20.パーティーメンバーが泣いちゃった
どすんっ。
どすっ。
どさっ。
「いてっ!」
「いってぇ!!」
「うわ!!」
【ウォール】のエアマット、十時間の制限付けといたからな。
切れたら6cm上から寝たまま落下だ。まあ目覚ましだ。
「さあ起きろ起きろ」
ルナがでっかいウォーターボール空中に浮かしといたから、全員それで顔洗ったり。朝食はサンドイッチ。鶏肉薄く焼いてレタスとソースとチーズをスライスしてクラブハウスサンドだよ。
「……フツーっすね」
「フツーっす」
「なんかフツー」
殴りたくなってきた。朝からガッツリ食うとかおじさんおばさんにはもうキツいのっ。お茶も飲ませてシャッキリしてもらう。
あ、サンドにトマト入れ忘れてた。あれ入れないと物足りないよな……。反省。
B9、グールサイ
サイでけえ! ルナの徹甲弾で弱らせてから総攻撃。
B10、マンティコア2匹
一度倒したことある相手だから楽勝。
B11、オレンジ色がやたらキツ目の色のグール虎2頭。
2頭同時はさすがにキツいんで、一頭は【ウォールボックス】に閉じ込めて一頭ずつ退治する。進んだらもう2頭出てきたんで、これも同じく倒す。
B12、グール……。
初めての人型だ……。
さすがに全員の手が止まる……。
「……パルアーさん!?」
リーダー、スミスが驚愕する。
「パルアーさん! ジャッキアンさん! 俺! 俺ス、スミスです!」
ボロボロの服を纏った白骨化しかかってるミイラが剣を振り上げてかかってくる。
それを受け止めるスミス。
「知り合いなのか!」
「行方不明になってた先輩っス!!」
マズいな、メンバーに躊躇が生まれている。
「ランダーさん! 俺、俺です! テルです! わかりませんか!」
きいんっ! がきっ!
手が下せず防戦一方のメンバーたち。
「闘いなさい!!」
いきなり、ルナの叫びが響き渡る!
ビシュ! 後ろから光の矢が飛んできてパルアーのミイラの額を撃ち抜く。
「こんな迷宮でさまよい続ける運命から解放してあげなさい!!」
崩れ落ちるパルアーのミイラ。
俺も逆手に持った左手の十手で剣を防いで右手のハンティングナイフで一体を袈裟に両断し葬り去る。
「うああああああ!!」
一斉に総攻撃に入るマグナムハンターズのメンバーたち。
戦闘はあっという間に終わってしまった。
六体の崩れ落ちたミイラたちがバラバラになって地面に転がる。
「……先輩なんス」
スミスがうつむく。
「俺らが、DとかCとかウロウロしてる時から世話になってて……。いろいろ連れてってくれて、教えてくれて、Aランの大先輩で……」
「……なんでなんすか。あの、『行ってくる』って言ったきり、帰ってこなくて……。まさかここの攻略やってたなんて……」
「あなたたちがいなくなってしまったから、ギーラーみたいなやつが……」
ルナが前に進む。
「弔ってあげましょう……。こんな迷宮で、呪われた存在のままさまよい続けるような運命は残酷すぎます。私たちで、安息を与えてあげましょう……」
ルナがミイラの残骸に、聖水を振りかける。
「勇気ある戦士へ、女神ルナテスの名において、あなたたちの罪を清め、旅立つことを許します。志半ばで倒れた無念を、戦士の誇りに変え、胸を張ってお行きなさい。誇り高き戦士の魂全てに、女神の慈悲を。皆の祈りを」
跪いて祈る。
それに倣い、全員が祈りをささげる。
ミイラが暖かな光に包まれて、そして、光が消えた。
「……カードを回収するっス」
みんな、涙をこらえてミイラを調べ、ハンターカードを回収した。
スミスが6枚のカードをポケットにしまう。
「家族とかいたのか? 持って帰ったほうがいい遺品とかあるか?」
「ないっス。欲しくない……。このまま、荼毘にしたいっス」
「洞窟で火気はダメだ。……俺がやる。いいか?」
「どうぞ」
「【ウェザリング】」
風化魔法だ。
ミイラ、装備、ボロボロの服。
すべてが崩れてゆく。
あとは灰のようなものだけが残った。
「進むッス! かたき討ちッス!」
「おう!」
「やるぞ――――!!」
「ぜってーに攻略してやる!」
みんな、涙を拭いて立ち上がった。
「ルナさん、あなたがいてくれて本当によかった。サトウさんも。ありがとうございます」
「いいえ」
「ルナさんて、ほんとうに女神様みたいッスね。もしかして前職はシスターとかやってたんッスか?」
……いや、シスターは無理でしょう……。毎晩あんなんじゃあ……。
異常に気合が入った連中のおかげで、一気にB15まで攻略。
ほとんど一本道でボスぶっ通しって感じだったな。
「よしっ小休止するッス。各自装備の点検、アイテムの補充、回復を万全にするッス! サトウさんのマップによればこの先ラスボスッス!」
各自休みを取る。水飲んだり、ポーション飲んだり。武器を磨いたり。
ルナも全員の状態を見て回る。ここまで大したダメージも受けずにやってこれたのは、気合のせいかな。
「おしっ!」
「行くッス!」
……。
「……悪魔だ!」
振り向いてニヤリと笑ったその男は、全身真黒、曲がった角、コウモリのような羽根。半裸、赤い目……。
「聖域!!」
ルナが問答無用で聖域展開!
青白いドームが爆発的に洞窟を包む。
「ぎゃああああああっああぁぁ!!」
絶叫を上げて悪魔が崩れ落ちる。
「突っ込め!!」
倒れた悪魔に全員の加護がかかった刃が刺さる。
「ぐあああああ!!」
先制攻撃が効果的すぎたな、一瞬で勝負がついた。
虫の息の悪魔を剣、槍の刃で全員で押さえつける。
「あなた、悪魔ですね」
ルナが聖域を展開したまま悪魔に近づく。
「く……来るな!」
「なぜアンデッドを増やすのです」
「来るな! なぜ……なぜ人間ごときが……。ひひ……ひひひひ……」
悪魔が笑う。
「そうか……お前は……ひひ……ひひひ。そうかそうか」
悪魔が立ち上がろうとする。
押さえつけているみんなの刃をずぶずぶと体に刻みながら、ものすごい力で。
「まおうさまにちからを……ほうこくを……」
すぱんっ。
俺のハンティングナイフで首を斬り落とす。
どしゃっ……。頭が落ち、絶命する。
「……魔王様?」
全員、押し黙る。
「今のは、聞かなかったことにしといてくれ」
「……わかったッス」
あまりな展開に、みんな頭が追いついてない感じだな。
「これ、どうしましょう?」
「悪魔の部位証明なんて、受け付けてくれんのか?」
「いやこれは持って帰るわけにいかんだろ」
「ここで浄化します」
ルナが猛スピードで聖域を展開したまま、悪魔を中心に聖水を垂らして魔法陣を描く。
悪魔の死体に向かって祈りをささげると、魔法陣の跡だけ岩の地面に刻んで、光に包まれて悪魔の体が消滅した。
「……なんか凄いもん見たッス」
「言っても誰も信じてもらえないっすね」
「討伐証明どうしましょう」
ルナが振り向いて笑う。
「とりあえずこれで、もうここにはアンデッドは湧きませんから」
聖域が消えて、ルナがふらっとする。
「おっと」
それを支える俺。
そのままお姫様ダッコする。
「……いいな――」
「……うらやましいっす」
ルナ、甘えるな甘えるな。スリスリすんな。若いもんには刺激が強いわ。
「さ、帰るか。討伐証明なら上の階の牛で十分だろ」
「牛じゃないっすよミノタウロスっすよ! サトウさん!」
「けっこうデカかったじゃん」
「頭だけでもいいんじゃね?」
「頭かー」
「ルナさんのアイテムボックス使えないっスか?」
俺はルナを抱いたまま振り向いた。
「お前ら、グール牛と一緒に入ってた肉、食いたいか?」
ぶんぶんぶんっ。全員が首を横に振った。
やつら槍二本を肩で担いで、牛の生首をロープでぶら下げて地上まで戻ってきた。
もう全員ヘトヘトだね。夕暮れだよ。
寝ているルナを起こして、寝ぼけた頭で全員分の寝袋と非常食のパンをなんとかアイテムボックスから出させてから【ウォール】のエアマットに寝かせて、撤収の準備をする。
放していた馬を呼んできて、木につないで【ウォール】の柵を解除。
「ルナ寝てるんで、アイテムボックスが出せません。なので今日の夕食はありません。各自、自前の非常食を食べるように。寝袋とパンを配ります」
「ええー……」
「……我慢するっす」
「……俺もルナさん起こしたくない」
「……まあ、二日分ぐらいは干し肉も水もありますっし」
「みんなテンション低いな! 討伐成功したんだからもっと喜べよ!」
ちょっと贅沢覚えたらすぐコレだ。まったく……。
「そうっすね!」
「(えいえいお――――!)」(小声)
「じゃ、ルナも疲れてるんで俺たち先に帰るから」
「え? え? ええええ? 今から帰るんスか?」
「え? これからっすか? もう夜になりますよ? ここで休んだほうが」
寝ているルナをお姫様ダッコして、【フライト】でそっと浮き上がる。
「じゃあな――!」
「ええええええええ――――――――!!」
ぎゅ――――ん!
俺たちは星になりましたとさ。
あいつらにしたら、今回一番泣ける場面だったかもしれませんな。




