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第22話 ゴブリンの国

「けが人はすぐに名乗り出ろー! このまま夜明けとともにゴブリン国を獲りに行くぞ!」


 これだけ圧倒的な数の差のある戦争を行ったにしては、奇跡的な少数の被害で済んでいた。

 しかし……被害は0ではない。


「……勇敢だったな……」


 死者12名。重傷者24名。軽症者73名。

 ラッテ隊、ラージン隊からそれぞれ5名、ベイオ隊からも2名の犠牲者が出てしまった。

 重傷者は、裂傷、骨折、重度打撲など、すぐに緊急の処置を行って安静にさせる。

 

「もっと、犠牲を減らす戦い方もあったんだよな……」


「先生から言われたような戦いは、戦いじゃありません。

 あんな戦いをしては、だれもついてこなくなります」


 硫化水素を用いたり、壁の内側に入った時点で灯油を大量に取り出して火をつければ、それで終わりだっただろう。

 しかし、彼らは、最後は自分自身の手で戦い戦闘に勝ちたいと申し出てくれた。


「せめて、もう少し戦闘中に治療が行える余裕があれば……」


「先生」


 ラッテのほうを向くと両方の頬を挟むように叩かれた。


「それ以上は、死んでいった私やみんなの部下に対する侮辱になります。

 あの状況下で先生はできる限りの策を考えて、そして最前線で実行してくれました。

 勇敢に戦って散っていた仲間のためにも、後悔しないでください」


 その通りだ。

 俺は、もう一度勇者たちの遺体に手を合わせた。


「彼らに報いるためにも、ゴブリンの国。必ず手に入れるぞ」


 それから、残った兵力、250名ほどを編成して、ゴブリン国中央部へ歩を進めた。

 途中、陣では残存した兵が残っていたが、他の戦力の壊滅とゴーゼムを討ったことを伝えると、抵抗することはなかった。

 牢を作り拘束しておくことにする。

 

 ゴブリンの国もそれほど大きな国ではない。獣人の国との国境部分から行軍スピードで2日ほどで王都へと到着する。

 王都と言っても、石造りの簡素な建物がまとまって存在しているだけで、城壁があったりするわけでもない、木で作られた柵がせいぜいだ。

 魔物たちの生活は、ゴブリンに限って言えばそこまで文化的とは言えない。


「ゴブリンの国に告げる。我が国に攻め込んできた貴方たちの軍はすべてわが軍が討ち果たした。

 ゴーゼム将軍も討ち取った。これが証だ」


 俺の隣でベイオがゴーゼム将軍の兜と鎧を担ぎ上げる。


「歯向かえば容赦はしないが、歯向かわなければ民衆には手を出さない。

 この国に王がいるなら、国を明け渡すか決めてほしい。

 もちろん、明け渡せないということなら実力で手に入れる」


 拡声器で王都に語り掛ける。

 しばらくするとゴブリンの集団が町から逃げ出していくのが見える。


「先生、追いますか?」


「いや、俺たちに多くの捕虜を養う余裕もなければ、管理する能力もない、逃げるものは追わないよ」


「どうしましょう? 交渉できるようなものは現れませんね」


「仕方ない、注意して進もう……ほんとはこういうのは嫌なんだけどね……」


 パソコンで確認しても兵が町中に配備されていないのはわかるが、巧妙に隠されていたらわからない。

 あくまでもこっちで用意した戦場で戦ったからこそ俺たちは勝てたんだ。

 こういう敵国に攻め入るのは非常に不安だ。


「誰も……いないですね……」


 俺の不安をよそに、街の中は人っ子一人いなかった。

 もしかしたら逃げ出した集団がこの街の住人のすべてだったのかもしれない。

 想像よりも人口は少ないのかもしれないな……


「しかし、建物の中は別問題、最大限の注意を払え」


 城と思われる最も大きな建物に侵入する。

 ラッテ隊が先行して罠の存在や伏兵を調べて慎重に進む。


「先生、どうやらこの部屋以外だれもいません」


 ラッテが最奥の扉の前で待っていた。

 本当に首都からゴブリンが一匹残らずいなくなっていることなんてあるのだろうか?


「この部屋には誰かいるの?」


「動く気配を感じて皆さんを待ってました」


「それならば私が様子を見ます」


 ベイオが盾を構えながら慎重に扉を開ける。

 中をうかがいながらベイオが部屋に侵入していく。


「どうやら、先生を持っている人物がいるみたいです」


「俺?」


 俺たちは安全を確認したベイオと一緒に部屋に入る。

 部屋の中央には大きな王座と思われる椅子が置かれた広い部屋だ。

 床にはまるで魔方陣のように紋様が刻まれている。

 そして、その王座の脇に一人の男が立っている。

 その姿はゴブリンなのだが、どうみても燕尾服を着ている。


「この国の王を倒したのはあなた方ですね?」


 その人物が口を開く。


「王? この国の王はもしかして……」


「この国の王はゴーゼム様です。その王を倒したのはそちらの獣人の女性ですね」


「私は設楽先生の部下。王を倒したのは設楽先生だ」


「さようでしたか、失礼いたしました。それでは改めましてシタラ様。

 貴方はこの国を手に入れる権利があります。

 その手続きを行いますのでどうぞこちらに」


「えーっと、ところであなたは?」


「おお、大切なことを失念しておりました。このような事態は久しぶりだったもので。

 私はこの国、ファステスの母魔石を管理する執事バトラーガウスと申します。

 設楽様にわかりやすく言えばNPCです」


「わかりやすいね。なるほどね。それで母魔石というのは?」


「こちらです」


 ガウスが王座触れると、王座が後方へ移動し、地面に描かれた魔方陣の中央部分から巨大な魔石がせりあがってくる。


「こちらがこの国の母魔石となります。どうぞこちらに、マスター登録を行います」


「マスター登録?」


「はい、この国を治める王となる登録です。同時に母魔石を通じて国の設定などを変更する権限が与えられます」


 ゲームっぽいなぁ……


「あれ? うちの国は母魔石なんてないぞ?」


「詳しくはわかりませんが、隣国、空白地のはずですが、そこに母魔石を用いた国家は存在しません」


 なるほど、うまみのない空白地だから放っておかれたんだろう。

 ガウスに導かれて母魔石の正面に立つ。

 でかい! 不思議な光を放ちながら美しく浮遊している。


「それでは手をかざしてください」


「はい」


 俺が手をかざすと魔石は真っ白な光り輝く石から、美しい青い色へと変化する。


「終了です」


「これだけ? って、ガウスは姿を変えられるの?」


「はい、お好みの姿に……」


「あー、じゃあこんな感じで」


 俺はガウスの姿を人間の男性に変化させる。

 ゴブリンの姿が光に包まれると、あっという間に燕尾服の良く似合う少しきつそうな男性の姿になる。

 

「改めまして我が王よ。ご着任おめでとうございます」


 周囲の仲間が激しく拍手をして祝福してくれる。

 あまりにもあっさりしていたが、こうして、俺は、初めて国を手に入れた。

 

 しかし、大変なのはここからだった。

明日も18時に投稿いたします。

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