第21話 光と闇
防壁を抜けるとすぐに決められていた通り防壁沿いに作られた塹壕へとバギーを収納しながら飛び込む。
背後の通路には木串を取り出して閉鎖していく。
これでこの塹壕は以前と同じような落とし穴の罠に見えるだろう。
パーシェット隊、弓部隊は防壁の上に展開しつつある。
俺も急いで防壁に登っていく。
ほんの一呼吸おいてゴブリンが壁至近へと到達する。
「撃て撃て撃て―!!」
拡声器を通じて迫真の演技で防壁外へのゴブリンに向けた弓による攻撃が演出される。
壁に接近したゴブリン達は、俺たちが必死に壁の中へと通らせないために抵抗していると考えて、壁の中へと殺到していく。
もちろん、壁の中は、俺の罠の中なのだが……
ゴブリン部隊が壁の中に入ったことを確かめて、俺は最後の仕上げをする。
防壁の隙間に大量の土を取り出す。
これで、ゴブリンの帰路は完全に断たれる。
【な、なんだこれは、どうしたというのだ? だれか報告しろ!!】
「ゴーゼム様! 左右は例の落とし穴の罠が!! 背後は突然現れた壁に阻まれました!
そして……敵の姿が見当たりません!!」
【おのれ……またしても嵌めたなぁシタラぁ……!!】
「悪いね」
俺は壁の上からゴーゼムに挨拶をする。
壁のこちら側は完全な闇、薄い星明りだけ、下から見上げても俺の姿は影としか映らないだろう。
【降りてこいシタラ!! このような戦い! 戦いと言えるかぁ!!】
「数で劣る俺たちが必死で考えた作戦だ。これも戦いだよゴーゼム将軍。
一応聞くけど、降伏をお勧めする。我々は君たちを完全に葬る準備がある」
【馬鹿を言うな! 我らはこのままお前らの国を亡ぼすまで、決して止まることはない!!】
「そりゃそうだよね……では、さらばだゴーゼム将軍!」
おれは手を挙げて、最終作戦を決行する。
真っ暗闇だった空間に光が、あまりにまばゆい光が四方からゴーゼムたちを照らし出す。
【ぐおっまぶしい!! 目が目がぁ!!】
笑ってしまうほどまぶしいLEDライト、それに自家発電装置が一気に稼働し始めた。
直視すると冗談じゃないほどまぶしいこのライトを特殊工作部隊と呼んだ非戦闘員たちに準備してもらった。
「今だ!! 突撃!!」
防壁と反対側からベイオ率いる部隊が襲い掛かる。
ゴブリンからすれば逆光での戦い、そこに隙間なく配置されたベイオ達槍衾部隊。
少数が多数に勝つには、戦場を限定して多数を一度に相手をしないようにすればいい。
さらにパーシェット隊が防壁の上から弓を射かける。
渋滞状態の場所に集中して矢の雨が降り注ぐ、槍衾で追いやられたゴブリンによって壁側に押し込まれ、塹壕に落ちるもの、味方につぶされるもの、ゴブリンの被害は加速度的に増加していく。
【狼狽えるな! 突っ込め!!】
さすがのゴーゼムの指揮力もこの状況では発揮できない。
気が付けば1000を超えていたゴブリン部隊は半分ほどに減らされた。
「第二段階!!」
俺の指示が飛び、まばゆい光が突然消失する。
今度は暗闇による支配だ。
ベイオ達はその歩みをいったん止めてただ出てきたものを突き返すことに集中する。
せっかく光に順応し始めた視神経が、再び暗闇に慣れてきてしまう。これを暗順応という。
時間にして5分ほど、暗闇に置かれたゴブリン達の目は、再び暗闇に適した状態になってしまう。
「最終段階!!」
再び煌々とした光がゴブリン達を照らし出す。
せっかく暗闇に慣れたゴブリン達の目はすさまじい光によって完全にハレーションを起こす。
これ、攻撃する側も同じことが起きるのではないか? そう思う人もいるだろうが、単純な話だ。
サングラスをつけているんだ。
光が付くタイミングはこちらで操っているので光るタイミングにサングラスをつけておけば、目がハレーションを起こしてしまうことは防げる。
基本的には光源を背に戦っているというのがでかいのだが。
「突っ込め―!!」
左右の塹壕からラッテ隊、ラージン隊がゴブリンに襲い掛かる。
ベイオ隊も歩を進め、ゴブリン達を押し込んでいく。
足場もおぼつかず一方的にゴブリン達は撃ち滅ぼされていく。
【おのれシタラ降りてこい!! その首、俺が討ち落としてくれる!!
出てこいシタラぁぁ!!!】
「ゴーゼム将軍とお見受けする。私はシタラ先生の副将ラッテ。
納得のいかぬ戦いだったでしょう。
最後に正々堂々一騎打ちで武人としての人生を全うさせてあげましょう」
すでにわずか数名のゴブリンと将軍だけになり、勝敗は完全に決している。
悪態をつき、叫び声を上げ続けたゴーゼム将軍への手向けに、ラッテが名乗りを上げた。
【獣人風情が生意気に!! 貴様らなぞ、我ら魔族のおもちゃだったはずだ!
それが、なぜ、なぜこのようなことになっている!!】
「すべては設楽様のおかげ。今までの罪、その身に刻め!!」
勝負は一瞬だった。
ゴーゼムは巨大な両手剣をいたずらに振り回し、ラッテに突撃する。
ラッテは短刀を逆手に構え、その突進にスタスタと散歩をするように近づいていく。
嵐のように振るわれるゴーゼムの剣は空気を裂き、地面を抉る。
ラッテは華麗にその剣劇を避け、あっという間にゴーゼムの間合いの内側に侵入する。
刹那、姿がぶれたと感じると、ゴーゼムの首を持ってゴーゼムの体の背後に立っていた。
【お、の、れ……】
ぼわっとゴーゼムの体は灰へと変化し、空に舞っていく。
戦いの終わりが告げられた。
明日も18時に投稿いたします。