19.びっくりさせちゃった
さあ、デッドダンジョン1に行くッス!
……注意しないと口調がうつるな。
荷馬車隊、今回は5台の二頭引き馬車ですな。一台増えたぞ。
ハンター協会の全面協力です。ゼービスもハンターの地位向上になるから協力を惜しまないことを約束してくれたし、これからだいぶやりやすくなるな。
俺たちはおっさんとおばさまの夫婦なんで最後尾の一台まるまるくれた。
気使ってくれてありがとな。
御者はテル君が立候補してやってくれています。味を占めたか……。
最初の宿泊地、テンパール村に到着。
村長さんが俺たちを見て歓迎してくれたよ。
これからデッドダンジョン1を討伐すると聞いて、今夜は全員の飯の面倒を見てくれるらしい。ありがたい。
「これもルナさんが描いた魔法陣っスか……」
村の中央に鎮座する石を並べて作られた魔法陣。直径15mのでかいやつだ。
今は周りに柵ができて村人がちゃんと守っている。
「あれから村や畑までグールを見ることは完全になくなりましたね。ありがたいことです」
ここを守っていたBランハンター共は、三日ほど滞在して、もう大丈夫と帰ったらしい。うん、まあいいだろ。
魔法陣を囲んでテントを張り、明日はいよいよダンジョンだということで、村人たちの炊き出しをいただいて、騒ぎもしないでさっさと寝たよ。
翌日、飯食って早くから出発し、ダンジョン到着。
……鍾乳洞っぽい洞窟ですな。
「説明しまっス!」
突入前の諸注意ですな。
「ここはデッドダンジョン1、凶暴なので有名なとこッスが、慎重にいけば今の俺らでもやれるッス! 手順は今まで通り。一人で行動は厳禁っス! 敵は人型グール、グール犬、グール熊、グール虎、グールワーム、お約束な奴が全部出るっス。闘い方は今まで通り。八時間を過ぎたら、一旦後退し……」
「ちょっと待て」
手を上げる。
「はい」
「今日からダンジョンの中で寝泊まりする」
「ええええええ――――!!」
「そ、そんな、危なくないっスか?」
「無理は禁物ですぜサトウさん」
「大丈夫だ。俺とルナで結界を張る。俺らはいつもそうしている」
「ほわ――……」
全員が感心する。
「サトウ夫妻の本気っスね……」
「俺らとはケタが違う感じがするッス」
「寝袋だけ預かる。全員ルナに渡してくれ」
十二人分の寝袋をルナのアイテムボックスに入れておく。
「マッパー!」
「ハイっす」
マップ担当、ジャン君を呼ぶ。
「このダンジョンのマップだ。みんなで回覧して頭に入れといてくれ」
昨日のうちに【マップ】を駆使して描いといたこのダンジョンのマップを渡す。
「ええええ――――!」
「ま、マップがあるんすか?」
「十三枚……」
「地下13階って事っすか?」
「そうだ」
「こんなんどうやって……サトウさんが描いたんすか? なんで知ってるんすか?」
「聞くな」
「ハイっす。しかしこれは凄いっすね……」
「攻略メチャメチャ楽になるっス」
リーダー、スミスもびっくりだ。
「その分慎重にな」
「もちろんっス!」
あともう一つ。
「馬番も必要ないから全員参加してくれ」
「はい? 馬の世話どうするっすか? あと馬車の警護も」
「俺が結界張って馬も馬車も閉じ込めとく。盗まれたりしないよ」
「はあ――……」
馬車周辺300mにウォールを張る。小川があるので飲み水もバッチリだ。
「いいぞー馬放せー」
後は好きに草でも食っててもらおう。
「こ、これマジ柵があるっすね。見えないけど」
みんなで俺が作った【ウォール】の見えない柵をペタペタ触って驚いてる。
「……これ、アッサリやってるけどとんでもない魔法だよね」
「サトウ夫妻の本気……」
「武器構え――!」
……ルナの加護、まだ効いてるのか……。どんだけだよ。
俺もナイフを取り出してみる。青白いね。
「ルナさん、俺、新しい剣に買い替えたんですよね。これ頼めます?」
「はい」
「俺も! 俺も槍新調したから!」
「はーい」
俺の十手は……十手はいいか別に。
加護がかえって邪魔になる時もあるだろうし。
「……なんスかこれ……? 初めて見るっス」
「十手。俺の国に古くから伝わる古武具だ。犯罪者を捕らえるのに使う」
「またまたぁ……そんなもんで剣持ってる奴をなんとかできるわけないじゃないっスか」
「やってみろ。本気で来い。ケガしても死んでなければルナが治す。手加減無しだぞ」
「サトウさんとスか。そういやサトウさん今まで一度も闘ってるとこ見たことないっスね。魔法使いだと思ってたんっスが……」
リーダー、スミスが距離を取って剣を抜く。
珍しい……そういやこいつ片刃剣だったな。
片刃剣はいい選択だぞ。両刃だと剣の両側を薄くしなくちゃいけないから、強度を持たせようとしたら幅広で厚くて重い剣になる。
片刃なら刃のないほうは厚くできるから強度がある割には軽くできる。日本刀の優れた点の一つだ。
両刃あっても実戦じゃそう使い切れるもんじゃないからな。
刃の無い峰を持つってのは取り扱いも簡単で使っている本人も怪我しにくい。研ぐのも簡単で安全性が高いから俺は片刃剣お勧めだね。
スミス、ちゃきりと刃を返して峰打ちの構え。
「ルナさんも見てますし、ちょっといいとこ、見せちゃうッスよ」
「来い」
「行くッスよ!」
ルナがはらはら。
びゅん!
袈裟の一撃! ガキッと鉤で受け止めてそのまま剣柄を掴み180度ぐるんと回してスミスの手首を交差させ剣をもぎ取る。
腕を掴んで十手をスミスの首に押し当て足をかけて引き倒し、首の後ろに膝を落として顔面を地面に押し付けたまま腰のロープを取り出して後ろ手に縛りあげる。
「いてえええええええええっ!!! ぎゃああああっ!」
あっという間に腕から首から足まで縛り上げられたスミスの簀巻きの出来上がり。
最初の五年いた世界ではよくこうやって犯罪者とか暗殺者とか反逆者とか捕まえてたからな。
「さ、出発するぞ!」
「ぎゃー! 勘弁してくださいっス! ほどいて! ほどいてくださいっス!!」
みんな笑っていいのか驚いていいのか怖がっていいのか反応がわからんくてひきつってますな。
ゲラゲラ笑いながらスミスの戒めを解く。
「こんなに強いとは思わんかったっス……」
「最初の一撃、手加減するからだ」
「あたりまえでしょ? ルナさんの旦那さんに本気で打ち込めるわけないじゃないっスか……」
ダンジョンB1、吸血コウモリ。
B2、グール犬。
B3、グール犬。(群れ)
B4、グール犬。(巨大)
うん、順調だな。マップあるから早いわ。
でも手分けは許さん。なにがあるかわからんからな。
B5、羽虫。
地味に嫌な敵だがこれはメンバーの魔法使いが火炎放射で焼き払った。
詠唱中断して備えてたらしい。手際いいぞ。
B6、ヘビヘビヘビ、見渡す限りのグールヘビ。
魔法使いのMP切れた。しょうがないんで俺がプラズマボール十個ぐらい転がして焼き払った。
B7、グールワニ。
一匹ずつ相手できるんでそつなく倒す。
B8、爬虫類シリーズ第三段。グールトカゲ。
ワニよりでけえ! しっぽで一人ぶん殴られたが、全員攻撃で倒す。
「そろそろ飯にしようか」
ハンターは行動中は一日二食だ。
夕飯の時間だね。
「ここ広いんで拠点にするッス! 念のため全フロア再探索! 三人一組になって隅々までチェックしてほしいっス。敵がいたら闘わず中央におびき出して全員で叩くようにしてほしいっス!」
「ルナ、壁に照明弾。二本だけ」
「はいっ」
ひゅん。これで一日照明は大丈夫だ。これから寝るんで天井には刺さないでおこう。明るすぎて眠れない。
みんなが探索開始してる間に夕飯の準備だ。テーブルの上は普通にランプで明るくしておくよ。
テーブル出して鍋出して、ルナのウォーターで水いっぱいにしてもらって【プラズマボール】でお湯沸かしてパスタを茹でる。
「あなた」
「(ぶんぶんぶん!)」
話しかけないで。茹で時間カウントしてるから。無言でベーコンを刻むように指示する。
二分で終わる曲を頭の中で4回演奏する。昔からの俺のカウント方法だ。
ちなみに曲はビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー(2:03)」だ。
ラーメンを茹でるときは「ア・ハード・デイズ・ナイト(2:30)」がお勧めだ。
古い曲は短いのが多いから、時計代わりに使える曲がいっぱいある。
お気に入りを一つか二つ、覚えておくといいぞ。
次にデカいフライパンの底に小さな【プラズマボール】を貼り付けてオリーブオイルでベーコンを炒め、牛乳、チーズを溶かし合わせて塩コショウしたら茹で上がったパスタのお湯を切ってフライパンに合わせればカルボナーラの出来上がり。
これを十四人分、四回に分けて皿に盛る。ルナにはサラダとドレッシングを作ってもらう。
「OKっす」
「OKでした」
「戻りました!」
戻ったやつから順に食ってもらう。
「旨いっす!!」
「なにこれ美味い!」
「めちゃめちゃ旨いっすよコレ! なんなんすかコレ!」
「ルナさん最高っす!」
「ルナさんありがとうございますっ!」
「ルナさんは女神様っす!!」
……作ったのは俺なんだけど……。もうお前らわかってて言ってるよな?
そりゃおっさんが作ったスパゲティより、綺麗なおばさまが作ってくれたと思うほうが旨いとは思うけどさ……。
全員に寝袋を配り、【ウォール】のエアマットを十二人分敷き、その上で寝てもらう。
「ふかふかっす!!」
「これすげえわ!」
「なにこれ……これすげえっすね!」
跳ねるな跳ねるな。おとなしく寝ろ。修学旅行か。
俺とルナは別に新しく買ったタップリ余裕ある四人用テントで寝る。
「えーずるいー」
「なんなんスか――、二人だけ」
「夫婦にはプライベートな空間が必要なの!」
「不公平っす」
「ルナの着替えが見たいのか?」
「見たいっす」
「見たいです」
「お願いするっす」
全員ゲンコでぶん殴る。
「結界張るぞ――っ。トイレ済ませとけ――!」
「はーい」
「あの……あなた……」
はいはい。
どこまで奥いきゃ安心なんっすか。
背中向けて仁王立ちして覗きを見張る。
夜の見張りは、必要ないっちゃ無いけど、一応こいつらで交代でやるらしい。
任せてくれってことなんで俺たちもさっさと寝るか。
大きなテントで4人分のタップリなスペース使ってエアマット敷いて、大きな寝袋で、パジャマとナイトガウンに着替えて快適に眠りについた。
今日は一日、みんなを驚かせてばかりだったな。
楽させてやってる分、しっかり働いてもらうぞ。
……修学旅行の引率の先生の気持ちがわかったわ。
すいませんでした渡辺先生。あの時やらかした中学生の俺を許してください。
一日目無事終了。おやすみ。




