第10話 Bボタンでキャンセル?
魔石を手に入れると神の手にいくつか項目が増えた。
そして説明も増えた。
なるほど、そういう仕組みね。
軽く読んでみたけど、夢が広がりすぎる。
こんだけ作りこんだ世界を放置するんだからあの神様が存外てきとーなのは受けた印象通りだな。
「とりあえず進もう。
一階がこのレベルなら探検自体は問題ない、敵の出方とかも把握したい」
マッピングを埋めながら一階の探索を続ける。
敵の数はまぁまぁ安定している。ただ、魔石持ちは総数が少なそうだ。
「これで、おしまいだな。構造はわかった。
よーし、気をつけて一回帰るぞー」
「二階の状況は見ないんですか?」
「下がって上がれるダンジョンなのかもわからないからね。
思ったよりも一階で手に入るものも多いし、みんなと話し合ってからにしよう」
もう少し進化周りの説明を読み込みたいという本音は隠しておく。ふひひ。
「わかりました」
帰りになんとなく試しにスライムに攻撃されてみたら、皮膚が少し赤くなった。
すぐに水で流したら収まったけど、一時間ぐらい放っておいたら火傷みたいになるかもしれない。
女性は気をつけないといけないね。
帰り道の敵の出方を考えても、即沸き定数型かなー……
簡単に言えば一階にいる魔物の総数が決まっていて倒されると補充されるタイプ。
この世界の現状を考えると、このタイプではないダンジョンもありそうだけど……
今の俺達には大群に襲われるリスクが少ないのはありがたい。
「ははは、非常時だってのに、にやついちゃうな。ゲーマーの魂が震えるぜ」
帰るまでがダンジョン探索です。
気を抜かずに帰路につく。
「ふー、お疲れさまー」
外に出て深呼吸をする。
背後で扉が閉まった音を確認してようやく肩の荷が下りた。
正直心配事は多かったので、予想外に楽な内容で胸をなでおろした。
「先生! 何かあったのですか?」
ラッテが心配そうに駆け寄ってくる。
「あれ? 様子見に来たの?」
「え? 先生を送って帰ろうとしたら出てこられたので何かあったのかと?」
「すぐ……おかしい、数時間は経ってると思うんだけど」
「いえ、ほんの数分で出てこられましたよ?」
「どういうことだ?」
パソコンを開いてヘルプを読むが、あてはまることは書いていない……と、思ったら。
「あっ……」
すごく小さな文字で、神の手によって作られたダンジョンは内部の時間経過が変化することがあります。
って注意書きがある。
「……いや、これ、今追加しただろ……」
そんなことないよ。
と追記された。
あのてきとー神は……まったく。
「いや、これはうれしすぎる誤算だぞ!!
やった、これは完全なチートだ!
神様ありがとーーーー!!」
周りの人間は何が何だかさっぱりわからないだろうけど、俺は一人で感極まっていた。
ダンジョンによる物資の補給と村人の育成は時間的な制約が大きい。
それが、こんな奇跡的なチートで改善されるなんて!
「よっし! まずは話し合いからだ。ダンジョン班はみんないるね?
すぐに今後の計画を話し合おう!」
すいません。俺、うっきうきです。
危機的状況は変わっていないけど、ゲーム好きの本性なんてこんなものです。
チームがすべてそろっていることを確認すると、俺は興奮を隠すことなく皆に説明する。
ダンジョンの中の話から始まり、魔石を手に入れたこと。
そして、その魔石によって皆の進化という選択肢が生まれた話をする。
「つまり、今の我々はネズミ族やイヌ族の基本的な姿……」
「そう、各種族には基本的に共通なクラスが存在していて、上位になっていくと各種族の特色のあるクラスに進化もできるようなんだよね。進化に必要な魔石が多いから、おいそれと進化はできないけど大きな力になる。リーダー的な存在になってもらったり、特殊な技能を持ったりもできる。はず」
神様は説明がめんどくさいらしく仕様書みたいなものを添付してきていたのでまだ読み込むことが出来てないけど、斜め読みした感じでは、どうやら種族ごとの基礎ポイントに成長ポイントを足して一定のポイントに達したら上位職とかそういう仕組みっぽいんだけど、あろうことかすべてランダムで適当に放置していたそうです。
端っこのほうに『めんどくせー、ランダムランダム』とかいたずら書きがしてあった。
結構これ神様が管理維持していかないとだめなタイプの、シミュレーションゲームな気がする。
「はず?」
「まだわからないことが多いんだよね、まずは魔石を大量に集めないといけないし、ダンジョンでの育成もバシバシやっていくから、そっちが先。ダンジョンもみんなを鍛えるのにちょうどいいレベルで安心したよ」
「われらも先生の役に立てるのですね!」
「すっごくね、人海戦術で魔物を倒すことで一番多いのは外貨の獲得、さらにはアイテムの入手。
原料なく物が手に入るなんて素晴らしすぎるでしょ!」
おっと興奮してきてしまった。いけないいけない」
「さらには、ダンジョン内は時間経過がゆっくりになります。
疲労をためないように交代でダンジョンに入り続ければ外の時間で短時間でも村の発展にとても大きな貢献をしてもらえる! 本当に神の奇跡って言っていいと思う」
興奮気味に早口でたくさん話す俺を皆が引き気味に眺めてくる。
けど、それでも俺の興奮は止まらない。
「と、言うことで、予定変更。一階には全部隊で入ります。
俺の班は下の階層を探ります。
武器は木刀、鎧も木鎧で十分。でも絶対に一階だけね。
今マップコピーしてるから全員に配ります」
パソコンに通販で買ったスキャナー兼プリンターで印刷していく。
これだけ精巧な地図をもってあの難易度のダンジョンなら問題ない。
各チームにストップウォッチも与えてあるので、それを利用して時間制限を作る。
「一回3時間、一度3時間経過したら外に戻ってきてください」
俺は早くダンジョンに入りたくて仕方がなかった。
もう頭はダンジョンでいっぱい。
「それじゃぁ、俺の班も行くぞー」
スキップしそうになりながらダンジョン攻略へと再出発する。
ここから俺たちの逆転劇が始まる、といいな!
明日も18時に投稿いたします。