23.国王と面会しちゃった
王宮前で待ってるとマグナムハンターズが来た。
「サトウさん渋いっすね!」
「いいなーそれ……」
「なんかこう着慣れてる感じがしてさすがっす」
……お前らについてはもう何も言うまい。俺が浮いてるじゃねえか。
「じゃ、こっからリーダー、仕切れ」
「うええええ――――?!」
「役目だ、場数踏んどけ。これから増えるぞ」
「……はいっス……」
スミス涙目。
門番に召喚状を見せ、メイドさんに案内され、部屋で待たされる。
王宮に入るのは初めてだが、シンプルで実に真面目な作りだ。
成金っぽいふざけた装飾はほとんどない。ルナテス教の教え『虚飾』グッジョブ。
お城というとベルサイユ宮殿みたいなキンキラキンなやつを思い浮かべるやつもいるかもしれないけど、実際はお城の本来の用途は「要塞」だからね。これがあるべき本来の姿だからね。
「お待たせしました。陛下がお会いになります。どうぞ」
案内されて、謁見の間に行く。たいして広い部屋じゃないね。うんシンプル。
国王もう待ってるよ。
王様高いところにいるわけじゃなくて普通に床の上に立ってるだけで椅子は無い。
さすがにいい黒服着てるけどまあ貴族の紳士だね。華美じゃない。脇に大臣? 衛兵は五人かな。まあ俺らハンターだから一応警備はつくわな。
ぞろぞろと王様の前に進み、距離を置いて止まる。
「ハンター協会からまいりましたマグナムハンターズです。はじめまして」
スミスが頭を下げたところで全員でお辞儀する。
「国王のナトランスだ。今日はわざわざの召喚に応えてくれてご苦労だった。謁見が立て込んでいて待たせてしまったのは申し訳ない」
おうっ、なかなか好人物だぞ。じいさんだけどな。
大臣っぽいやつが文書を読み上げる。
「ハンター協会、マグナムハンターズ。今回のワイバーン討伐、デッドダンジョン1、デッドダンジョン2、それと、まだ未確認ではあるがスランダンジョン討伐の功績に対し、その偉業を称えここに報奨金を贈呈する」
国王が大臣から革袋を受け取り、前に進んで国王自らスミスに手渡す。
「よくやってくれた。難しいアンデッドのダンジョンを攻略するなど国軍を動員しても多くの犠牲者が避けられない難仕事だ。感謝するぞ」
「あ……ありがとうございます!」
全員でお辞儀をする。
よくあるテンプレな国王とはだいぶ違うな……。気さくだわ。
ルナテス教の教義の罪、憤怒、強欲、怠惰、傲慢、嫉妬、虚飾、差別。
これが尊重されていることが国王を見るとわかる。
もういいじいさんなのに、トップは腐ったりしていない。
なかなかの名君と見た。
「これで多くの村々が守られた。このラナスとて例外ではない。今後の活躍にも期待する。よろしく頼む」
「はいっ!」
うん、嬉しいよな。こういうストレートな誉め言葉。
「本来こういうことは国軍がやらねばならぬ……。だが、アンデッド相手だと腰が退けてなかなか動かぬ。やれない言い訳ばかり持ってきよる。さっさと片付けてしまった諸君のお手並みには驚きだ。いったいどのようにしてやっているのだ?」
「それはその……。どれも行ったことあるダンジョンっすっから、いつもの魔物がアンデッドになってるだけなんで、そこはまあ何とかなるっス」
「それだけではあるまい?」
「いえ、それだけっス」
「ふむ……言えぬと申すか」
「あの……」
スミスが困った顔して俺を見る。
「陛下」
俺が助け舟を出す。
「聞いてなんとなさいます」
「……アンデッドに安全に立ち向かえる方法があれば、国軍のためにもなろう」
「そのような方法ございません。この者どもは全て自らの命も顧みずアンデッドに堂々と立ち向かっております。ここは損得でお考え下さい」
「損得とな?」
「国軍で多額の税を投入してダンジョンを討伐するような軍事行動を国を挙げて動かし、この若いハンターたちを路頭に迷わすのと、この者どもに任せ、その働きを見守るのと、陛下にとってどちらがお得になりましょうか」
「ふむ……もっともだが、前途ある若いハンターたちを捨て駒にするのはな」
「我々国軍も、手をこまねいてみてるわけではないっ! ダンジョンを討伐する方法あれば、提供するのが国民としての義務であろう!」
おう、なんか軍人らしきやつが口を出してきたぞ。
ダメなタイプかな?
「では方法をお教えします」
「言え」
「入り口から入って、時間をかけて少しずつ探索し、中にいるアンデッドを一匹残らずすべて駆除を行います。一匹残らずです。一匹でも残せば、そのダンジョンはまた一匹のアンデッドから感染してすべての魔物がアンデッド化します。なので全滅させるのが最善となります」
「そんなことはわかっておる!!」
「……なにが疑問なのですかな?」
俺がとぼける。
「だから、アンデッドを倒す方法だ!」
「首を斬り落とします」
「そんな方法は知っておる!」
「ではなにが疑問なのですかな?」
「アンデッドを簡単に倒す方法だ!」
「全員で攻撃して弱らせ、取り押さえれば首を斬り落とすことも出来ましょう。難しいことですかな?」
「……むむ……」
これ以上聞くか? これ以上聞いたら、国軍はハンターより弱いってことになるぞ? それでもいいのか?
「はっはっは!」
国王が笑う。
「サトウ殿。種明かし礼を言う。手間をかけた」
「私には侮辱に聞こえました!!」
軍人らしいやつがいきり立つ。
「侮辱だと思うならばアンデッドダンジョンを討伐すればよいではないか。国軍はやってくれるのか?」
「……む……」
国王も正論でグイグイいく人ですな。俺には話がしやすいタイプだ。
「サトウ殿はドラゴンをも討伐なされたとか」
「それこそ嘘にちがいありませぬ! 討伐が偽りならば稀代の詐欺師ですぞ!」
国王が軍人さんに向かって首を振る。
「ニルダー、勘違いするな。あり得ないほど新鮮で、かつてないほど損傷の少なかったドラゴンの死体をわずか金貨一万枚で買い叩いただけだ。ドラゴンの討伐という偉業には、なんの褒賞も、名誉も与えておらぬ。もしサトウ殿が伝説の勇者なれば、領土と爵位を与えねばならぬところだ。安い買い物だとは思わぬか」
「しかし……。勇者でもない者が一人でドラゴン討伐など信じられませぬ」
「嘘であろうと真であろうとドラゴンの死体が持ち込まれた事実は変わらぬ。また、それによる不都合も無い。ハンターからドラゴンの死体を正当な対価で買い取った。なにがいかん?」
「……む……」
「陛下、それぐらいで」
軍人ってのは厄介なんだよ。プライドばっかり高くってさ、恥をかかされるとずっと根に持ち、復讐の機会を狙うようになるからな。
「おう、失礼した。正直、なにかやっておるとは思う。だが、それは我らでは真似できぬ、ということであろうな」
「御意にございます」
「今後も活躍を期待する」
「ありがとうございます。この若者たちに今後も支援をお願いいたします」
「承知した。大儀であったぞ」
国王が手を出してくれたので握手する。
和やかに終わってよかった。
「いやーサトウさん流石っス!なんか場慣れしてるというか、国王相手に一歩も引かないっていうか、すげえっス!」
「俺らあんなうまい事言えないっすよ。絶対ボロでてたっス」
「ボロってなんだ。やってることそのまんま言っただけだ」
別に難しいことは言ってない。
「とにかくこれで国王のお墨付きも得られた。お前らにも出世の道が開けたってことだ。頑張れば騎士も夢じゃないかもな」
「おお――――!!」
スミスが不貞腐れる。
「俺はそんな固っ苦しくて退屈な仕事より、ハンターのほうがいいっスけどね」
「そりゃそうだな」
「ハハハハハ!」
「そうそう、いくらもらった」
「えーと……」
夜のベンチで全員で囲んで革袋の中身を広げる。
「……金貨百枚ッス」
「……うん」
「……うん……」
「……」
一人当たり七万円か……。
「最近感覚マヒしてきてたっスけど、本来俺たちの稼ぎなんてこれぐらいあれば十分だったっすね」
「そういやそうか」
「そうだな」
「そうだったわ」
「ははは!」
国王、意外と堅実ですな。




