となって乗り越えるものというイメージだった。
もちろん、死、命が軽いわけではないというのはわかる。
しかし、普通に暮らしていても近くに死が存在する生活を送っていたこの世界の人々は、ずっと死を受け入れる準備が出来ているんだなと感じた。それがいいことなのか悪いことなのか、きっとどちらでもないのだろう。もちろん、死なんてものは老衰以外はできる限り近くにないほうがいいに決まっている。
犠牲者が眠っている村を一望できる高台に花を添えて、今日の式典に向かう。
ようやく戦後のごたごたが収まって、戦の勝利を祝う宴が開かれることになった。
ついでに先延ばしにしていたボーナスも受け取り、新人歓迎会も兼ねる予定になっている。
「それじゃぁ、ランダム3種族復活!」
パソコン上で点滅している表示をクリックする。
間もなくして村に来訪者が訪れる。
その数30人。
「我が種族を蘇らせていただいたことに感謝を」
「よろしくお願いしますニャ。シタラ先生」
「これよりは我らの爪と牙を皆を守る剣となりましょう!」
どうやら復活の時に神様から簡単な説明を受けてきているらしい。
アフターケアが丁寧だよね神様。
復活した種族は、ウサギ族、ネコ族、トラ族。
ネコ科に偏ったな。うれしいけど。
ネズミとネコが仲が悪いとかそういうことは全くないそうでした。安心。
しかし、見るからに戦えそうなトラ族。この加入は大きい気がする。
見た目はちょっと怖いんだけどね。
ネコとほんの少し違うだけなんだけど。
それにしても、ネコ族は見慣れているから目の保養になる。かわいいんですよ。
こうして、3種族は我が国の国民となる。
「それでは、とうとう我が国がきちんとした国土を手に入れたことを、そしてその戦いの勝利に貢献して犠牲になった英霊たちに感謝を。そして、この時をもって獣人の国アニステスを建国する!」
ゴブリンの国、元の名をファステスというらしい。
そこに獣人の国だからアニマル的なニュアンスでアニステス。
この異世界での国盗り、本当の始まりが今日から始まる気がする。
「今日はできる限り、この世界で皆さんが育てたもので料理を作ってあります。
0から始めたこの世界での足跡みたいなものだと思う。
みんなで感謝してあじわって、そして、明日からも力強く生きていきましょう!」
俺のあいさつで宴は始まる。
新しい住民も共に食事をして、酒を飲み、話すことですぐに受け入れられることだろう。
すでにみんな楽しそうに囲まれている。
どうやら女性のネコ族さんは男性陣に大うけのようだ。
以前も話したかもしれないけど、異種族間で子をなすと子供はどっちかが出る。
ネコ族とイヌ族が結婚すると子供はイヌ族かネコ族が生まれる。
混じることはない。
「どうしたんですかニヤニヤして」
ラッテが食事を持って隣に来る。
「いや、ネコ族の女性は随分とモテるなぁと思って」
「そうですねー、とっても可愛らしい方が多いですよね……
せ、先生もやっぱりネコ族の女性みたいに可愛らしい女性が趣味なんですか?」
「んー? ネコはみんな可愛いよね」
「え?」
「ん?」
「だ、男性でもいいってことですか?」
「見た目とかしぐさは男女関係なく可愛らしいよねって意味だよ?
個人的にはトラ族の人と話してみたいなぁ、間近で見ることなんて初めてだから。
ウサギ族も可愛いと思うし。みんな素敵だと思うよ?」
「ふ、ふーん。そしたら私なんて……どんなふうに、見えるのかなーなんて、気になったり……」
「ラッテ? ラッテは今回の戦いでもその後の治療でも本当にいてくれてよかったよ。
一番頼りにしているから、あんまり無理しないで休む時はしっかり休むんだよ」
「い、一番頼りに……いてくれてよかった……」
突然手に持つチューハイを一気に飲み干すラッテ。それ氷結ス○ロングだからあとでがつーんとくるぞー。この世界の獣人さんはアルコールもいける口です。
もちろん飲みすぎはよくないです。そういうとこは微妙に人っぽくて動物っぽくない。
作りとかは動物そのものなんだけど……
「?? ラッテさーん?」
「設楽様!」
「は、はい!? ってうわ!?」
正面を見たらトラが並んでいてびっくりした。
「我ら、本日より貴方様の剣となります! どうかよろしくお願いします!!」
体育会系だなぁ。10名がびしっと頭を下げる。
「ああ、よろしくね。俺はただの医者だから君たちみたいに強い人が来てくれて助かる。
神様を敬って、獣人同士を大切にしてお互いに頑張っていこう」
「はい!!」
いやー。トラだな。完全に。
「あのさ、ちょっと触っていい?」
「は! もちろんであります!」
うおー、筋肉の密度がすごい!
でも、ネコっぽいしなやかさもある。耳の後ろとか気持ちいのかな……?
「あっ、設楽様そこは……あ、その、わ、私も女ですのであまり皆の前では……」
「ああああ、ご、ごめん!!」
すっごいジト目でラッテが見てくる。反省。
それから代わる代わる新しい種族の人々や隊長、それに村の皆が挨拶にきて自然と俺も村人の輪の中に入っていく。
皆の喜んでいる姿を見ると、単純にうれしい。
この笑顔を守ってあげたいと思うし、より多くの滅んでしまった種族にこの楽しさを味わってほしい。
そのために、俺は自分のできることをしっかりやろうと改めて心に誓う。
住人の増加は、俺にとってもう一つ大変な仕事を意味している。
「うさぎの診療、ウサギとフェレットの診療指針、動物園診療の指針、あとは海外文献かぁ……専門書も買えて助かるけど、こりゃ大変だ……」
獣人はあまり種特異性が出ないってのは今までの生活でわかっているから、深く考えなくてもいいんだけど、知っていて気にしないのと、知らないことは天と地ほどの差がある。
増えた獣人の動物種の勉強が大変なのだ。
「先生! 狼達が下痢してる!」
「ああ、わかった。取りあえず下痢持ってきて!」
ゴブリン達が飼育していた狼達、アンモニア臭から回復した子たちを飼育している。
すぐに獣人たちに心を開いてくれて、たぶんゴブリン達よりも優しい彼らに喜んで従ってくれそうだ。
動物への当たり前だった医療行為が、昔の感じで懐かしささえ感じてしまう。
結論としては環境の変化と、今までとの食性の変化による下痢だった。
やることは山積みだった。
明日は土曜日なので10時と18時に投稿します。




