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4.女神様に拗ねられちゃった


 もちろんやりましたよ。

 やるに決まってるでしょ【マップ】に娼館があるんだからそりゃあもう突撃しますよ。さっそくこの世界で下半身からの相互理解と裏社会からの情報収集です。

 ゴルゴ13だってやってることです必要なことなんです。


 この世界には奴隷ってやつがいないですね。うん安心しました。

 娼婦ってのは女性が大金を稼げる割のいい職場で、それほど白眼視されるようなこともなくみんな明るく楽しく衛生的に働けるんだそうです。

 世界が平和で安定してるっていいですね。女神様と勇者頼みなんですけど。

 石鹸とか、いいもの使われてます。髭剃りの刃も切れ味が良くて製鉄技術の高さもうかがわれます。水やお湯も、ボイラーから水道で出るんですね。中々の整い具合ですわ。水道も蛇口も、ローマの遺跡から発掘されてますから、そんなに新しい技術じゃないんですよ。この世界の中世風の文明レベルでも十分に実現できます。

 可愛い女の子にタップリサービスされて、身も心もスッキリしてよく眠り、娼館を出てきました。

 うん、異世界の最初の夜としては上々ですな。


 ……そういやあルナテス様の教義には『姦淫』の罪が入ってないんですよね。これが無い宗教は珍しいです。なんでなのか、一度聞いてみましょうかね……。


 さーてルナテス様がいるホテルに行くと、ルナテス様が一人で食堂で朝食をとっておられます。

 カウンターにモーニングセットを頼み、同じテーブルにつきます。


「おはようルナ、よく眠れたかな?」

「佐藤さん! 一晩中どこ行ってたんですか!!」

「いろいろ調査だよ。夜でないとわからないこともあるし」

「私、佐藤さんが戻ってきてもいいように、ずーっと待ってて……その、帰ってこないなら帰ってこないって言ってくれてもいいじゃないですかー!」

「明日の朝ここに迎えに来ると言ったはずだよ? だいいち一人部屋だったでしょ?」

「ですけどぉお!」

「んーなんで怒るの」

 女神ルナテス様、真っ赤になってしどろもどろ。


 モーニングセットが運ばれてきました。

 焼き立てパン、バター、スープ、サラダ、ジャム、ソーセージ。ゆで卵。

 うん、いいですね。食についてはこの世界不満がありません。

「……話が違うじゃないですか……もういいです。ばか……」

 知らん顔して朝食を食べる俺。


 皆さんなんか勘違いしていませんか? 俺がそんな鈍感童貞主人公だとでも?

 俺だって地雷の回避ぐらいはいたしますよ?

 目の前に広がる地雷原。触れてはならない茨の花園。

 君子危うきに近寄らず。それぐらいの分別はありますよ。

 どうして部屋をどうするかで揉めたり、どっちが床で寝るかで揉めたりするんでしょうね童貞主人公は。回避したかったら宿を別々にすればいいじゃないですかまったく……。あ、最初はお金が無いのがお約束でしたか……。すいません。


 ルナテス様やけ食いですね。ケーキセットにパフェにジュースですか。

 太りますよ? いやもう少し太ったほうがいいかな? 今後に期待しましょう。

「今日から修行開始。いっぱい食べておいてね」

「……大きなお世話ですっ」


 ……あの、ツンデレはですね、もっとこう、その、美少女でないとゾクゾクするものがありませんね……。見た目俺とたいしてかわらないおばさんにツンされても単に嫌われているだけとしか思えませんね……。


 そうして朝食を取っていると、「あっ! いた! いました!!」と声がかかって、オッサンが二人、カウンターに手を上げて食堂に入ってきました。


「サトウさん! 探しましたよ! 奥さんも!」

 ……奥さん?


 昨日のハンター協会の受付のオヤジと、知らないオヤジです。

「昨日は失礼しました。私、ハンター協会会長のゼービス・ルノーと申します」

「私は受付のオルファスと申します。昨日は誠に失礼の極み、お詫びを申し上げます」

 そう言って、二人で俺たちに頭を下げる。

「ああ、ハンター協会の方ですか。なにか御用でしょうか?」

「まずはお詫びを申し上げたい。昨日、うちの馬鹿どもがあなたに大変失礼な行為を働いたということで、お聞きしております。どうかお許しを願いたいと思います」

「こちらこそ、ケガ人を多数出してしまって、申し訳なく思っています。今後ハンター協会には一切かかわらないようにしたいと思います。賠償金などの請求があるのでしたら後ほどご相談させていただきますから」

「いえいえとんでもない! しかも、その後奥さんが全員まとめて完全に魔法で治療してしまったとか! そんな腕を持つ御夫婦のハンター、ここで取り逃がすなど協会の名にかけて断じてできません!」

 

 ……御夫婦?


 ギロリ、ルナテス様をにらむ。

 あっちむいてホイですか。

 こういうの、前にもあったような気がします。


「ぜひうちの協会で働いてください! 手数料はいりません! カードもおつくりいたしました! お納めください!」

 破り捨てた書類、そのまま置いてきたからな。わざとだけど。

 カードを手に取る。


 サトウ・マサユキ(42)

 ランクA

 LV・__


 サトウ・ルナ(35)

 ランクA

 LV・__



『サトウ・ルナ』ってなんだよ! 35歳ってなんだよ!

 千歳超えてるくせしやがって! どんだけサバ読んでんだよ! ずうずうしいにもほどがあるわ!!


「……ランクがAになってますけど、そちらの協会ではハンターのランクをどのように分けているんですか?」

「A、B、C、Dの4ランクです」

「いきなりAからですか?」

「昨日あなたが一人で叩きのめしたあの馬鹿共の半分がBランクでしたので……」

「Bランクにしては質が低い。ガラも悪い。そんなハンター協会で働くメリットが私どもにあるとでも?」

「御高説もっともです。ハンターの質の低下には私どもも頭を悩ませております。あなた方のようなベテランハンターの御指導、御鞭撻に期待せざるを得ません……」

「あんなやつらの指導なんてまっぴらごめんなんですが」

「どうか、あの馬鹿どもに本当のハンターという奴を見せていただけるだけでいいんです。本来のハンターのあるべき姿、多くのハンターの目標になっていただけるだけでも私どもの希望になります。伏してお願いしたい」

 もうテーブルにびったり頭を擦り付けられて二人に頼まれちゃったよ……。


「……わかりました。でも仕事を請け負うだけですよ。それ以上はお役に立てません」

「ありがとうございますっ!!」

 ……どんだけ人材不足なの。


「ぜひ後で協会のほうにお越しください。お願いしたい依頼が山ほどあります。お待ちしております」


 そう言ってやっと帰ってくれた。

「さて、女神ルナテス様、ちょっとお話ししましょうか。ここのお名前と、お歳について」

「……」ぷいっ。

 ここじゃあな。ここじゃちょっとアレか……。




 武器屋に来た。

 ルナテスにもある程度防具を買ってやらないとな。冒険者に見えないし。

「ルナはなにを使う?」

「……ありませんね。闘ったことなんてないし……」

「魔法使いが使う武器か、何かいいものは無いかい?」

 店員に聞いてみる。

「魔法が使えて戦闘経験がないならこちらですかね。マジックショートボウです」

 短弓だね。

「魔力を込めると実体化した矢が現れます。あとはそれを普通の弓の要領で撃つんです。使い慣れてくるといろんな種類の矢を飛ばせるようになりますよ」

 なんというファンタジーな便利な世界。


「それは物理攻撃? 魔法攻撃?」

「通常は物理攻撃になります。魔法をかけた矢ならば魔法攻撃となりますね」

「矢の補給はいらないと」

「魔力が尽きない限り」

「じゃあそれで。この店で一番いいやつを」


 うん、持たせてみるとコンパクトで女性にも扱いやすそうだ。

「あと、胸当て、手袋、ブーツ、上着……。肘や膝のプロテクターも」

「それでしたらこちらを、上着に全部プロテクターが付いてます。軽くて丈夫です。ブーツはこちらがお勧めです」

「なるべくいいやつで」

「でしたらこれ! ミスリルを張ってあります!」

「ああ、これがミスリル?」


 ……チタンじゃねーか。

 軽くて丈夫、白銀色、ファンタジーでお約束の最高級金属ミスリル、実はチタニウムだったとは……。

 チタンってアルミと同じで酸化物でしか産出しないんだけどね、酸化還元で融解しないと生成できないんだけどね、生チタンでも産出するんですかこの世界は……。

 考えてみれば納得いく話だ。俺の物理魔法はどの異世界に行っても通用する。それは、物理法則という奴が宇宙の果てまで全く変わらず共通だからだ。

 それとおんなじで、異世界だからと言って俺の知らない新元素があったりするわけじゃないんだよな。っていうかあったらそれこそ異世界。物理法則無視の世界だわ。

 この調子だとアダマンタイトとかも実はタングステンだったりするんじゃねーの?

 もうあれこれ買いそろえてルナが冒険者になんとか見えるようになるころには金貨百枚もかかったよ……。


「佐藤さんって、武器は何を使うんです?」

「いらない」

「え……」

「そんな面倒なことはめったにしないし」

「え――――っ」


 次に、アイテム屋に行く。

 革の背負い袋、大きめの布袋、ロープ、紐、寝袋、コッヘル、フライパン、ハンター装備一切合切をまとめて買う。

 買ったものは店を出てすぐにルナのアイテムボックスに放り込む。

 ……便利だなそれ……俺も欲しいよ。


 次に服屋。着替えの類をいろいろと。

 これはルナテス様の勝手にさせる。一週間分! 前に渡した金貨百枚以内! ということで厳命した。

 ……女の買い物ってのはなんでこう時間がかかるのか……。

 怒っちゃいけない。イライラしちゃあいけない。女が一番幸せな時間だからな。

 もうにっこにこでめちゃめちゃ時間かけて選んでるわ。

 俺は俺でシャツやパンツや靴下を速攻で一週間分買いそろえたよ。


 アイテムボックス便利。マジ便利。

「アイテムボックスってどのぐらい容量あるの?」

「私がいた空間と繋がってますので、別に制限はないです」

「無限大?」

「……はい。まあ事実上そんな感じです」

「ってことは、ルナテス様があの白い空間で使ってた私物も自由にここに持ってこれると?」

「そうですよ」

「イメージとしては倉庫につながっているどこでもドア?」

「……まったくイメージできないんですけど……」

 そりゃそうか。


 次は食料品店。もう二人で一週間分の食材、調味料、食器、その他を買いまくり。

 冷蔵しなくても品質は時間が止まったように持つそうだ。万能すぎるわアイテムボックス。


 さて、俺もルナテス様もやっとハンターっぽくなったところで、ハンター協会へ向かう。思う存分買い物させたおかげですこぶる悪かったルナテス様の機嫌もすっかりよくなった。

 若い子ならねー、むくれていても可愛いけどね……。こう、おばさんが不機嫌だとこっちのストレスがすごいですからね……。会社員生活で嫌というほど痛感しました。

 皆さんも覚えがあると思うんですけど、女ってデパートに連れていってやるとたちまち機嫌が直っちゃうんですよねえ。金はかかるけど一番の処方箋ですわ。



 俺たちがハンター協会に入ると、周囲が凍り付く。

 昨日の大惨事、知らないやつなどいないだろうな。

 ものすごい恐怖の目で見られています。シーンと静まり返っておりますな。

「おはようございます。お仕事をご紹介いただけると聞きまして」

 カウンターのオヤジ、オルファスに話しかける。

「さ、サトウさん、来ていただけてよかった……。あの、二階に会長がいますので、そちらでお話を聞いてください」


 二階に行って、面倒な挨拶はさっさとやめさせて、すぐに会長のゼービスと仕事の話にとりかかる。

「今はこれだけあるんです」

 壁に紙が貼り付けて並べてある。魔物、魔獣の討伐が多いな。

「緊急度の高い順だと?」

「緊急度の高い順です」

「これでかい……。じゃ、一番高いこれから行くか」

 ぶちっと紙を引きちぎる。

「ちょっちょっと待ってください!今、それは国軍が部隊を編成して来週からとりかかることになってますから!!」

「いいよ。俺たちでやりますから。来週からってことは四日あるってことですね、それまでに終わらせます」

「ドラゴンですよ!! ブラックドラゴン!」

「何か?」

「……本気ですか?」

「はい」

「……見なかったことにいたします。四日たってサトウさんたちが戻ってこなかったら、予定通り来週から国軍と連絡を取って、ハンター協会も参加しますから……。どうかお気をつけて」

「ありがとう」



「さ、佐藤さん! ど、ドラゴンなんて狩れるんですか!!!」

 協会を出て、並んで歩くルナテス様が驚愕です。

「昔の女房がドラゴンをペットに飼っていてね、俺と女房がイチャイチャしてるとヤキモチ焼いてたまにケンカになった。何度かおしおきしたよ」

「は……はあ……。魔王カーリン様のことですか……」

「あんたも知ってるんかい。まったくエルテスのやつなに書いてんだか……」

「読みました! 面白かったです! それに……私なんだかうらやましくて……」

「ツバルスト大森林か……」

 最後の一言は鈍感主人公のお約束で聞き流してと。


 衛兵にハンターカードを見せて城塞壁を出て、【マップ】を広げてから【ナビ】をセットする。

「女神さんて飛べる?」

「そんな、出来ません!」

「じゃ、つかまってて」

「ひゃああっ!」


 ルナテス様を背負って【フライト】で重力を切り、そのまま飛び上がる。

「きゃああ――――――――!!」


 暴れんなよ。気持ちいいじゃないか。



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