9.聖書を読破しちゃった
すいません熟女舐めてました。
いやその言い方は正しくありませんね。いや正しいですけど意味が違いますね。
すごいですお綺麗ですエロいです。
いいですねー歳なんて関係ありませんね!
なんかこう、商売抜きで向こうから求めてくる感じがたまりませんね。なんといっても俺みたいなおっさんが来ても喜んで迎えてくれますしね!
弾力感が控えめのかわりに密着度がハンパないあの柔らかさ、あのゆっくりした心安らぐ動き。急がず、しっとりと、時間をかけて愛してくれるあの感じは若い娘にはありませんね。
考えを改めました。
……いったいどんな顔してルナに会えばいいのやら……。
耐性付けるとか言って、かえって我慢できなくなりそうです。
これはしばらく禁欲したほうがいいのかもしれません。
そんなわけで翌日は一日、教会に籠って聖書を読みました。
……祭壇の彫像、若き日のルナテス様のふわふわの流れる髪、優しく、美しい顔立ち、細いウエスト。でも正直、かなり盛ってありますな。こういう豊かさが女性美と考えられていた時代もあったのでしょう。本物の女神様は、もっと控えめで可憐です。大きなお世話ですな。
なまめかしい肢体から目をそらし、ひたすら勉強します。
約千年の昔、まだ国が分かれ戦乱で争っていた人間社会に、突然魔王が現れ、人間への攻撃を開始する。
魔物、魔獣を操って、次々に攻撃を仕掛けてくる魔王に戦乱で弱体化した人間社会には大ダメージで、魔王の侵攻を止められない。
その時神がいたのかはどうかわからない。だが、多くの人は神に祈り、人類の救済を願った。
一人の若者が現れた。
手に聖剣を持ち、怯える市民たちに宣言する。
我が魔王を倒す。女神の加護を得た、この聖剣で。
勇者だった。女神が遠い別の世界から呼び寄せた勇者が、魔族軍に血路を開く。
魔王軍を一人残らず撃退した勇者は、一人で旅立った。
長い時が過ぎ、勇者は帰還する。
「魔王は倒した。しかし、魔王はまた復活するであろう。今は人間同士で争っている時ではない。 我を遣わせた女神ルナテスの言葉を伝える。『憤怒』の心を捨てよ。敵を許せ。今は心を一つにして、再びよみがえる魔王に備えるのだ」
人間は和解した。国と国は争うのをやめた。
来るべき魔王に備えた。
しかし、平和が続くと、人間は堕落した。
『強欲』が支配し、人は富める者と貧しきものに分かれてしまった。
再び、魔王が復活した。
人間は、またしてもこれに対抗する術を持たなかった。
再び祈りが行われ、二人目の勇者が現れた。
魔王を倒した勇者は、女神の言葉を伝える。
「貧しき者を虐げて魔王に勝てるか。『強欲』を捨てよ」
人間は神の教えを敬い、教会を建て、女神ルナテスを崇めた。
教会ができると、今度は信仰に頼ってしまい、魔王に備えることがなくなってしまった。
再び魔王が復活し、これを勇者が倒す。
「『怠惰』は罪だ。魔王に備えよ。怠けてはならぬ」
軍が整備される。戦力が強化される。そしてそこに驕りが生まれる。
国が、軍が、兵が、市民を蔑ろにする時代が始まった。
魔王が復活し、勇者が倒したとき、そこには倒された多くの兵士の屍があった。
「『傲慢』を捨てよ。兵としての本分を忘れるな。守るべきものは民だ。地位ではない」
勇者は英雄だ。すべての者が勇者にあこがれた。そして、勇者への嫉妬が始まる。
魔王が復活し、これを勇者が倒したとき、人々は勇者の力を妬んだ。
「『嫉妬』を捨てよ。勇者は英雄ではない。他の者となんらかわりない人間の一人なのだ。あるがままに受け入れよ」
勇者への尊敬が集まった。勇者への信仰が高まった。そして、勇者は飾り立てられた。教会と共に、きらびやかな装飾に包まれた。
魔王が復活し、勇者がこれを倒す。
「『虚飾』を捨てよ。偽りの飾りなどいらぬ。誰もが本当の自分であれ」
人々は華美を慎み、今度は人間自身に、格差を見出す。
身分の低いもの、貧しき者、卑しい職業で働くものを差別した。
七たび、魔王が復活する。
これを倒した勇者が、女神の言葉を伝える。
「『差別』を捨てよ。人に、職業に、貴賤はない。不公平をやめよ。平等であれ」
そして人間は、今度はどんな罪が自分たちにあるのだろうと、自分で考えるようになった。
これが罪になるか、あれが罪になるか。人は法を作り、人は罪を自ら罰し、再び魔王が復活しても、女神の救いが続くよう、己の罪をいつも悔い改め、よりよき人であり続けるために、自らの考えで、罪を犯さぬよう、生きることを決めた。
「……ふむ、悪くない。っていうか、すごくいい……」
なるほど……、勇者を通して、人間の罪を教えている。
神様が必要以上に出しゃばっているわけでもなく、人間自身に、次を考えさせることもできている。
うん、大したやつだよ女神ルナテス。尊敬する。
歴代の勇者もご苦労さん。説得力があったよ。
今の世の中も、平和で、豊かで、ちょっとダメなところはときどきあるけど、それはまあ人間だからしょうがなくて、でもいい世界だ。
今度魔王が復活したら、次はなんの罪になるんだろうな……。
もうこれ以上人間の罪を増やしたくない。ルナテスは、そう思ったのかもしれないな……。
祭壇の女神ルナテスと、七人の勇者の彫像を見上げる。
神々しく、そして、美しい。
あなたたちのおかげで、世界は今日も平和です。
ありがとうございます。感謝を捧げさせていただきます。
祈らせてください。
俺は祭壇の前に跪き、感謝をささげた。
宿屋に戻ると、ルナテス様がレストランでご夕食を取っておられました。
同じものを注文し、ルナテス様の席の前に座ります。
「あら珍しい。佐藤さん今夜は遊びにいきませんの?」
ぷいっと横を向いてしまわれます。
「今日からこの宿に泊まります」
「あらあら。どういう心境の変化かしら?」
「今日は一日、教会に籠って聖書を読みました」
「……そうでしたか。お恥ずかしい限りです」
ルナテス様がちょっと顔を赤くして、少し照れます。
自分の書いた本とか、自分の作品とか、自分の伝記なんてのを読んだ人が目の前に来て「読みましたよ!」なんて言われたら恥ずかしいですよね。俺だってそうですから。神様にしてみれば聖書なんて、そんな感じですよね。
「いえ、感銘を受けました。私の愛すべき、慈悲深い、女神ルナテス様」
「やめてください……」
ルナテス様が真っ赤です。
「我が女神ルナテス様に忠誠を捧げん」
「ちょ……佐藤さん?」
跪いて祈る。
「私は女神の信徒、私は女神のしもべ、私は女神の愛に応えるために、この身、この命を捧げ、あなたの騎士として、あなたを守ります。この身は全てあなたのもの。どうか私の誓いを受け入れてください」
「……」
ルナテス様、赤くないところがなくなってしまうほど赤いです。
「……ひとつ……お願いが」
「なんなりと」
頭を近づけ、耳を差し出します。
女神ルナテス様の顔が近づき、そっと口がささやきます。
「(……今夜……私を、妻にしてください)」
「(それはいけません。)」
「(……ごめんなさい……ダメですよね……)」、しょんぼり……。
「(そこは、毎晩でなければ)」
「もうっ!」
頭から湯気が出てますよ。ルナテス様。
すんごい夜になりました。
っていうか、朝? 明るくなってきてない?
さすがに俺もこんなにしたの初めてです。
どんだけですか女神様。あんなふうに回復魔法を使うのは反則です。まだ収まりつかないじゃないですか。
女神様は今、朝湯です。
俺もひと風呂浴びたらもう一回……。
いえ、せっかくですからいっしょにお風呂でしましょうか。
うん、それがいいですね。そうしましょう。
結局全然眠れてないので、その日はダラダラ昼寝したりイチャイチャしたりして過ごし、翌日。
「サトウさん!無事でしたか!」
ハンター協会会長、ゼービス・ルノーと受付オルファスが出迎える。
「ミスリル鉱山攻略、終わりました。もう安全ですよ」
「おおおっ!!」
二人とも大興奮!
「ありがとう、ありがとうございます。これでハンター協会の面目も立ちます! 本当にありがとうございました!」
「鉱山の人に安全確認してもらってください。報酬とかはそれが終わったらってことで」
「はい、ぜひ」
「それで、獲物がいくつかありますので引き取ってもらえたらと」
「はい。では解体所にご案内します」
解体所で、ルナがアイテムボックスから巨大ヘビと巨大サンショウウオを出す。
「……レッドパイソンと電気オオサンショウウオですか……。こっちは毒がありこちらは電撃を出すというのに……よくお二人で……」
オルファスがあきれる。
どちらも皮、肉、毒、ともに高価で取引されているらしい。
レッドパイソン金貨百五十枚、オオサンショウウオ二百十枚の儲け。
これはすぐ支払ってもらえた。
「それとですね、キール村の教会跡地の悪霊退治なんですが、教会関係者が調査に向かいまして、確かに除霊されているのを確認できました。驚かれていましたよ。教会関係者でも完璧は難しいというのに……。犯人も村人の証言から裏が取れ、すでに死亡済ということで、これ以上の問題にはなりません」
「それはよかった」
「それでなんですが……、教会も、村民の浄財で成り立っており、放火という不始末もありまして援助は期待できず、再建費用もかさみますので、残念ながら報酬はそれほど多額にはできません……」
「報酬はいらないです」
「え!!」
ルナと顔を見合わせて笑う。
「私たちも敬虔なルナテス教徒の信徒の一人として、再建に協力させていただければ幸いです。これは教会への寄付です。ハンター協会を通してお納めください」
そうして、白金貨五十枚の革袋を渡す。日本円で五千万円。
ルナと二人で半分ずつ出し合った。
「こ……こんなに……」
「確かに渡しましたよ。途中で誤魔化したり、中を抜いたりしたら神罰が下ると思ってくださいね」
「当たり前です! そんなことするわけありません! 私だってルナテス教徒です! いや……しかし、ありがたい……。ありがたいです。私はキール村出身なんです……」
ゼービスが感激する。涙ぐんでるよ……。
「必ずお渡しします。私が自分で持っていきます。寄付の受け取り証書を書きますのでしばらくお待ちください」
ゼービスが書類を書く。このへんはきっちりしてるな。
「ではこちらの二枚にサインを。一枚はお持ちください」
両方に二人でサインして、ゼービスと握手をした。
「さて……次の仕事は……」
緊急度の高い順で片付けていくか。レベル上げも大事だけど、困ってる人がいるほうが大変だもんな。
「食人鬼が出現してるって、これ、急いだほうがいいですね……」
「やっかいなのか?」
「感染するんです。噛まれたり、食べられたりすると」
ゾンビですか。そりゃマズいね。
「昨日連絡が来たものです。それ、今うちのハンターたちが出向いているんですが」
ゼービスが顔をしかめる。
「あんなやつらでは心許ないな」
「そうなんです。サトウさんたちに出向いてもらえば確かに心強い」
「よし、急ごう」
ぴりっ、依頼票を引きちぎって走り出す。