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22.呼び出されちゃった


 この下に空洞がある。


 【マップ】がそれを示している。

「テッド、槍!」

 槍持ちに槍を借りる。

 コン、コン、コン、コン、コン、コン、コン、ポコッ、ポコッ。


「ここだ……」

「地下っすか……」

 いやダンジョンはそもそも地下だ。

「離れろ。崩すぞ」

 全員が壁に散る。

「【ウェザリング】!」

 風化魔法だ。

 岩石といえどもバラバラの砂状になる。

 ざざざざ……ぎしっ……ボコン!!!

 床に穴が開く。


「ルナ!」

「はい!!」

 二人で穴に飛び込む。

聖域(ホーリー)!」

 青白いドームが爆発的に広がって穴の奥から絶叫が響く。

「ぎゃああああああああ!!」

 俺は目の前に暗視魔法の【ナイトビジョン】を展開しハンティングナイフを片手に突っ込む。


 五体のグールを倒し、最後にうつ伏せに倒した悪魔の背中にナイフを突き立てて床に縫い付ける!

「ぐあああああ!!」


「いいぞルナ、照明弾(ライトアロー)!」

 ひゅんひゅんひゅんとあたりに光弾が突き刺さり、照明になる。


「……エルラン」

 降りてきたスミスたちが倒れたグールたちを見て絶句する。

 行方不明になっていたB級ハンターたちだった。

 俺も見覚えある。初日に俺に絡んで、登録書類をつまみ上げたやつだった。


「あなたは悪魔ですね」

 聖域を(まと)ったルナが悪魔に近づく。

「捕えた人間を使ってなにをしようとしてるんです?」

「ぐあ……言うと思うか?」

 ナイフをねじる。

「ぐわああああああああああ!!」

 汚い悲鳴を上げる。

「殺せ! 殺せええええ!」

「そうしよう」

 ナイフを抜いて一気に首を斬り落とす。


「……」

「お清めをします……」


 ルナが祈りを捧げ、みんなで祈る。

 エルランたちの死体が浄化されてゆく。

 五人のハンターカードを回収し、【ウェザリング】で灰にする。


 ルナが悪魔の死体が転がった穴を中心に、聖水を垂らして魔法陣を描く。

 祈りを捧げると、魔法陣がふわりと光って床に刻まれ、悪魔の死体が消えてゆく。


「……チンピラ同然の奴だったけど、死んでいいわけじゃない……ス」

「そうだな……」

「この悪魔、何をするつもりだったんだろう……」

「たぶんだが、捕まえた人間をグールにして、ラナスに送り込む計画だったんじゃないかな?」

 推測だけどな。俺が悪魔ならそうする。

「ぱんでみっくってやつッスか」

「そうだ」

「……未然に防げたって事っスかね」

「みんな、このことは誰にも言うな。ラナスがパニックになる」

 一応釘を刺す。

「そうっすね。これで終わったなら、わざわざ知らせることもないっスよね」



「みんなに言っておきたいことがある」

 車座になってダンジョンの最下層で告げる。

「もういい加減わかったと思うが、俺たちの目的はこれから起こる魔族との戦争を止めることだ」

「戦争って……」

「もしかして……」

「魔王の復活……?」


 ルナテス教の教えはみんな知っているに決まっている。

 魔王が復活するたびにそれを勇者が倒してきたことを。


「サトウさんはもしかして勇者なんスか?」

「いいや」

「じゃ、なんでこんなことを……。っていうか勇者みたいに強いんスけど……。サトウさんが勇者で全然おかしくないっていうか、そうだったら納得なんですけど」

「違う、俺は……、まあ、なんちゅうか脇役だ。主役は別にいる」

「また勇者が召喚されるんすか」

「……まあ、そんなことにならないように未然に防ぎたいとは思っている」

 みんなに向き直って話す。


「みんなには不本意だろう。本当は街を救った、最悪の事態を防いだ。そういう手柄を俺は内緒にしてくれと頼んでいる。みんなはただ、ダンジョンを討伐しただけだ。それだけの評価と、金しかもらえない。不満かもしれない」

「いやっそんなことないッス! なんかすげえことお手伝いできているだけで俺らすげえ……なんちゅうか、やりがいあるっス!!」

 みんな頷く。

 ありがたい……。


「……実際、一番肝心なとこはサトウさんとルナさんに頼りっぱなしですしね、俺たち」

「こんなアンデッドだらけのダンジョン、本来だったら俺ら手も足も出ないしな」

「調子に乗ってんの俺たちっスから。サトウさんに助けてもらってんの俺らです」

「サトウさんに来てもらってから、俺らすげえレベルも上がってるし、金も稼げてます。感謝してるっすよ」

「ルナさんいるから俺ら突っ込めるッス。もしやられても絶対ルナさんとサトウさんが何とかしてくれるって思うから、こんなとこでも戦えるんすよ」


「すまん。これからもよろしく頼む」

 ルナと一緒に頭を下げる。



 その夜、討伐のお祝いにバーベキューしてから、泉を風呂代わりにみんなで入った。ルナは食事の後片付けしてるよ。男だけだよ。


「あの、アニキ……」

 なんでアニキ?

「あの……俺ら……、その、昨日ですね……。ここで……」


 ……やっぱりか。


「勉強になっただろ?」

「……はいっ!!!!」


「なんか、全然違うっていうか」

「あんな風にするのがホントなのかって」

「あんなに時間かけてするもんなんスね。知らんかったッス!」

 うん、動いてるように見えなかったかも。

 ルナとむにゅむにゅすりすりしてただけに見えたかも。


「なんていうかその……あの、ぜんぜんやらしく見えなかったっていうか」

「そうそうっ、なんかほんとに、愛し合ってるっていうか、愛情伝わってきたっていうか、すげえなんか、ほっこりしました」

「二人とも、幸せそうで、あんなんなりたいなって思いました!」

「じゃあなんでみんな朝パンツ洗ってたんだよ」

「うっ!!!!」


 この齢までAVも見たことのない奴らだもんな。

 やり方なんて娼婦に習ってたら、「すぐに終わるやりかた」しか教えてもらえないもんな。

 まあ、こいつらに彼女ができた時、ちゃんと幸せにしてやってほしいし、ルナもきっとそう思って続けたんだと思うし。


「……女はな、愛されてるっていう充実感が一番嬉しいんだよ。時間かかるから、ゆっくりな」

「はいっ!!!」




 一晩キャンプして、ハンター協会に戻ると、例によって協会会長ゼービスが待っていた。


「ご苦労さん! まったくお前たち、よくやるようになった……。大したもんだ」

「コレっスけど……やっぱり、エルランたちやられてました」

 回収したチンピラども五枚のハンターカードを渡す。

「そうか……残念だった。実力はあるチームだったんだ。なんというか……まあ私の不徳だな」

 ゼービスも辛そうだ。


「討伐証明は?」

「今回は特に無しッス。グールばっかしッスからね。持ってくるほうが危ないし、もう安全になってるから誰か調査にやってほしいッス」

「わかった。お前らについてはもうそれでいい。グールとか持ってこられてもこっちが困るわ。今後も無理に討伐証明持ってこなくても受け付けるぞ。不正すんなよ」

「俺たちの女神様に誓って」

 お前ら本当に頼むぞ。そこにいる人、本物の女神様だからね。


「いい知らせか悪い知らせかわからんが、王宮から使者が来た。今晩報奨金を受け取りに行ってくれ。これが召喚状だ」

「うえ――……」

「サトウさんも悪いけど行ってくれませんか」

「じゃあ俺だけ」

「いいよ」

 あっさり。

 今のルナには女神様自らが自分にかけた女神ルナテスの加護がある、勇者だ。

 下手したらそれがバレるかもしれないからな。


「じゃ、頼む。失礼にならないように、できるだけいい服着てな!」

「うえ――――っ……」



 ルナと二人で一番大きい服屋に行って、ちょっといい紳士服を新調する。

 この時代こういうのはオーダーメイドなんだけど、吊るしがあってよかった。

 あの一番最初に着てた魔界風貴族服は封印だ。

 よく考えてみてくれ。俺アレ着て二回も葬られたんだぞ?

 死体が着てた服だぞ? 自分だからいいけど、そろそろ気持ち悪いだろ?


「はうぅ……素敵ですわあなた……」

 試着を見てルナがうっとりする。普段汚いハンター服しか着てないからな。


 宿に戻って、ルナに髪を切りそろえてもらい、髭も剃って風呂に入ってから真新しいシャツに腕を通して買ってきた服を着る。

 この街のどこにでもいる紳士の出来上がりだ。

「どう?」

「……なんか急に普通に見えてきちゃった」


 ゲレンデ効果短すぎ。



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