第11話 収穫物と野望
「よーし! 張り切って2階の攻略をするぞー!」
「お、おー!」
皆、俺のテンションに若干ついてこれないでいる。
二度目の突入はタイマーを設定して1時間半で状況判断をして3時間でダンジョンからの脱出を考える。
1階はまっすぐに2階への階段に向かった。
構造が入るたびに変化するタイプのダンジョンじゃなくてよかった。
時間経過が変化するのはダンジョンに入って最初の直線通路の先にある扉を抜けてからということも分かった。
ある程度距離が近ければいいけど、その扉を抜ける時はちゃんと一緒に行くパーティがまとまって入らないと中ですごく待たせることになるみたいだ。
なかなか面白い作りだ。
極稀にダンジョン内の魔物が大増加してあふれて大災害になることがあるそうだけど、定数しか生まれない初級ダンジョンならその心配はなさそうだ。
さらに、2階への階段を下りたが、階段が消えたりしない。
そこまでゲームチックではないようだ。
ただ、逆を言えば下の階の強力な敵が迷い込むリスクもあると頭の片隅に入れておこう。
「早速来たぞ! 慎重にな!」
2階に来て初めての戦闘だ。
ゴブリンだ! いきなりレベルが上がったなぁ……
ネズミ君たちは一度戦っているからその強さに警戒している。
「大丈夫、相手は一体。それに武器も防具もない」
なんか、見えそうな皮のパンツだけだし、体も貧相だし、素手だし。
魔物にもいろんなランクがあるんだろう。
「せりゃー!」
勇敢なイヌ族の若者が剣で切りつけた。
素手で受けようとしてそのまま切り裂かれて倒した! 弱っ!
「あ、あれ?」
斬った青年もびっくりしてるじゃないか。
ちょうどいいのでうちのパーティの説明を。
今斬ったのがイヌ族でも期待の青年、ラブラドールレトリーバーに似ているレント君だ。
今は剣道用の防具を改造した鎧と両手持ちの剣を装備している。
なんか、コスプレさせたわんこみたいでとてつもなくかわいい。
あと犬族から柴犬に似たカツト君とコリーに似たサリーさんが同行している。
ネズミ族からは剣ではなく槍で参加のマルス君、槍と言っても俺が買った包丁を木の枝にしっかりと巻き付けて作っている危険な代物だ。
もう一人がモース君。片手剣にお盆装備だ。
こちらも何ともキュートな見た目になっている。
獣人かわいい。
「よし、よしよしよし2階も問題になりそうにないな。慎重にしかし大胆に迅速にマップを作っていこう!」
2階もまだ魔石持ちはネズミだけだった。
ゴブリンはたまーにただの木の棒を持っていたりするけど全員一人で簡単に倒せる程度の強さだ。
夢中で敵を倒しながら進んでいく。
さすが初級ダンジョンだ、こうじゃなきゃ。
「5体いるぞ、手分けして気をつけてな」
俺も一生懸命参加している。まさかモンスター退治を自分でするなんて思わなかったなぁ。
人生はわからない、あ、俺死んだんだっけね。
だんだんと皆も武器の扱いに慣れてくる。見事な立ち回りで敵を倒していく。
非常に頼もしい。
村の中で隠れて暮らしていた日々からしたら劇的な変化だろう。
「先生、時間です!」
レント君が1時間30分経過したことを教えてくれる。
マッピングは一階から予想して3割ほど、そりゃそうか。
「1時間ほどマッピングを継続して帰ろう」
まだ、今日は初日……初日って言っていいのかな? 休憩取ったらまた入れそうだし……
「まてよ……これ、ダンジョンの中で寝泊まりすれば……精神とt「先生敵が来ます!」
おっと、危険な単語を出しそうになったらナイスタイミングでモンスターが!
とりあえず襲い掛かる敵を蹴散らす。
「このダンジョン経験値稼ぎとかお金稼ぎだけじゃなくて、とんでもない可能性があるじゃないか!」
「どうしたんですか先生?」
モース君が首をかしげながら不安そうに突然大きな声を出した俺をのぞき込んでくる。
いちいちかわいいな君たちは。
「いや、この中に入ると時間がゆっくりになるんだろ?
しかも人数制限はない。だったらいろんな作業を内部で行えば外でほとんど時間が経過しない!
農作物は無理だろうけど、加工は中でやったり、べ、勉強とかも?」
やだなぁ時間がゆっくり流れる部屋に何度も勉強のために放り込まれるの……想像したら口よどんでしまった。
「でも先生それは危険なんじゃないですか?」
「サリーさんいい質問だ。ただ、1階の敵、あの強さだから入口の側に場所を作って護衛をつければ……」
「やってみないことにはわからないですね」
正直、内部で住人の数を増やせるのではないか? とかかなりゲスなことを考えてしまったりもしたのだが、ネズミ族の姿を見ているとどうしても、ね。
尊厳、倫理的にアウトなことはやめておこう。
「まぁ、これからいろいろ試していこう」
結局時間いっぱいマッピングをして2階も7割ほど制覇した。
3階への階段も発見済みだ。
外へ出ると皆が待ってくれていた。少し遅刻したけど外での誤差は微差でしかない。
「みんなけが人とかは出てないかい?」
「大丈夫です。打ち身と足をひねったぐらいです」
「ラッテ、待っててくれたのか」
「はい先生。あと先生たちは内部で3時間で戻ったのですよね?」
「ああ、あ!」
「はい。外の時間で約18分、どうやら中に入ると10倍時間が早く流れるようですね」
できる子である。
「ありがとう、それを最初に確かめないといけなかったね。
10倍か……素晴らしいな!」
「中でいろいろな作業ができれば時間が省略できますね」
ほんとにできる子だなぁ。
「うん、それをみんなでも考えていたんだけど。
とりあえずみんなお腹すいてるから休憩も含めて昼の休みにしよう!」
ダンジョンに入っていない人からしたら朝食終えて30分くらいしたら昼めしと言ってくる変な人間の集団だ。
「少なくとも食事は中で準備したほうがいいかもしれませんね」
ラッテがいたずらっぽい笑いを浮かべて手分けして食事の準備をしてくれる。
しかし、その通りだな。
食事を内部で準備したい。
これはキャンプ用品をもう一揃えして内部でそういう設備を作ったほうがいいのかもしれない。
それにしても、俺は興奮しているからか疲れがない。
こっちの世界に来てから非常に体の調子がいい。
まず疲労感がない。体がよく動く、いまでは俺のチャームポイントだったわがままボディは異次元に置いてきてしまったようだ。
脂っぽいもの食べても胸やけにならないし、お酒を飲んでも翌日に残らない。
なんとなく楽観的だったけど、なんか体に起きてるのかな?
「お待たせしましたー。急いだのでこんなものですけど」
野菜と燻製肉のスープとパン。保存がきいて安く手に入るといったら小麦だ。
はやく収穫も安定してほしいものだ。
今は俺の通販を頼りにしている面も大きいけどこれを彼ら自身で自活できるようにしていかないと。
お腹を落ち着けた俺たちは、全員の収穫物を整理する。
俺が収納すればリストアップできるんだから便利なものだ。
さすがにこの人数で黙々と狩をすればそれなりに収穫物も多い。
お金も魔石もアイテムも順調に集まっている。
「これは、たまりませんなぁ……」
俺の笑顔にみんなドン引きだ。
明日も18時に投稿いたします。