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5.ドラゴンをいじめちゃった


 半日ルナテス様と密着状態で飛びまして、はい、もうお昼ですね。


 湖畔でハム、パン、チーズ、マヨネーズを駆使してハムサンドを作ります。

 ルナテス様はお料理はなさいません。使えねぇ……。


「宿屋でも食ってたけど、あれだけ食うってことは女神さんってお花摘みするの?」

「……しますよ。地上にいる間は」

「普段はしないの?」

「あの空間では……もう『天界』ってことにしちゃいますけど、必要ないし食べもしません。もうお食事中にそういうこと言うのやめてください!!」

「え? 女の人のお花摘みって、そういう意味なの?」

「もう! 知ってて言うのやめてください!」


 もくもくと食う。

 食う。

 炎の物理魔法【プラズマボール】でお茶を沸かして出す。

 飲む。

 ルナテス様がだんだん上機嫌になってくる。


「……おいしいです」

「けっこういいやつ買ったからな」

「……なんか、こういうの嬉しいです」

「そうか……」

「私、誰かと食事なんて、したことないです……」

「へー……」

「……孤独でした……」


 ……あんな白い空間で、あんななにもない空間でたった一人、この世界の管理だけ。俺だったら気が狂いそうになるような孤独感だな……。

 女神って、なにか報われるようなことがあるのだろうか。


「女神さんの密かな楽しみとは?」

「そりゃあ、地上の皆さんが幸せになってくれることです」

「そんなことで?」

「新しい作物の芽が生えたり、収穫を祝うお祭りで、新しいカップルが生まれたり、子供が初めて言葉を覚えて喋ったり、ケンカしてた二人が仲直りしたり……」

「そんなことまで女神さんが調整してるの?」

「いえ、この世界を整えた結果、そういう小さな幸せなことが起きる。それが嬉しいんです」

「そうか……」

「全部は見てあげられない。全部は助けられない。でも、この世界の全てに恵みがいきわたるように、今でも試行錯誤の繰り返しですね……。一番いい方法は、誰にもわからないんです」


 俺のいた地球。女神がいたのだとしたら、今の世界はどう見えていたのだろう。

 戦争の無くならない世界、格差や差別が純然とある世界。

 俺たちの女神は、とうに俺たちの管理を、放り出しているんじゃないか。

 愚かすぎる人間のことなんて、もうとっくに管理をあきらめてしまっているんじゃないか。そんな気がする。


 そろそろ話を切り替えないとしんみりしてしまいそうだ。

「ルナテス様は勇者への加護を自分自身に授けていらっしゃる」

「はい」

「勇者は修行してレベル上げをする。ということは今ルナテス様はご自分のステータスを見ることができると」

「はい。あ、見てみましょうか」

 ルナテス様が目の前にボードを可視化させる。


 LV (レベル)1

 HP (体力) 7

 MP (魔力) 999

 STR(筋力) 2

 INT(知力) 999

 AGI(敏捷) 4

 ATK(攻撃) 2

 DEF(防御) 52(※装備込)

 MGR(抗魔) 999


「極端すぎるわ――――!!」

「はいいっ……すみませんすみません!」

「それで魔王を倒すとか封印するとか――!」

「ごっごめんなさいごめんなさい!!」

「……って、前の女房にも言われたことがある」

「はい?」


 うん、カーリンに稽古つけてもらった時にめちゃめちゃ怒られた。


「俺、パラメーターだけカンストだったんだけど、戦闘経験ってやつが完全にゼロでさ、素人同然だったんだよな」

「そうなんですか」

「特訓して強くなった」

「はあー……」

「だから、ルナテス様にも特訓してもらうからな」

「はい……、あの」

「ん?」

「もういい加減、様とか女神さんとか、そろそろやめてほしくって」

「なんて呼んでほしい?」

「人前で呼ぶ時と同じように、『ルナ』って」

「了解しました。ルナ様」

「だからそれが――!」

「はいはい」

 話がなかなか進まないな。


「さて、ドラゴンだが、この先10kmぐらいのところにいるな」

「……なんでわかるんです?」

「わかるから」

 熱源追跡魔法の【ホーミング】でひときわ輝く赤い点。巨大すぎるわ。間違いないな。

「さ、撤収するぞ」

 キャンプ道具を片付けて、火の始末をし、ルナを背に乗せて飛ぶ。

 ぐんぐん高度を上げ、上空からの索敵。

「ほらいた」

「ほっ本当に!」

 眼下にぶわっさ、ぶわっさと飛ぶドラゴンがいる。

 黒いな。確かにブラックドラゴンだ。魔王のペットだったドラミちゃんとサイズも形もよく似ている。世界が変わっても人間が同じなように、魔物もあんまり変わらないな。


「あ……あんなのどうやって倒すんですか?」

「いや、今日はレベル上げしかしないよ? つかまってろよ、離すなよ」


 【フライト】を切って自由落下する。


「きゃあああああああ――――――――!!」

「声出すな――――!」


 ぐわっ。ドラゴンが首をねじらせてこっちを見る。

 ちょっと驚いたようだがすぐに口の前に火球が……。

「【ウォールボックス】!」

 ぴきんっ。


 完了。



 さて、【フライト】を再開して地上に降りると、見えない空気分子固定のキューブに包まれて全長40mのドラゴンが落っこちて暴れております。

 魔力で飛ぶドラゴンさんですが、羽を広げないと魔力で揚力を展開できないのはドラミちゃんで実験済みです。その【ウォールボックス】は身動きできなくなるまでサイズがだんだん小さくなってきますからね。じきにドタバタもできなくなりますよ。


「あ、あ、あの、あの、あのドラゴンさんはなんであんな……」

「見えない空気の箱で閉じ込められております」

「ええ――――っ……」

「しばらくしたら諦めておとなしくなりますのでちょっと待ってみましょう」


 俺の魔法ってのは、最初の世界で女神エルテスからもらった物理魔法だ。

 普通のファンタジーに出てくる魔法と全く違うのは、物理法則パラメーターを自由に操れるというトンデモ能力だね。

 ファンタジーなお約束の謎な力ではなく、全て科学的に説明できるものを、科学では説明付かない方法でコントロールしている、と考えてもらっていい。

 理系のエンジニアの俺にはこっちのほうがわかりやすいし魔法の原理もわかるけど、そこにロマンは極小です……。

 身体的にもなんかカンストにしてくれて、エルテスに言わせれば「無敵無敗超絶不死身のスーパー主人公」なんですけど、それでも死ぬときはあっさり死んじゃうんだけどね……。もう二回も。


 ただ、二つの異世界を経験してよーくわかったことだが、パラメーターがカウンターストップなせいで、俺はどこの世界に行って何をやってもまったくレベルが上がらない。上がらないからその世界にある魔法とかスキルとかをまったく取得できない。

 元々持ってるチート能力だけでなんとかしなくちゃいけないというある意味縛りプレイだ。いやそれでも十分贅沢な話なんで、いいんですけどね……。



 ドラゴン、口元に火球を作って吐き出そうとしています。

 どん!

 ボックスの中が火に包まれております……。

 ……セルフのローストドラゴンができてしまいました。


「はい、回復してあげて」

「ひ、ひいいいいいいっ」

「ほら、ここに穴開けてあげるから。見えないと不便か……」

 空気密度を変えて可視化しました。ガラスの檻みたいになりました。

「おなかのあたりに穴開けたから。触っても大丈夫だよ」

 ルナがおそるおそる、焼けただれてぐったりしたドラゴンのおなかの部分に手を当てました。

 ふわーっ……暖かそうな光がドラゴンを包んで、ドラゴン全快。

「魔法経験値、貯まった?」

「上がりました! すごい上がりました!」

 相手がドラゴンだと上がり方もすごいでしょう。

 もう一発ぐらい撃ってくれませんかね。


 ドラゴン、もう暴れるのはやめてにらみつけてきておりますな。

「はい次はさっき買ったマジックショートボウで攻撃してください」

「えええええええ――――!」

「まず百本! はい始め!」

「ひいい――――」

 弦を引っ張ると魔法の矢が実体化して自動的につがえられます。便利ですねそれ。

 最初はドラゴンの皮膚にはじかれていた矢も少しずつ刺さるようになります。

 最初は馬鹿にしていたドラゴンもだんだん痛そうな顔してきました。

「終わりましたー!」

「回復してー」

「はいー」

「レベル上がったー?」

「3になりましたー!」

「じゃ、次、矢に魔法込めて百本!」

「はいー!」

「レベル上がったー?」

「5になりましたー!」

「回復してー」

「はいー!」

「じゃ、次魔法攻撃してー!」

「はいー!」


 ……はい、俺は夕食の準備です。

 パスタにしましょうかね。鍋にぐらぐらお湯を作ってパスタを茹で上げ、フライパンで肉と野菜を炒めてからパスタを入れてケチャップで味付けです。

 簡単ですけどスパゲティナポリタンですな。

「夕食でーす!」

 フライパンをカンカンカンと叩いてお知らせします。

 ルナテス様がふらふらしながらやってきます。

「MPが切れました……」

「ごくろうさん、さ、食べて食べて」

「ドラゴンをただいじめてるだけみたいで心が痛いです……。精神的にくるものがあります……」

「魔王と闘うのです。心もタフになる必要があります。メンタルも鍛えましょう。依頼票にも載ってる通り、人間が三十人以上被害にあっているドラゴンです。神罰を与えていると思ってがんばりましょう」

「はい……」

「『復活』とか『蘇生』とか使えるようになりますか? 死んだ者を生き返らせるとか」

「レベル40ぐらいになると」

「いまいくつになりました?」

「20までいきました」

「半日で20ですか、上々ですね。じゃ、それができるようになるまで頑張りましょう。明日も特訓を続けますよ」

「はい……あの」

「なんでしょう」

「その丁寧口調、気味悪いです」

「ああすいません。他人に指導をするときとかの癖でして、これでも学校で先生とかもやってましたから」

「前の世界で?」

「はい、数学、幾何学、物理学と自然科学、工学などを魔族や人間に」

「はあー……なんでもできる方ですねぇ」

「自然に身に付きました。さ、食べて食べて」

「あんまり食欲わきません……」


 ルナにスパゲティナポリタンを食べてもらう。

 

「おいしいです!」

「でしょう?」

「うん、おいしい、おいしい!」

「体も鍛えてもらっています。たくさん食べてくださいね」

「はい!」


 暗くなってきたので、【ウォールエアマット】を敷いて寝袋で寝ます。

 好評ですね。改良に改良を重ねて、今や羽根布団のごとくふわふわの見えない空気のベッドですからね。

「空気分子固定の結界でドームを作ってテント代わりにします。出たくなったら声かけてください。近くにドラゴンがいるので、魔物も魔獣も一切近寄ってこないから朝まで安心です。じゃ、おやすみ」

「……おやすみなさい……」

 さすがに疲れたのか、すぐに寝てしまいましたね。

 ちょろいです。



 連載初日より多くの方に読んでいただけてありがとうございます。

 また、2が完結し、3が始まったことで、1から読んでくれる読者も増え、新たな読者の獲得にも成功しているように思います。

 ランキングシステム上話数が多く長期連載が優位だと思われ、章に分けて1作品として連載するのが良いとも思いましたが、読者として読みやすさ、とっつきやすさというのを考えてみるとこれもアリではないかというふうに考えます。

 推理小説みたいなもんですね。主人公の探偵は同じでも、一事件一冊、みたいな感じで。

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