26.魔王城に乗り込んじゃった
ルナが大急ぎで聖水を垂らし地面に魔法陣を描く。
「急展開だな……。アンデッドのダンジョンを次々に封じられて、このままじゃマズいと向こうから攻撃に転じたか」
「はい」
「三人目の悪魔だ。マグナムの連中が今攻略しているダンジョン4にもきっと最後の悪魔がいる」
「なぜわかります?」
「あいつら、たぶん四天王だから」
ぷっ。ルナが吹き出す。
「もうっ、ホントにファンタジー脳なんだからっ!」
「様式美は大切ですよ?」
ルナを中心に、ふわっと光が満ちて、悪魔の死体が消滅する。
「終わりました!」
「よしっすぐにダンジョン4に向かうぞ!」
時間もったいねえ。ダンジョン内からもう【フライト】を使う。
ジェットコースターみたいだ。背中でルナがキャーキャーうるせえ。
マグナムハンターズが討伐中のデッドダンジョン4に飛び込み、最下層まで一気に進む。ここまで一匹の敵もいなかったな。よくやってるぜガキども。
「サトウさん!!」
「終わったっス!!」
おうっ、悪魔バラバラにされて床に散らばってるわ。
「すげえなお前ら。よくやった。お前らいなかったら大変なことになってたわ……ありがとな」
「いえ……、全部、サトウ夫婦に鍛えてもらったおかげッス!」
「デッドダンジョン3、どうだったッスか?」
「あっちも終わらせてきた。もう大丈夫だ。お前らケガとかは?」
「平気っすよ!ルナさんの付加のおかげで全員傷一つなかったっす!」
「めちゃめちゃ強かったっす俺ら。ホント助かりました」
ルナがすぐ魔法陣を描いて最後の封印をする。
ふわっと光が広がり、悪魔が消滅して、魔法陣が完成。これでもう大丈夫だ。
「サトウさんたち、いったい何やってたんスか? もしかして今回のアンデッド大発生、関係あるんスか?」
「ああ、魔王城行ってた」
「魔王城!」
全員が驚愕する。
「魔王城……ホントにあるんスね……」
「あったな。ドームで覆われて結界張られてて、この国内あちこちのアンデッドダンジョンからエネルギーを吸って、成長してた」
「……復活が近いってことっスか?」
「それを止めるために、今までダンジョンを潰してたんだ」
「あの……」
スミスが聞きたくて聞きたくてしょうがない顔をする。
「やっぱり、サトウさんは勇者なんじゃないっスか?」
「違う」
「いや、もう俺たちに隠さなくてもいいじゃないっスか。魔王の復活を阻止して魔王の手先と闘う。これが勇者じゃなくて誰の仕事ッス!」
「俺は勇者のパーティーメンバーさ。勇者はルナだ」
「ルナさんが!!」
「えええええ――――――――!!」
……今までで一番びっくりしたなお前ら。
勇者ルナテス様、恥ずかしそうに身をくねらせます。
色っぽいです。いつのまにそんな小技を……。
「……今のが一番驚いた……ッス。でも、一番納得いったッス……」
「俺たちは今から最後のアンデッドダンジョンを潰し、魔王城に乗り込む」
「まだダンジョンがあるんすか!」
「ある、魔王城のすぐそばに。最後の結界を守っている」
「行くッス!」
「俺も行く!」
「オイラも行くッス!」
「連れてってください!」
「ダメだ。ついてこられないだろお前ら」
「……」
飛んでいくからな。
「あの、みなさん」
ルナが話しかける。
「今まで、ありがとうございました。本当に楽しかった。みなさんとパーティー組めて、本当によかった」
「ルナさん……」
「ここまで私たちにご協力いただいてありがとうございました」
「そんな、俺たちの方こそ……」
「ってルナさん、まさか……」
「行っちゃうんスか? 戻ってこないんですか?」
「これ、みなさんで分けてください」
ルナが、革袋をアイテムボックスから出してスミスに渡す。
いままで稼いだお金を全部。
「俺の分も」
ルナがアイテムボックスから俺の革袋を出して渡してくれる。
言わなくてもわかってくれる感じが、すごく嬉しい。絆を感じる。
「これはルナテス教会に寄付してくれ。ネコババすんなよ」
「そんな……」
「マジっすか……。もう帰らない気っスか。まさか死ぬ気じゃ……」
「そんなわけあるか。しばらく留守にするだけだ。いつになるかわからんけど。戻ってきたらまたパーティーに入れてくれ」
「もちろんっス!」
「じゃあ、行ってくる」
「行ってきます」
「必ず、帰ってくるッスよ?!」
「お前らも、いつまでも俺らみたいなオッサン、オバサマに頼ってんじゃねーよ」
そう言って、一人一人のメンバーをゴツンゴツンと叩いていく。
「じゃあな。死ぬなよ。元気でやれ!」
廃墟の街。その中央の広場の泉。
濡れた体を月明りに照らされて力が抜けてしまったルナを受け止め、抱きしめる。
「……ルナ……」
「……っん……」
「魔王封印したらさ、一緒に暮らさないか?」
「……」
「家を買って、教会で結婚式挙げて、あいつらにも祝ってもらって」
「あん……」
「ずーっと二人で、ご飯作って、一緒に食べて、一緒に寝て……」
「んっ……」
「いっぱいして、ずーっと幸せに暮らさないか……。俺を看取るまででいいからさ」
「んっんっ……」
「ダメ?」
「んっ……」
ルナが俺をきゅーっと抱きしめてくれる。
「それ、プロポーズ?」
「うん」
「素敵です、嬉しいです……」
「どうかな……?」
「でもダメ」
「……ダメかー……」
「……だって、私たち、とっくに夫婦ですもの。今から結婚式なんて」
「いいじゃない」
「私、今のままで、十分幸せです」
「もっともっと、たくさん、幸せにしてあげたいんだ」
「嬉しいです……」
「ダメ?」
「……いっぱい、幸せにして下さい……。いっぱい、して……」
……おとなだな。ルナ……。
……おれよりずーーっと、おとなだ。
どこかでフラグを立て間違えたのかな。
どこかで、選択肢を誤ったのかな。
セーブポイントまで、戻れないのかな。
もうエンディングまで、なんの分岐もないのかな……。
朝になっても、もうアンデッドはいなかった。
「いくぞ――――!!」
「はいっ!」
「【ペタファイアボール・ホーリー】 発射!!」
大音響とともに、最後のアンデッドダンジョンが破壊される。
もう魔王城は目と鼻の先だ。
まるで石炭の山、炭化した木の切り株……そんな巨大な魔王城。
城を守っていた結界はもはや無く、一歩前に進むたびに現れるアンデッドをナイフで切り裂き、ルナを守って進む。
「……何者だ……」
玉座の男が気だるげに問いかける。
黒づくめの悪魔……。まだ眠そうだな。
「こんちは、勇者でーす」
「勇者だと……?」
「お騒がせしております」
「我はまだ目覚めたばかりだ……ちと来るのが早すぎるのではないか?」
「起こしちゃったかな」
「いや……いい。手間が省けるというもの」
そう言って、むっくりと玉座から立ち上がる。
でかい。2mはあるか。
ぐるりと周りを見回す。
「……四天王を見なかったか?」
「あの弱っちいヘタレなアンデッドダンジョンの管理人がどうかしたか」
「見たのか?」
「いや、殺した」
「なにっ!!」
目が覚めたか?ボンクラ魔王。
「アンタは準備が整って復活したんじゃない、寝てる途中でムリヤリ起こされたのさ」
「結界を……どうした!!」
「ダンジョンはとっくに封印済、お前の復活なんか待ってられっか」
「貴様……!!」
どおん!!
無詠唱のなんか魔法来た!
かまわず俺は歩み寄る。
どおぅん! どおぅん! どおぅん! どおぅん!
次々と撃ち込まれる魔法を素で受け止めてどんどん前進する。
その程度の魔法で俺にヤケド一つ負わすことなんかできるもんか。
復活前に起こされたお前と俺でどれだけレベル差があると思ってる?
思い切り魔王の横っ面をぶん殴る。
「ぐわぁあああああああ!!」
壁までふっとんだ魔王を、掴み上げて、玉座に叩きつけるように投げつける。
「があっ!!」
玉座がバラバラに砕けて魔王が転がる。
「き……貴様……!」
どす黒い血まみれの魔王がオーラに包まれて、エネルギーが膨れ上がる。
「死ね!」
大爆発が起こる。
魔王城が全部吹っ飛ぶほどの。
「あ……なぜ……」
爆心地のクレーターの中、【ウォール】のドームに守られて、俺とルナは平然と立っている。
出し惜しみせずいきなり最終奥義をぶっつけてくる魔王。
いいな、話が早いぜ。こっちに合わせてちまちまと戦闘力を上げてくれる敵なんて現実にいるほうがおかしいわ。
「ふんっ」
【ウォール】を解除して前に進む。
「く……来るな!」
魔王が咄嗟に紫色の結界を張る。
ズバッ!
それを俺は前の世界で魔王ルシフィスからもらったハンティングナイフで簡単に切り破る!
ルシフィスの野郎、とうとう、俺の【ウォール】を破りやがった。
俺の【ウォール】に、自分の魔法がまったく通用しなかったのがよっぽど悔しかったんだな。一年かけて術式何度も練り直しては挑戦してきやがって、ついに破る方法を見つけたんだとよ。
「雅之の結界はたしかに凄いが、音と、光は通しておる。それでわかった」
ニヤニヤしやがって種明かしはしてくれなかったが、確かにルシフィスが魔法属性を加えた特製のハンティングナイフは俺の【ウォール】を貫通したよ!
どんな結界もこのナイフには通用しないんだとよ。
ちくしょー、やっぱすげえ奴だよ魔王ルシフィス!
さすがだよ俺の親友!
「なっ!」
そのまま、ナイフを魔王の胸に突き立てる。
「ぎゃあああああああああああああ――――――――!!」
ルナの聖域付加が、魔王の体を青い光で蝕んでゆく。
「なぜっ! なぜっ……!」
血を吐いて魔王が崩れ落ちる。
「女神ルナテス様の御加護だ」
どしゃああああ……、
魔王の体が、むき出しの地面に落ちて、溶けるように地面に染み込んでゆく。




