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第12話 ゲームは一日一時間

 あまりのダンジョンの性能に舞い上がってしまっていた俺は、一旦病院に帰って診察の様子を見たりカルテを整理しながら冷静になる。


「あのダンジョン難易度なら、俺が率先して指揮を取らなくても危険は低そうだ。

 それに、あそこを通してそれぞれの意思疎通や個人で考えられる力を手に入れてもらわないと」


 成り立ち上仕方がないけれども、この村の住人は俺のことを大事に思ってくれている。崇拝しているのに近いといってもいい。

 ただ、俺もそこまで万能ではないので、指示待ち人間を大量に作っても意味がない。

 国盗りを続けていけばいつかは委任していかないといけない。

 そういった人材も育成していかなければならない。


「それに、仕事もちゃんとやらないとな」


 軽症ではあるが、病院にはそれなりに患者が来る。

 日中は病院業務のほうをしっかりとやっておきたい。これは俺の性分らしい。

 さっきあんなに目の色を変えて置いて何言ってんだって話だけども……


「みんなを信頼して任せよう。ラッテー今手空いてる?」


「あ、はい大丈夫です。どうしました?」


「ダンジョンのところへ行って、しばらく俺抜きで攻略を進めるように指示するからこの書類持っていってもらえるかな?」


 俺はダンジョンでの注意点、マッピングの重要性、各自ダンジョン探索で学んでほしいことなどを簡潔にまとめた書類。まぁダンジョン探索のしおりみたいなものをパソコンで作っていくつか作成した。


「わかりました。先生が病院にいてくれると私はうれしいです」


 すっごい笑顔で言われてしまうとますますちゃんと病院業務をやらなければと責任を感じる。


 スタッフが増えてくれたことで病院内での業務もかなり楽になってきた。

 簡単な診察や処置もラッテを中心に可能になっている。

 日本みたいに国家資格が必要だったりはしないから、適切な判断基準に従ってやってくれている。

 神の奇跡なのか、日本の書籍をこっちに買って持ってくると文字を読むことが出来た。

 内容を理解できるだけの基礎知識がないと読めないらしいが、ラッテは熱心に勉強を続けていて、学術書も読んで理解できるレベルに達している。

 

「診療に触れながら勉強をすると、基礎学問もその重要性がすごく理解できて勉強する姿勢も変わるしなぁ、ちょっとうらやましい……」


 獣医師の勉強は多岐にわたる。

 所謂、動物のお医者さんと思われている仕事は獣医師の仕事のごく一部だ。


 小動物臨床。最も普通の人が触れるであろう仕事だ。

 犬、猫を中心としたペットの診療を仕事としている獣医師の事だ。


 大動物臨床。人々の生活に非常に重要な仕事だ。

 牛、豚、鶏、馬など、家畜と呼ばれる大型動物を診療する獣医師。

 人々の食の安全や、珍しいところでは競走馬を診療する獣医師もいる。

 広域では動物園や水族館で働く獣医師もこの範疇に入るかもしれない。


 公衆衛生業務。国民の安全な食、生活を守る大変重要な仕事。

 公務員が受け持つことがほとんどだが、一般企業などにも一定数働いている。

 公衆衛生の維持管理を行う、ある意味国民の命を守る仕事だ。


 教育。大学などで獣医師を目指す学生の教育や、専門的な診断治療、研究分野で働く獣医師。

 明日の獣医師を育成したり、未来の治療や治療の根拠エビデンスのために日々頑張ってくださっているプロフェッショナル集団だ。


 そのほかにも実は獣医師はいろいろなところに存在している。

 人に職業を言うと珍しがられることが多いけど、実は生活に密接に関連しているんだ。


「先生、以前話していたラースラさんがいらっしゃいました」


「おお、了解。そしたら診察室に通して」


 今、俺が行っているのが小動物臨床と言っていいのかはわからないけど、俺ができるのはそこだけだしね。


「こんにちはラースラさん、この間はすみませんでした」


「いえ、先生は手術中だったので理解しています。ただ、もう少し詳しいお話が聞きたくて……」


「いいですよ、なんでも聞いてください」


 こちらのラースラさんはネズミ族の女性で、14人の子供の母親だ。

 お子さんの一人が下痢になって、検査の結果鞭虫症(似てるからそう呼んでるけど、異世界の寄生虫なのかもしれない)と思われて治療中だ。

 病気の特性上、家族全員のケアが必要なのと排泄物の処理などについて看護師が説明したのだが……


「病気にかかっていない子の世話にそこまで労力をかけるのが大変で……」


「わかります。たくさんのお子さんがいらっしゃいますからね。

 ただねラースラさん。この病気はそれをしないといつまでも家族の中で蔓延してしまうのです」


 俺はホワイトボードに図を描き示す。

 簡単な消化器の模式図を描く。


「この病気は寄生虫という小さな目に見えない虫が原因で起こります。

 この虫は胃や腸などで増えすぎたり体調が悪くなると悪さをしてくるのですが、健康だと何の症状も出さないこともあるんです。それでもウンチにその卵が排泄され感染源になってしまうのです」


 それからなるべくわかりやすい言葉と図などを利用して説明をして、さらに病気に対する細かな情報を乗せたペーパーも渡しておく。

 同時に消毒の仕組みや方法も簡単にまとめたペーパーも渡す。


 直接患者と話せる今の状況でそのやり方が正しいのかわからないけど、俺の病院でのやり方はこうだったのでそれを同じようにやっている。

 やっぱり、動物病院の場合、治療してくれるのは飼い主さんである以上当事者じゃない。

 その人に病気を理解して処置の重要性を理解してもらうのには工夫が必要だ。


「ありがとうございました先生! 私、頑張ります!」


「お願いします! 一緒に頑張りましょう!」


 なんというか、一緒に病気を治して行こう! って言う一体感が好きなので、俺は説明をするのは嫌いではない。


 もちろん、いい人ばかりではないわけだけども…… 

明日も18時に投稿いたします。

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