24.魔王城に向かっちゃった
「少なくともアンデッドダンジョンの二か所に、悪魔がいた」
「はい」
「この悪魔はなにかしら、魔王に関係しているはず」
「そうですね……」
「情報足りんな……。あの悪魔殺さないで拷問して喋らそうって手もあったかもしれんけど、たぶんあいつら何もしゃべらんだろ」
「……そう思いますけど、あなたすぐ殺してしまいましたよね」
「勘……、かな? なにかとてつもなく危険な感じがした。今魔王に女神ルナテス自身が勇者として降臨してるって事実だけは何としても知られるわけにいかなかった。あいつらどんな連絡方法持ってるかわかったもんじゃない」
「知られるとどうなるでしょう」
「今までは魔王が復活してから勇者が召喚され、倒された。魔王が活動できる時間があったんだ。今回は既に勇者が召喚されている。物凄い短時間でなにか起こるか、ルナに総攻撃してくるかだ。魔王が復活しているかどうかが今のポイントだな」
二人で朝食のルームサービスを頼んで話している。
こういうのはベッドでは話さない。ソレとコレは分けるのが俺流だ。
……手詰まりだな。
「魔王が復活したかどうかってのはどうやってわかるの?」
「人類への攻撃が始まります」
「グールによる村への攻撃はすでにあった」
「あんなのじゃなく、もう魔物すべてが人間に敵意を持って襲ってきます」
「なので、グールの活発化は復活の前兆だと」
「はい」
「前兆ではなく、すでに復活していて、グールを先兵にしてる可能性は?」
「……不明です」
「ふーむ……」
「あの、なにか分かったことがあるのですか?」
「無い。無いから困ってる。ルナ、俺たちがこの世界に降りてどれぐらいたったか覚えてるか?」
「ちょうど一か月ですね」
「そう。俺のファンタジー脳がものすごく警告している。このペースじゃダメだ。間に合わないぞって」
「……」
「早くしないと、後手に回るぞ、被害が拡大するぞ、そんな気がして仕方がない……」
俺は立ち上がって、ルナにも見えるよう視覚化して部屋の壁一面に【マップ】を展開する。
「ルナとの生活は楽しくて、毎日が幸せだ。ずっとこうしていたい。でも、だからって、後手後手で動いていたら魔王の復活を阻止できない。復活してから勇者として魔王を倒し、封印しても遅いんだ。その時には大量に人が死んでいる。もう先手を打たないとダメなんだ」
「はい」
「魔王城に行こう。様子を見てくるんだ」
マップの一点を指さす。
魔王城。
この世界の最果て。
「行きます」
「よし」
「と、いうわけで俺たちは一週間ほど留守にする。用事が済んだらもっと早く帰ってくるけどな」
「ええええ――――!!」
ハンター協会でマグナムハンターズに話をする。そんな大したことか? たかが一週間が?
「そんな……攻略したいダンジョンがまだあるっス……」
「国内最大級のアンデッドダンジョンが、このまえ討伐した『デッドダンジョン1』と聞いてるが?」
「そうでした」
「じゃあもうあれより小さいのしかないんだよな」
「あと二か所っスね」
「それって街に近いか?」
「一番近い村から馬で半日ぐらいの距離にあります」
「どことどこだ」
「カララン村の『デッドダンジョン3』と、ブラッシー町の『デッドダンジョン4』になります」
「お前ら今武器にルナの付加ついていてアンデッド最強部隊だ。金もある、レベルも高い。ハンター協会の支援もあるし国にも顔を通してる。なんかあってももう大丈夫だろ。自分たちで討伐するか、危なかったらダンジョンを見張ってグールが出てこないようにしておくとか、村の警護をするとか、ちょっとのあいだ持ちこたえてくれないかな」
「わかったッス!!」
長旅の準備を済ませ、ラナス郊外からルナと飛び立つ。
丸一日飛んで、そこそこな街を選んで降り立ち、安宿に泊まる。
なんにもない街だ。ただ泊まるだけ。俺もルナもクタクタだ。
次の日は、魔王侵攻の被害を受けた廃墟の街を目指す。
首都ラナスから魔王城まで、残り四分の一を残す場所。
ここの街に最初の魔王軍の侵攻があったのか……。
「およそ百年ぐらい前になりますか……」
豊かな土地だったのであろう。街を中心に廃屋が点在する。農家の家だったんだな。
街は壊された城壁。崩れた石造りの建物。草や木、コケに覆われて当時の様子は見る影もない。
暗くなるまで調べたが、魔王や魔族について何かわかるようなものはなにもなかった。
街の中心に水場がある。今も湧水が滾々と湧き出ていて噴水広場のようにきれいな水で満たされている。
ここを今夜のキャンプ地にしよう。
泉を中心に【ウォール】のドームを張り、テーブルを取り出して二人で料理を作って食べ、水場を温水に変えて体を洗い、星空の下で愛し合い、とろけるように眠りにつく。
朝、目がさめると、グール系の魔物に取り囲まれていた。
声も上げず、静かに、獲物を狙うように、俺たちを取り囲む。
50体はいるだろうか。
もちろん【ウォール】のドームに阻まれていて手出しはできない。
【ウォール】が解けるのを待っている、そんな感じだ。
「……近くにアンデッドのダンジョンがあるのでしょうか……」
「あるな。それは後で調べるとして……。まずは朝飯かな」
「ふふっ。はい」
まるで動物園の檻の中みたいにギャラリーに食事風景を観察されます。
さて荷物を撤収して準備完了。
「【ブレイクウォール】の直後に聖域展開。すぐに【フライト】で上空避難。準備いい?」
「いつでもどうぞ」
「カウント3で。3、2、1、【ブレイクウォール】!」
「聖域!」
ルナを中心に青白いドームが爆発するように広がり、グールたちが四散する!
そのままルナを抱き寄せて【フライト】で上昇。
下を見ると、グールたちの残骸が広がっている。
生き残り……いや、アンデッドだから死に残り? はいないようだ。
「ホーリー、強力になったな――! レベルかなり上がってるんじゃないの?」
「上がりましたねーー。今101あります」
100オーバーできるんだ。99でカンストとかでなくてよかった。
聖域の有効範囲は100mぐらいになってるか。すげえなこれ、さすが本物の女神。チートすぎます。
「前はホーリー全力で使うとぶっ倒れてたよな」
「愛の力です」
「なにそれ」
「あなたにいっぱい愛されると調子いいんです」
くすっ。恥ずかしそうに顔の前で手を合わせる。
「……なんか吸ってない?」
上空から朝日に照らされた大地を見まわす。
廃墟となった街の背後から森林が侵食しつつある。
広大だ……。
「ルナ、そろそろアンデッドダンジョンの場所とかわからない?」
「うーん……ちょっと待ってください?」
ルナがブツブツと祈ると、丘の森から光が上空に上がる。
「あそこです!」
近づくと中腹に穴があり、いかにもダンジョンだ。
「他にも何か所かあるのかな?」
「あと二か所……と思います」
「それ、確認に行こう」
とりあえずこの場所は【マップ】にマークしておく。
ルナを背に乗せて、指示通り飛んで、残り二か所のダンジョンも発見した。
アンデッド化したダンジョンは、ラナスに近い順に言うと、
『スランダンジョン(討伐済)』。
『デッドダンジョン1(討伐済)』。
『デッドダンジョン2(討伐済)』。
『デッドダンジョン3』。
『デッドダンジョン4』。
『魔王城ダンジョンA(仮称)』。
『魔王城ダンジョンB(仮称)』。
『魔王城ダンジョンC(仮称)』。
の8か所となる。三か所討伐したから、残りは五か所。
探索を終了し、草地にテーブルを出して昼にする。
【ウォール】のドームの周りでギャーギャー言ってるグール化した魔物どもがうるさいわ。
「……アンデッド化したダンジョンには悪魔がいた。魔王から派遣されてダンジョンをアンデッド化していたと考えるのがいいだろうな」
「はい」
「もともとアンデッド化していたものについては、アンデッドの魔物のボスがいた」
「そうですね」
「魔王か、その眷属はアンデッドのダンジョンを増やそうとしている……。これは間違いない。つまり、復活にはアンデッドのダンジョンが必要。グールから、生命エネルギーみたいなものを吸っているか、生命エネルギーを吸い取られてグールになったとかな。ラナスの近くでダンジョンをアンデッド化し、グールを大量発生させようとしていたのはより多くのエネルギーを得るためだった、と考えてもいいかもしれない」
「じゃあ、アンデッドダンジョンを全部討伐したら、魔王の復活はなくなると?」
「逆もある。ファンタジー的には勇者がやってた討伐だの遺跡の破壊とかなんだのが実は魔王復活のために必要な手順で、それを全部やり終わったとたんに魔王が、『ふはははは、礼を言うぞ勇者! 我の封印を全て壊してくれるとはな!』とか言って復活してくる」
「なにそれ怖いです!」
「そういうのは悪い大臣とか悪い王様とか悪い教会とかが勇者をだましてやらせるんだけどね。ストーリー最後のどんでん返し」
「脱力しちゃいますねぇ……」
「なにをやっても結局魔王の復活は止められないんだよな――。だって最後は魔王と対決しないと最終回にできないんだから」
「あなたってホントにファンタジー脳なんですね」
「やかましいわ」
と、いうわけで実験です。ランチを撤収します。
「【メガファイアボール……カウント10ミニッツ!】」
空中に、水蒸気の玉を作る。
空気中の水分を分離して水素にし、極小の核融合をさせて爆発させる超ミニ水爆だ。
「ルナ、これに聖域を纏わせることってできる?」
「これ、なんですか?」
「時限爆弾。十分で起爆」
「……怖いのできるんですね……。とりあえずやってみます」
うんにゃうんにゃいろいろやってなんとか水蒸気の弾がふわっと青白い光で包まれる。
「できました!」
「よしっ、じゃ、離脱するぞ! つかまれ!」
「はいっ!」
「【ブレイクウォール!】」
ランチの間俺たちを守っていた【ウォール】のドームが消滅する。
いっせいに襲い掛かってくる百体近いグールの魔物たち。
俺たちは【フライト】で垂直上昇。
ぐわああああああっ!!!!
ものすごい怒声が上がる。
ドゴーーーーーーーーン!!
真下で爆発!……いや大爆発!
衝撃波に押されて青いドームが500m近い範囲にまで膨張!
群がっていたグールたちが爆散する。
……すごい威力……。
俺の【メガファイアボール】って、戦車一台ぶっ飛ばす程度の威力だと認識しておりましたが、ルナの聖域と合わせるとこんなにアンデッドに効くんだ。こりゃ使えるわ。
さあやってきました魔王城。
……なんかいろんなものが飛んできますね。迎撃ですかね。
ルナを背負って飛んでいる俺を中心に球状の【ウォール】を展開します。
これ、けっこう普段からやってる魔法です。高速飛行中の風よけにね。
コウモリみたいなのとか羽の生えたちっちゃい悪魔とか、【ウォール】の周りで暴れてるけど気にしない気にしない。
……魔王城、黒い岩っていうかなんていうか、石炭が地面からにょきにょき生えてきてって感じの不気味な城だな。
五層の紫色した透明のドームに囲まれてる。ガラスを重ねたみたいに。結界か。
……結界の大きさがちょっと不均一だな。バラバラ。
「あのドームが結界?」
「はい」
「説明して」
「……えーと唐突ですね。まず勇者が魔王城に入る時にはこのドームはありません。消えているんですよね。で、魔王を倒すと、あの魔王城が崩れ、数年後にドームが出来て誰も入れなくなります。ドームはどんどん増えてきて、それにつれて魔王城も大きく成長してきます」
「魔王復活の準備が着々と整い、ドームも成長すると」
「そうですね。あのドームがあるうちは誰も入れない。魔王も出られないってことになります。魔王が復活すると、ドームは消え、魔王は魔王城から出られるようになるんです」
「そして魔物たちを操って人間を襲わせると」
「はい、それで勇者を召喚して、魔王を倒してもらっていました」
「詳しいねー」
「もう千年もそんなことの繰り返しでしたので……」
「あのドームは勇者でも女神でも破壊できないわけだな?」
「はい」
「あのドームはいつ破れるかわからない。魔王がいつ復活するかはドームを監視しててもわからないと」
「その通りです」
「ふむ……」
たとえ今無理やりドームを破ったとしても、そこにはまだ魔王はいない。
魔王、叩き起こすか……。
よし、第二の実験だ。




