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第2話 これが、異世界

「どこだ、ここ……俺どうなったんだ……?」


 あたりを見回しても、恐ろしいほどに何もない。

 自分の体以外、一切の異物が存在しない白一色の世界。

 その異常な世界がだんだんと恐ろしいものに感じてくる。

 いかに自分がこの世界において異物なのかと考え始めてしまう。


『いやー、ごめんごめん。遅くなった』


 突然声がする。それが声なのか、頭の中に言葉が響いたのかはわからなかったが、自分以外の人物による言葉であることは間違いない。


「だ、誰だ!?」


『神だよー』

 周囲を見渡しても誰も見当たらない。 


「かみ……?」


 軽すぎないか?


「ってことは、俺は死んだんですか?」


『半分は正解。半分は不正解。

 君はこれから死に行く運命にある。ってのが正解』


「死に行く……」


『クタクタにくたびれた君はあの坂道を無理して自転車で昇ったよね?』


「ええ、はい」


『坂を昇り切った時に脳の血管がぷっつりいって、転倒してガードレールに頭を打ち付けて死ぬ予定なんだよ』


「……なんていうか、寂しい最後ですね」


『実にもったいないのじゃ』

  

 その言葉と同時に俺の目の前に光の人影が作られていく。

 真っ白な空間に光で人影ができていくのではっきりとわかるわけではないけど、背の丈は少年のような小さな人型が浮かび上がってくる。


『あまりにもったいなくて、僕が君の世界の神に頼んだんだよ。

 こんなに無駄に死なすなら、うちの世界に招待していいか? ってね。

 そしてたら、本人が良いって言ったらいいよって言ってもらえたんだ。

 だから僕は君をスカウトしに来たんだ!』


 やっと話が見えてきた。

 話が見えてくるのと理解できるのは別の話だけども、まぁ、最初から『神』だもんね。


『そうだよねー、いきなり私が神だとか言われたらそうなるよねー』


「こ、声に出てました?」


『神、だからね』


 ニヤリ。と笑ったような気がした。


「えーっと、具体的には私は何をすればよろしいのでしょうか?」


『あっと、そうだよね。そこを説明しないとね。

 簡単に言えば、僕の世界で君の大好きな戦略シミュレーションゲームをして世界を救ってみちゃわないかい? って話なんだ!』


「さっぱりわかりません」


『いいねいいね、遠慮が無くなってきたね。

 僕もそのほうが楽でいいや。

 僕の世界はね、昔は人間と獣人が仲良く暮らす、剣と魔法の世界だったんだよ。

 ところが、僕がついついほかのことに気を取られている間に、あっという間に敵性勢力としていた魔族にあっさり世界のほとんどを支配されちゃってね。

 バランス調整とかめんどくさいから適当にやったらダメだったよはっはっは』


「つまり、魔族から人間と獣人の手に世界を取り戻す手伝いをすればいいと」


『あ、人間は滅亡しちゃった。テヘペロ』


「め、滅亡?」


『同時に人間や獣人が使える魔法も消失。残った獣人の種族も極わずか、焼け石に水みたいに神の奇跡ポイントを突っ込んだら全部無駄になって枯渇状態。

 正直この状態から復活させるのは丁寧にやらなきゃいけないからめんどく、困難を極めるんだよ』


 今絶対めんどくさいって言ったよね!?


『そんなわけで、君にはこのノートパソコンを通じて世界を救ってほしい。

 信仰ポイント貯めればいろいろコマンドも使えるよ?

 ね、ゲームっぽいでしょ? ちょっと面白そうでしょ?」


 悔しいけど、ちょっと楽しそうだ。

 逆境から逆転は戦略ゲームの華だしね。

 奇跡ポイントとやらも気になる。


『もし滅亡しても別に罰したりはしないよ。

 ただ、君は予定通り死んじゃう。

 もし世界を復興させてくれれば君には元の世界で死なない未来をあげよう』


 そうだ、俺は帰らないと、まだ親父を一人にはさせられない。

 それに来月には待ちに待った大時空銀河帝国大戦15の発売が迫っているんだ!


『ついでに、引き受けてくれればこのノートパソコンでネットとかにはつなげるようにしてあげるし、大サービスで活躍次第でたまるクレジットカードもつけちゃおう。

 がんばれば通販サイトで買い物したりゲームを買えたりする優れもの。

 さらには、世界をゲームっぽく監視できるソフト『神の目』、神の奇跡をポイントで呼び起せる『神の手』をプレゼント。

 さらにさらに、アイテムを無限にしまえるアイテムボックス効果、破壊不能、無限稼働、言語翻訳、鑑定などなどのチート異世界転生能力機能をお付けして、僕の世界にご招待! さぁ、どうでしょう!?』


「受けまぁす!!」


『はい、ありがとうございます! いってらっしゃーい!

 あ、そだ。君の獣医師としての能力が大切になるから、頑張って。

 その腕を十二分に振るえるように必要な道具はパソコンに入れておくから』


「ちょ、さらっと一番重要なことを、ってウワーーーーーー!!」


 突然足元に穴が開いて落下してしまう。

 最後に危険なことを聞いた気もする。獣医師としての能力……一体なにを……

 

 そして俺は、ノートパソコンを片手に、気が付いたらこの世界に倒れていたのだ。

 

「草、土のにおい……」


 目を覚ますと地面に横たわっていた。

 周囲を見渡すと腰のあたりまで草で茂った草原に、まるで広間のように背の低い草と花々が咲いている。

 俺が倒れていたのはその広場の中央当たり。

 周囲にはまばらに木々も生えている。

 自分が大事そうにノートパソコンを抱えていることに気が付く。

 すぐに開いて電源を入れると、いつもと同じように電源が入り起動する。

 見た感じはいつものパソコンと変わらないが、見当たらないアイコンが3つ。


「神の目と神の手、それに大サービスか……」


 試しに神の手を開けてみると、なんというか、戦略系シミュレーションゲームの国別画面みたいなものが現れる。

 世界全体に対して、あまりにも小さな白く光る国。これがきっと自分がいる国なんだろう。内政値なんかも細かくみられるが、絶望しかない。荒地かここは……


「総人口36名って……滅びかけじゃなくて滅んでないか?」


 いろんなデータをヘルプを参照に確かめるが、ため息しか出ない。


「マップを拡大すると……おっ!」


 途中から実写の映像に代わる。

 そして自分の場所を見つけると、リアルタイムの映像を直上から見ていることがわかる。


「これ、すごいことだぞ」


 文明レベル的に圧倒的なチート能力の予感がする。

 

「あとは神の手か……なるほど」


 これは国の発展や信仰心によってたまるポイントによってさまざまな恩恵を受けられるというものだ。

 神獣召喚とかいう恐ろしいものや種族の復活まで様々な項目がある。

 どれくらいポイントがたまるのかが問題だな。


 大サービスはアイテム管理や、こっちの貴重品を通販のマネーに変えることができるシステムなどが統合されたコンソールになっていた。

 ヘルプを読んでいくと、なんとこのノートパソコン俺の魂と結びついているらしく。


「収納」


 この一言で俺の体に吸い込まれる。


「出現」


 元通り手の上にノートパソコンが現れる。

 これはありがたい。

 それからいろいろとパソコンの性能を確かめてみた。

 アイテムは手に触れる認識できる範囲のものをアイテムとして収納可能。

 石だろうが木だろうが収納できた。

 裏技的に木片ってイメージして生えている木から一部だけ木を抜き取るなんてこともできた。これで、木を倒すことも可能だった。

 細かい形で抜き取るのは不可能だった。

 加工とかに使えるかと思っていたが、そうはいかないようだった。


 データなどを含めて周囲の国を眺めていると時間は飛ぶように過ぎていく。

 ふと気が付くと日が傾いて時間がかなり経過していた。


「やばい、今晩寝るとこも決まってないや」


 慌てて周囲を眺めて立ち上がる。

 神の目によって周囲の地形と一番近い村落の場所は確かめてある。

 村に行くには日が暮れてしまいいろいろと説明が難しそうだ。

 仕方がないので近くの崖のある場所へと向かう。


「あった、あった。えっとアイテム回収、壁面の土を回収っと」


 俺が考えるだけで崖の壁面から土が無くなり横穴が生まれる。

 数回土を取り除くと立派な横穴が完成する。

 周囲の土を掘り下げて落とし穴も作る。

 野生動物からの最低限の防御対策だ。

 回収してある木々を利用して火を起こす準備を行う。

 


「仕方がないか……」


 俺は財布に入っている金をノートパソコンに入れてポイントチャージを行う。

 通販サイトでガスコンロに使用するガス缶で使えるバーナーを手にれる。


「文明ってのは素晴らしい」


 神様特製通販で注文すると、なんとアイテムボックス内に即座に納品される。

 すぐに取り出し適当に集めていた木々を組んで火を起こす。


「できる限り最初のお金によるブーストは取っておきたいんだけど……」


 昼に食べた菓子パン以来何も食べていないお腹はぎゅるぎゅると文句を言っている。


「仕方ない……」


 やかん、ミネラルウォーター、カップラーメン(大盛)、食器セットを追加で注文する。

 なんか、焚火でお湯を沸かしていると子供のころのボーイスカウトを思い出す。

 結構大きな焚火を作っていたので水はすぐにやかんから白い息を吹き出し始める。


「……うっまいなぁ……」


 ただのカップラーメンだが、妙においしく感じた。

 ふと空を見上げると、大量の星々が夜空に瞬いていた。


「……緊急事態なんだけど、こんなにのんびり夜飯食べたのはいつ以来だろう……」


 仕事を始めてから食事は、活動に必要なエネルギーを得るためのただの手段と化していた。

 できる限り食事の時間を減らしてゲームや仕事に割り当てて行くのが当然だと思うようになっていたと思い知らされた。

 今は、知らない世界の星空を見上げながら屋外で焚火を起こしてラーメンを味わっている。変な話、それがとても豊かな時間のように俺は感じていた。


「さて、寝るか。布団もないけど、別に慣れているしな」


 着ているダウンジャケットに包まって地面に横になる。

 本当に限界な時は職場の床でよく寝ていたもんだ。

 すぐに眠りについてしまう。


明日も18時に投稿いたします。

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