6.ドラゴンが売れちゃった
二日目。
「火矢ができるようになりました!」
「はい、ドラゴン回復してやってー」
「氷矢ができるようになりました!!」
「はい、回復してー」
「散弾ができるようになりました!」
「お昼だよー」
「穿孔弾ができるようになりました!」
「ど……どり……はい、回復してー!」
「聖域ができるようになりました!」
「なんに使うのそれ」
「回復矢ができるようになりました!」
「それで回復できんじゃないの?」
「あ、そうですね試してみます」
三日目
「毒矢ができるようになりました!」
「それ解毒ができるようになってから使ってね」
「照明弾ができるようになりました!」
「夜の戦闘で便利そうだな」
「除霊ができるようになりました!」
「なにそれ怖い」
「徹甲弾ができるようになりました!」
「それやるとさすがにドラゴン死にそう」
「狙撃ができるようになりました!」
「じゃ、もっと距離とってやってみようか」
「解毒ができるようになりました!」
「じゃ、ポイズンアロー試していいよ。その前にお昼にしよう」
「蘇生ができるようになりました!!!!」
「じゃ、ドラゴンに止め刺しちゃってから蘇生してみて」
「蘇生できました!」
「じゃ、もう一回やってみて」
「レベルが60になりました!」
「そろそろ帰ろうか」
お疲れさまでした。回復に回復を重ねてあれだけいじめられていたとは思えないほど綺麗なドラゴンの死体を丸ごとルナのアイテムボックスに収納します。ここまで残虐な表現とか、特にありませんでしたよね?
ルナが手を触れるとドラゴンがふわーっと消えちゃうんですよね。
女神様が疲労困憊してぐったりしてますんで、今日はもう一泊して、明日の朝、街に戻ることにしました。
俺たちが滞在しているこの世界の首都の名前は「ラナス」という。
俺の背中でぐうぐう居眠りしているルナを背負って飛んで、ラナス郊外に到着した。
「ほれ起きろ。ここから歩いて帰るぞ」
「おんぶー……」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐり。
「痛い痛い痛い――! 痛いです佐藤さん!!!」
「目覚めたか?」
「はい……」
「腹減ったー……早く帰って飯食いたい」※朝飯抜き。
「……私は寝たいです」
「わかったわかった。協会にドラゴン納めたらすぐ宿取って寝ていいぞ」
「はいー……ふわあ」
三日間、実によく食べ、よく眠り、よく働いたからなー。
初めて会った時より、すこし健康的になってきたんじゃね?
なんか陰気でげっそりしてたからねえ。
「サトウさん!大丈夫でしたか!」
カウンターのオルファスと、協会会長のゼービスが出迎える。
「まあなんとか」
「で、ど、ドラゴンは?」
「ルナがアイテムボックスに入れてる。出せる場所ある?」
「あ、あ、あ、アイテムボックスですと――――!!」
ドラゴンを出せるだけの解体所がないので、とりあえず協会の中庭に出すことにした。
ぼわんっ。
これだけ大きいと取り出すって感じじゃなくて、ふわっと実体化するって感じだな。横倒しになった全長40mのドラゴンの死体がいきなり中庭を占領し協会は大騒ぎ。もう職員やらハンターやらが全員集まって驚愕。
アイテムボックスが使えるのは国内に十人ぐらいいるんだけど、こんなにバカでかいアイテムボックス持ちはいないんだそうだ。一番大きい人でもせいぜい馬車一台分ぐらいの物資しか運べないんだと。
今回は能力を隠すとか面倒なので一切やらないことにした。
だって魔王封印したら、ルナは天界とやらに帰っちゃうだろうからね。
買取価格はここでは決められないので、二日後、もう一度来てくれということになった。
ルナには、今日と明日は休みにするから宿でのんびりするように言い、置いてきた。眠そうだったしね。
さて二日間、羽伸ばして自由にするとしますか……。
朝、宿屋にルナテス様を迎えに行くと相変わらず不機嫌ですな。
「二日間もほうりっぱなしにするとかありえないし……」とかぶつぶつ。
タップリ寝れてよかったじゃん。ほらもうなんか肌ツヤも良くて髪も綺麗だしふっくらしてきてますよ。筋肉もだいぶついてシェイプアップもできてるじゃない? 朝食、乳製品が多めですな。健康的でいいですよ。
「佐藤さんはいったい全体どこでなにやってるんです」
「疲れをいやしてます」
「癒すのなら私がいくらでもやってあげます」
「魔法でやってもらうより普通に癒したいです」
「私ねえなんかわかってきました」
「なにがですか?」
「サトウさんがその『ですます』でしゃべる時は本当はなにか余計なこと考えてる時ですね」
「無いですよ」
「……いい匂いさせちゃって。まったく……」
くんくん……。いい匂いしちゃいますか……。
「私は妻ってことになってるんですからね! 一緒にいるときぐらい、そうしてくださいね!」
「話なら合わせてますよ」
「とにかく、その『ですます』は今後一切やめてもらいます!」
「はい」
地雷原が突撃してくるとかなんという無理ゲーですか。
「ドラゴンなんですが……金貨一万枚で落札されました」
……日本円で1億円ですか……。凄いですね会長。
「どこが落札したんです?」
「王宮です。状態の良いドラゴンでしたので、傷む前にすぐに落札されました。すぐにでも手に入れて処理に入りたかったようです」
「そうですか。ちゃんと払われるんでしょうね」
「もちろんです! あの、協会の手数料が10%なんですが……」
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます!」
「王宮が買い上げるってことは、本来ならもっと高い値段が付いたとかは?」
「ありませんね、商人たちも『これは出せない』とがっかりしていましたから」
「しかし高額になりましたね」
「金貨一万枚で手に入るなら安いものです。国軍を動かして、兵士が十数人も犠牲になってどうかという獲物です。部位がどこのかけらでも金貨数百枚で売れますし」
「支払いは?」
「白金貨で」
「わかりました」
白金貨九十枚。これ1枚で百万円か。
とりあえずルナと二人で分けた。
一人日本円で四千五百万円ずつ……。
記憶にある限り、今までで一番の稼ぎだね。
ルナが帰った後も、俺はこの世界で生きていくんだから、金はいくらあってもいいかもしんない。そろそろ老後のことも考えなくちゃね。