第20話 戦争
「見事に規律を取り戻してるねぇ……」
「仕方ないね、それでもかなりの打撃は与えられた。狼も潰せたし上々だよ」
防壁の上からラージンは敵の持つたいまつが美しく配列していることに感心している。
各隊長にはトランシーバーを与えているので連絡を取り合う。
俺は防壁と敵の陣の間ぐらいで、ラッテ隊と相手の出方をうかがっている。
あのまま俺らを追って、無作為になだれ込んでくれるのが最上だったが、現実はそううまくはいかない。
あの老将ゴーゼムの指揮だろうが、きちんとした編隊を組んで整然と陣営を整えられてしまった。
上空からの視点から敵兵は1500以上といったところか、500名近い敵兵を無力化、一部は陣の後始末だろうが、出来たことは上出来、出来すぎと言っていいだろう。
実際には戦闘不能者は200と言ったところか、陣の火を押さえたら合流されてしまうだろう。
「ほんとは硫化水素とかも考えたけど、こっちも危険だからねぇ」
混ぜるな危険を混ぜるだけで容易に作れてしまう猛毒。
どう考えたって、獣人たちにも被害がでる。
ゴブリンという生物が理解できないから効くのかもわからない。
まさか捕らえて解剖やら生体実験をするわけにもいかない、いくら戦争と言ってもそこまでは俺には無理だ。
「……流石だな、堂々と動かない……これはうかつにえさをちらつかせると腕まで食いちぎられる奴だなぁ……」
堀の罠にもほんの少しは落下したものもいたけど、すぐに対応された。
よく訓練されているな。
「作戦変更だ。パーシェット隊も合流してもらう。
こうなったら文明の力のほうである程度我慢できないほど削っていこう」
罠だけじゃない。俺には強い味方がいる。『通販』通信販売という強い味方が!
ま、罠にも通販先生のお力を多分に使わせていただいておりますが……
俺はアイテムボックスから投石機を取り出す。
簡単なてこの原理を利用したタイプで、重りを乗っけることで逆の先に乗せたものを遠距離にまで飛ばすという簡単な物。
これをいくつも用意して、アイテムボックスに収納しておいてある。
「なんというか、一人軍隊にもなれるよねこれ……」
飛ばすのは、石油を入れたダイ○ロウのペットボトル。
アイテムボックスから取り出していく。
距離の算定はパソコン画面から、何度も実験して飛距離は大体算出してある。
反対側に乗せる重りは、バーベルセット。
普通に持ち上げたらものすごい労力がかかることも、アイテムボックス様の力を使えば、収納、取り出し。ただこれだけだ。
ずらりと並んだ投石機、端からバーベルを取り出す、発射のひもを切る、飛んでいく石油、バーベルをを収納。この繰り返しで敵陣に空飛ぶダ○ゴロウをお届けする。
ダイゴ○ウの大きなペットボトルはすごい勢いで叩きつけられ、破損し周囲に石油を巻き散らかす。
あとはそこに火をくべればよい、しかし、くべる必要もない。
敵が自らの運命に火をつける物を自分の手に持っている。
ドーン!
爆発音とともに、一部の石油に一斉に火が付く。あとは連鎖式に延焼は広がっていく。
そこに俺はさらに石油を打ち込んでいく。
現代社会においては、そこまでの費用が掛からずに用意できるこれらのもの、利用次第で恐ろしい戦争兵器へと変わった。
投石機は木製の模型をもとに作成した、これには獣人の器用さに助けられた。
今頃あの炎の地帯には黒煙が立ち上っているだろう。
炎に包まれる恐怖、しかも、すさまじい勢いで延焼する物質はこの世界には存在しないのではないか?
「よし、完全に混乱している。弓隊! 前進して射掛けろ!」
もくもくと上がる煙の合間に炎に包まれ逃げ惑うゴブリン達の姿がはっきりと見て取れる。
草原の真ん中で消火活動もままならない。
その様子を上空からパソコンで見る。
まさにチーター、俺は使えるチートを全開で戦争を仕掛けている。
【許さんぞシタラ!! 人間ガァ!!】
とうとう敵の我慢も限界だったようだ。ゴーゼムの怒り狂った声が戦場に響いた。
俺は撤退の合図を出す。ようやく敵が餌に食いついた。
殿で防壁に引く俺は、さらに収納で道にいくつか落とし穴を作る。
地下の土を抜くだけだ。そこに木串を取り出す。
サルでも一瞬でできるアイテムボックスチートを利用した落とし穴の完成だ。
収納や取り出しに関しては、もうそれこそ星の数ほど鍛錬を繰り返したプロだからな俺は。
案の定追ってくるゴブリン部隊は次々と落とし穴にはまっていく、しかし、敵の怒りは尋常ではなく、串刺しにされた仲間を踏みしめて全速力で追ってくる。
その姿はまさに魔物。俺はそういう存在相手に戦争を仕掛けたんだな。
「今は全速力で引け―!! 追いつかれればおしまいだー!!」
わざとらしく拡声器で皆に指示を出す。これも作戦のうち。
「打つなー!! 味方に当たる!! 味方が防壁内に入るまで打つなー!」
防壁の上でも同じように拡声器で指示を出している。ふりをしている。
【勇敢な同胞よ! やつらに弓を撃つ間を与えるな!
我らが剣で、槍で、咢で、小賢しい獣人どもと人間を食いちぎってやれ!!】
ゴブリン達は全力を振り絞って最大速度で俺たちに接近してくる。
隊列もなにもない、狂乱にもにた突撃だ。
だが、それが恐ろしい。
「ラッテ隊、防壁ライン突破! すぐに配置につく!」
「同じくパーシェット隊、作戦Cだ。防壁を超えたら所定の位置へ!!」
これは本命の命令。トランシーバーを使って隊長同士がタイミングを合わせて部隊全体に指示を出す。
日頃の訓練の成果で、今のところ脱落者はいない。
「殿、設楽! 防壁ライン突破! 最終作戦へ移行する!!」
すぐ後ろには怒涛のゴブリン軍が防壁の隙間に殺到している。
最終作戦が始まろうとしている。
明日も18時に投稿いたします。




