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21.見られちゃった


 夜のうちにラナスに戻ってきて、路地裏にコッソリ降り、あとはルナをおんぶして宿屋に戻る。

「はいはいお風呂に入ってください!」

「ねむい――っ」

「……全身臭いですよ。そのまま寝かせるわけにはいきませんっ」

「ぬがしてーっ」

「喜んでっ!」


 もう全裸にしてバスタブに漬けて隅から隅まで泡立てて思う存分洗いました。

 途中で目が覚めたのか恥ずかしがっておりましたがいまさらです。

 ベッドまで待てませんな。乱入します。


 朝になってルームサービスで朝食を取る。

「あいつら今日の昼過ぎには帰ってくるんじゃないかなぁ」

「置いてくるとかひどいですー」

「あっはっは。とにかく今日一日は暇だ。のんびりしようや。ルナどうする?」

「疲れました。寝ていたいです」

「じゃ俺はちょっとぶらぶらしてくるか」

「夜までには帰ってきてくださいね」

「夜までにはあいつら戻ってきて酒場で騒いでるよ。あとで合流しよう」

「歓楽街はダメですからね」

「もうこれ以上は無理です」


 注文してた時計職人さんとこ行ってみた。

 だいぶ出来上がってたな。

 テンプの試作品見せてもらったよ。

「凄いなこれ。姿勢が関係ないし、振動もゆっくりだから(おもり)を揺らすよりゼンマイが長持ちするよ。いいの教えてもらった」

「あとはヒゲぜんまいの耐久性か……」

 二人でいろいろ相談する。

 それから屋台で飯を食ってから、いろいろ買い物し、ハンター協会に顔を出す。

「よっ元気だったか!」

「ひどいっスよサトウさん、先帰っちゃうなんて――!」

 床でへたばってるマグナムハンターズに大ブーイング浴びました。


「何言ってる。俺たちがいなくても飯以外はいつもと同じだろ」

「……俺たちにはルナさんの笑顔が必要なんっスよ」

「嬉しいこと言ってくれるね。でもルナだって疲れてたんだ。あのままだときっとすげー機嫌悪くなったぞ?」

「……わかったっス。そんなルナさん見たくないっス」

「お前らさあ、女性メンバーとか入れればいいだろ」

「サトウさんはこの街に来てから、女ハンターなんて見たことあります?」

「……ないね」

「……でしょー」

 悪かった。今の質問は俺が悪かったよ。


 二階から会長のゼービスが降りてくる。

「デッドダンジョン1の討伐証明、受け付けたぞ。グールミノの頭も教会に渡してきた。お清めしてから燃やすらしい」

「お疲れ様ッス」

「パルアーたちのカード回収、ご苦労だった。残念な結果になったが、行方がわかっただけでも救いだな……。教会にカードを納めて、弔ってもらうように手配した。これで墓が立てられる。よくやった」

「……はい。ありがとうございます」


「デッドダンジョン2の調査は済んでる。アンデッドいなくなってたって報告受けた。野生動物とか魔物とか入り込んでたけど、数が少ないしB級の連中でも最深部まで行けたそうだ。しばらくしたらまた元のダンジョンに戻るんじゃないかな。もう『デッド』じゃなくてただの『ダンジョン2』だが」


「元のダンジョンに戻るんですか? 閉鎖したほうがいいんじゃないですか?」

 俺がびっくりだよ。

「いやあ普通のダンジョンは若手の育成とか稼ぎのためにも必要だ。要はアンデッドさえ出なけりゃいいんだ。これからもよろしく頼むよ」

「はあ……、まあそういうことなら」

 ダンジョンなんて無いほうがいいと思うけどなー。

 

「デッドダンジョン1討伐、金貨七百枚だ。あと、王宮から追加で報奨金出るぞ」

「うおおおおおお――――!!」

「報奨金の方は、ダンジョンの安全確認できてからだけどな」

「それでもうおおおおおお――――!!」

「報奨金は王宮で国王陛下から直接、(たまわ)れる。あとで使者が来るからな」

「うぉぉぉぉ……」

「なんだテンション低いな。王様に褒めてもらえるんだろ?」

「メンドいっス……。俺らそういう堅苦しいの苦手ッス……」

「俺がついていってやるから心配すんな」

「うぉぉぉぉ……」


 まあ王様相手に腹を探り合うとか俺の専門だ。任せていいぞ。

 面倒事だと思うだろ?面倒なことほど早く済ませておくべきだ。

「とにかく今夜はトリスの酒場で騒ぐッス。後で来てくださいッス」

「ルナさんもご一緒に」

「ルナさんに会いたいっす」

「ルナさんの笑顔が見たいっす」

「ルナさん無しじゃやる気出ないっす」

 完全にオタサーの姫扱い。どう考えてもお前らのオフクロだろ……。


「んじゃ、トリスの酒場で会おう」


 その晩、ルナも連れてにぎやかに宴会した。

 酔っぱらっても、俺たちがダンジョンで見せたいろんな魔法については、誰も話題にしなかった。なかなか義理堅い奴らだな……。助かるよ。



 翌朝、再びギルドホールに集まった。

「次はスランダンジョンっスかね」

「ああ、エルランのパーティーが全滅したやつだな……」

 ゼービスが渋い顔をする。

「Bランクのパーティーだな。……。無理しやがって」


「全滅したというのはなぜわかるんです?」

 一応聞いてみる。

「帰ってこないからさ」

「調査しました?」

「まあ中級向けの通常のダンジョンだったし金稼ぎにも丁度良い場所だったんだが、別の者に見に行かせたら入り口からもうアンデッド化していてすぐ逃げてきた」

 なるほど。いつもの狩りのつもりで行ってみたらアンデッドにやられたと。


「俺らも去年までよく狩場にしてたとこッス。街から近いし今のところ一番緊急性が高いと思うッス」

「距離は?」

「半日。いつも一泊二日で狩りしてたっス」

「近すぎる……アンデッドがあふれたらラナスにパンデミックが起こるな……」

「ぱ……ぱん?」

「グールに噛まれたやつがグールになってあっという間に市民全員がグールになってしまうってことさ」

「……最悪の事態っスね」

 バイオハザードだな。


「午後から出発でもいいっスか?」

「リーダーはお前だろ? お前決めて俺に命令しろ」

「そうでしたッス。なんか悪いッス。じゃ、今日の午後すぐ出発するッス! みんないいっスか?」

「了解」

「OK」

「わかった」

 ゼービスも了解する。

「了解した。じゃ、馬と馬車は前と同じで協会から貸し出すから。お前たち立て続けで悪いががんばってくれ。今回の依頼はハンター協会からってことにする。時間が無いからな」

「ウスッ!」

 ハンター協会の全面バックアップで、午後からすぐ出発になったよ。

 面倒なので屋台から十四人分の焼肉サンド買っちまった。


「……この服臭くなってきました……洗濯したい……」

「俺もだよ……」

 例によって、最後尾で二人だけ馬車使わせてもらって、夕暮れにスランダンジョン到着。綺麗な泉がある風光明媚な場所ですな。すぐにテントを張り、野営の準備。

 夕食には鶏肉バーベキューしてみんなで食べた。



 みんなが寝た後、ルナが起き上がって俺を起こす。

「あなた、あなたっ……」

「ん、どうした?」

「ちょっと服洗濯したいの。結界ちょっとだけ外してくれる?」

「んー、じゃあ俺も一緒に行く」


 月明りの中、二人で泉に行く。

 野営地に張り巡らせた【ウォール】はね、実は俺は通れるんだよね。

 こう、手をあててぐにゅーって力入れると向こう側に抜ける。術者は通れる仕組みになっている。この時ルナと手をつないでいると、ルナも通れる。

 綺麗な泉だな。

 ルナ、ナイトガウンのすそをまくり上げて腰に縛って、ハンター服をじゃぶじゃぶ泉に浸して洗ってる。

 俺はもう面倒なのでザブーンとハンター服のまま泉に入る。

「キャーッ! ハハハッ」

 ルナがけらけら笑いながら悲鳴を上げる。

「気持ちいい――っ」

 俺は泉をすいすい泳いだり、服をあちこち揉んだりこすり落としたりして汚れを落とす。

「もうっどうするんですかっ!」

「タオルいっぱい持ってきたから、それで帰るし」

「だらしないですよ」

「いいもん誰も見てないもん」

 一枚ずつハンター服脱いで、洗って絞ってはタオルの上に置いてゆく。

 しまいには全裸になっちゃった……。

 ルナもだいたい洗い終えたようだ。

 ナイトガウンをするっと脱いで、下着を取り、泉に入ってくる。

「……なんか私も体まで臭くなったみたいで、気持ち悪くて……」

「ほんとになーっ」

 潜って二人で髪を洗ったり、濡らしたタオルで体を拭いたり……。

「あなた……」

「おいで」

「あんっ……」

 ルナを俺の上に座らせて抱きしめる……。

 いっぱいすりすりして口づけて。


「あなた……」

「ん?」

「後ろ……」


 振り返るとばさっ。テントの幕が閉じました。

 三つあるテントの入り口の幕がいっせいに。


「……いいじゃないか。君は素敵だ」

「ああん……」



 洗濯物はロープ張って吊るして空中に【プラズマボール】を幾つも浮かべて【ダウンバースト】で温風がそよそよ吹き付けるようにした。

 明日の朝には乾くだろう。

 おやすみ。




 翌朝、なぜかマグナムハンターズの連中が、朝から全員、全裸で泉に浸かって洗い物してたよ。

 ……朝食の間、いつもはルナをガン見してくるこいつらが、今日はルナの顔も見れないと。まったく。

 ルナ、なぜ顔が赤い。


 さて俺たちもすっかり乾いてスッキリしたハンター服、装備に着替えて準備完了。


「要領は前のとおりッス。みんな通い慣れてる場所だとは思うッスけどアンデッドが湧いている以上全く別物と考えて慎重に、気を抜かずやってほしいッス。7層と少ないので、今回はダンジョン内での寝泊まりは無しで、攻略が終わらなかったら八時間で一度撤退するッス。あと……」

 スミスの顔が辛そうになる。

「……エルランのパーティのグールと出くわすかもしれないっす。ためらったら負けッス。ハンターと思わず、直ちに総攻撃してくださいッス。ルナさんも言ってたように、そのほうがあいつらにとっても慈悲になるっスから」

 全員、頷く。

「無理せず、安全に、一人のケガ人も出さずにやるのを最優先に! では行くッス!!」

「おう――――!!」



 さすが通い慣れてただけあるな。迷いがない。攻略手順は既に完成しているのだろう。

 魔物についてはいつも狩っていた相手がアンデッドになっただけだ。ルナの付加もあるのでほとんど一撃で葬っていく。

「クリアー!」

「クリアー!!」

 獲物がいなくなった分岐通路については俺が【ウォール】で蓋をしておく。

 ワニだのトカゲだの巨大カエルだの爬虫類、両生類が多いな。

 半日ほどで最下層に到着だ。

 巨大グールヘビだな。ここまで温存してきた魔法使いの火炎放射と壁と槍の連携攻撃から剣で止め。スムーズだ。


「終了ッス!!」

 全員がいい汗かいて笑う……。


「そういえばエルランたちいなかったっスね」

「……食べられちゃったかな?」

「案外しぶとく逃げ出したのかもしれないし」

「まだだね」

「え……? なんスかサトウさん」

「もう一つ下にある」

「えええ――――!!」



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