18.今後の方針を決めちゃった
その日のうちに俺たちは馬をできるだけ飛ばして首都ラナスに戻った。
王宮に行って、ギーラーが投げてよこした書面を見せ、まず討伐完了報告を済ませておかないとあとでなに言ってくるかわからんからな。
王宮の担当者が来てくれて、マンティコアの死体を確認してくれたぞ。
「あなたたちが、討伐を完了させたわけですね?」
「はい。先に俺たちがハンター教会の許可を得てやってたわけッス。こちらの書面を見てください。このギーラーさんの文書の一日前に俺たちがハンター協会から許可をもらっているッス。で、ダンジョンでギーラーさんが後からきて、俺たちにこれを渡して帰ったッス。このことはギーラーさんと同行していたそちらの魔法士の方が知ってるはずッス」
「そうですか……。確かにマンティコアの死体もありますし、そちらのチームで対応したということで受け付けましょう」
「よろしくお願いします」
「ちょっと待って」
後ろから俺が声をかける。
「ギーラーがあとから、『本当は俺たちがやった』とか難癖つけてくると思うんで、その書類についてはこの場で依頼完遂証明発行して渡してくれませんか。それをハンター協会に持っていけば揉めないんで」
「そうですね。ではこのギーラーへの依頼は中止。あなたたちの名前で新たに依頼票と、完遂証明を出します」
「あとで取り消したりできないように」
「ギーラーのやり口は承知しています。お任せください」
担当者が笑う。
「サトウさん、用心深いっスね……」
スミスが感心する。
「こういうのは念入りに、用心深く、な」
「勉強になるっス!」
担当者がマンティコアの死体を指さして言う。
「これどうします? グール化してますし売れないでしょう。出回ったりしたら大変なことになりますから、こちらで教会でお清めしてから燃やさせてもらいたいんですけど」
「そのほうがいいッスね。そうしてください」
本当はそれルナがもうこっそりお清めしてるから、絶対安全だけどね。
冒険者協会に戻ると、会長のゼービスが待っていた。
「ギーラーが来て、『ダンジョン崩れてたぞ!』とかさんざん文句いって帰っていったわ」と言って笑う。
やっぱりか――っ。だろうなあ。
「お前たち、よくやってくれた。さすがはAランクの冒険者だ。ギーラーのことは心配するな。後でなに言ってきても俺が相手にしない。任せろ」
「ありがとうございます!!!!」
ダンジョン討伐、金貨千五百枚。
そこから協会の手数料とか馬車のレンタル料とか引いて十四人で1人九十五枚の儲け。
その晩、もちろんトリスの酒場で大騒ぎした。
「ルナさん最高っス!」
「ルナさんのおかげで楽勝だったっス!」
「ルナさんは俺たちの女神様っス!」
……オタサーの姫かよ。
……アラサーの姫かな。
「サトウさん、今日はほんっとうに、いろいろありがとうございました!」
「いや、俺本当にコックしかやってないし」
「わかってます。でも、あれ、いろいろコッソリやってくれてたでしょ」
「内緒な」
「わかってるっス。マジ感謝っス」
「Aラン合同チーム、『マグナムハンターズ』に!」
何回目の乾杯だよ。っていうかそれがチーム名かよ!
「それがチーム名か」
「はいっス。マグナムって二倍の酒瓶って意味スから、ちょうどいいっス」
ああ、元はそういう意味でしたっけね。
火薬の多い強力な弾薬って意味じゃなかったな。
すまん、一瞬中二病かと思ったわ。
「二チーム合同だったな。それぞれなんていうんだ?」
「俺らが『ベガハンターズ』、あっちが『アルタイルハンターズ』っス」
「……まあまともだね」
「サトウさんたちは?」
「『サトウ夫妻』」
「……まんまっスね」
「だってもうそれで有名になっちゃってるし」
「サトウさん!」
ん、なんか酔って目が据わってる奴が来たぞ。
「これから、なんかあったら俺たちに言ってください。なんでも協力します!」
「おうっ、絶対助けになります!」
「手が足りんかったら言ってください!」
「わかったわかった。ありがとう」
トリスの酒場の前で、みんなと手を振って別れた。
夜道を二人で歩いてゆく。
「あ――っ、楽しかったーっ!」
ルナが伸びをして笑う。
「あなたとパーティーになれただけでも嬉しかった……。なのに、妻になれて一緒にいてくれて、……冒険者とパーティー組んだり、みんなで一緒にダンジョンを攻略して……、ホントに物語の主人公みたいに……」
「いっぱい夢あったんだね」
「はい。なんかこう、物語読んで、うらやましいなって、思ってたこと、一生縁がないと思ってたことなのに、ほんとに、毎日が冒険」
ルナが手を握ってくる。
「全部あなたのおかげです……」
……よかったな。
「さてルナ」
「はい?」
「俺はもうちょっとやることがある」
「ついていきますよ」
「……危ないかもだぞ」
「離れませんよ」
「……言うと思ったよ。うん」
路地裏に入り、【フライト】をかけてルナをお姫様ダッコし、ジャンプする。
真っ暗な街を屋根をひょーい、ひょーいと飛びながら、こっそり「マグナムハンターズ」の後を追う。
「いた」
屋根の上から様子をうかがう。
「どこに行くんでしょう……」
「……」
男ばっかりのね、若い奴らがね、ちょっと懐に金が入ったらね、そりゃあ来るよ。ちょっとピンクなスポット。
「もうっ……男の子って、ホントに……」
「……来たぞ」
来ましたね――。やっぱりね――。待ち伏せてましたか。ギーラーさん。
仲間引き連れて……八人か。
なんか怒鳴り合ってますな。
まわりぐるっと人が遠巻きに取り囲んで、八対十二になってます。
うーん……やっぱりギーラーとその仲間強いんでしょうな……。
魔法使えるやつとかメンバーにいそうだもんな。
ギーラー、ナイフ抜きやがったっ! 後ろのやつも二人が魔法展開中!
「【ウォール】!」
がきょんっ!
ギーラーのナイフ、なにかに阻まれ、空中で停止!
魔法使いの二つのファイアボールが爆散!
それらがすべて、八人をすっぽり包んだ謎のドームの中で業火になる。
ピンクな街に悲鳴が上がる。
炎が収まると、なにかぷすぷすと生焼けになったギーラーたちが倒れております。
「【ブレイクウォール】」
証拠隠滅ですな。これでもう大丈夫。
マグナムハンターズの面々、あまりのことにそそくさとその場を離れていきます。
うん、今日はもう悪いことしないでおうちにお帰り。
ギーラーと仲間が歓楽街で魔法を使おうとして失敗! 仲間を巻き込んで自爆!
そんな感じかな? ケンカなんて珍しい街じゃないだろうし、それを狙ってここで待ち伏せてたんでしょうが不祥事は不祥事ですな!
「ちょっとやりすぎなような……」
「自業自得でしょ」
「でもぉ……」
「じゃ、死なない程度に回復してやって」
「じゃ、ちょっとだけ」
ルナがこっそり祈ると、ギーラーたち、もぞもぞと動き出しました。
ギーラー、魔法使いをボコボコに殴っております。
服燃えちゃって、半裸に近いんですけどね。
さぞかし御自慢だっただろう装備の大半も失いましたな。
そのままよたよたと、帰っていきました。
これで暫くはおとなしくしてるでしょ。
「さ、帰ろうか」
「……あなた?」
「ん?」
「……なんでこんな場所知ってたんです?」(ピキッ)
「……」
罰として、「今夜は娼婦みたいに抱いて」の刑に処せられました。
なんか某有名な沈没映画のセリフみたいです。
俺の隠された性癖も一つ残らず吐きなさいという俺に対しての辱めですね。
えっと……じゃあ、この街にあるピンクな高級下着店でフル装備揃えていいですかね?
「今後の方針なんスけど」
翌朝、ハンター協会のフロアでマグナムハンターズが集まってる。
俺たちもメンバーだから、参加だ。アドバイザーってことで会長も車座になって座ってるぞ。今日はミーティングだけなので全員平服だ。
ルナさん二の腕まであるレースの手袋とノースリーブのブラウス、ひらひら薄地のロングスカートの足元から覗くヒールのパンプスと白いストッキングが素敵です。
その奥にはガーターベルトとレースでスケスケの……げふんげふん。
まずはリーダーのスミスが話をする。
「俺たちサトウさん夫婦のおかげで、今、アンデッド系に強いパーティーになってるんスよね」
うん、確かにな。なんてったって女神ルナテス様の加護をダイレクトにもらってるからなお前ら。ありがたく思えよ?
「テンパール村でグールが発生して被害が出たのも最近っス。うちのBクラスメンバーがやられそうになってサトウさん夫婦に助けてもらったのは先週でしたっスよね?」
「そうだ」
会長ゼービスが頷く。
「デッドダンジョン2はもともとアンデッドが出るんで有名でしたんスけど、最近急にダンジョンがアンデット化したのがあるんスよね?」
「エルランのパーティーが全滅したやつだな……」
「アンデッドが活発化してるんじゃないかと思うんス」
「確かに」
「国は動いてるんスかね?」
ゼービスの表情が険しくなった。
「報告もしてるしもちろん掴んではいる。だがとにかく動きが遅い」
国軍とハンター協会とどっちが強いかっていえば、もう自衛隊VS猟友会ぐらい戦力に差があって、国の軍と教会の連中に出てもらえばたいていは解決できるはずなんだけど、費用もかかれば、軍を動かすというのもいろいろ制約があって、しかも軍は兵を死なすと大問題なもんだから手続きも煩雑でなかなか動いてはくれないと。
「なんで、俺たちでアンデッド系ダンジョンを片っ端から潰していくのはどうかと思うんス」
「うん、賛成だな」
「今の俺らならだいぶやれるっしょ」
「ルナさんもサトウさんもいるし」
「頼っちゃってわりい気がすっけど」
「グールってアンデッドのダンジョンから漏れてくるんだよな」
「テンパール村に出たのもそれが原因かもしれんし」
「今のうちに潰せるだけ潰したほうがいいかもな」
「またテンパール村みたいなことがあったら最悪村や街が全員グールになりかねないっスからね」
「そうだな、それを防ぐ意味でもやったほうがいいね」
うん、こいつらちゃんと考えているんだな。確かにいい手だ。
ミスリル鉱山の時はルナのレベル上げって目的があったから、ゆっくりやったけど地下B8まで三日かかった。
でもデッドダンジョン2ではこいつらと一緒にやって地下B10まで実働十三時間で終わったからな。やっぱり人が多いとスピードが違うよ。
国中のアンデッドダンジョンだと、さすがに俺らの手に余る。
テンパール村では、ルナは「グールの集団発生は魔王復活の前兆かもしれない」と言っていた。
魔王復活を止めるなにかヒントがあるかもしれないし、復活までの時間に影響があるかもしれない。少なくとも悪手には思えない。
ルナを見ると、頷く。
賛成らしいな。
「サトウさんはどう思うっス? 俺たちの勝手でマジ申し訳ないんスけど……」
「いや、賛成だ。むしろ俺たちの方から頼みたい。みんなが手を貸してくれるのは助かるぐらいさ」
「はー……よかった! 怒られるかと思ったっスよ!!」
「ルナさんもそれでいいんすか?」
「はい、私のほうからもお願いします。ぜひ力を貸してください」
うぉおおおおと歓声が上がる。
「やった――!」
「また、ルナさんの料理が食べられる!」
「今までみじめだったからなー!」
「……あんなん食べたらもう今までみたいな攻略やってらんないっスよ!」
そっちかい。
……料理してたの俺なんだけどな……。
「一つ、注文がある」
「なんでも聞くっス!」
みんなうんうんと頷く。
「俺たち夫婦にはいろいろ秘密がある。まだ見せてない力もある。バレると絶対利用したがる奴らが群がってくるようなことだ。だから、俺たちの事は誰にも話さないでくれ。パーティー内の秘密だ。そうでないと協力できなくなると思ってほしい」
「……わかったっス」
「……ドラゴンを二人で狩ってくるぐらいだもんな……」
「あれはあり得なかったっすよ……」
「あの本気が見られるッスね」
「よし決まった。なにからやる?」
「デッドダンジョン1っス。テンパール村にも近いので、早めに潰しておきたいっス」
会長ゼービスが頷く。
「よし、許可する。くれぐれも慎重にな。協会の方でもできるだけ協力する。サトウさん、こいつらをお願いします」
大変なことになりました。
十二人の子供たちの飯を担当するコックになってしまいました。
今日はみんな各自、準備と休息ということで、そのまま解散した。
一日、ルナと二人で市場を回って食材やら調味料やら食器やら調理器具やら非常食やら、片っ端から大量に買い込んではアイテムボックスに放り込む羽目になりましたわ。
女の人はなんでこんなに買い物が好きなんでしょうねぇ。
もうずっと幸せそうでニッコニコでしたわ。
選ぶのに時間がかかってかなわんけどね。
「明日から、しばらくみんなと一緒ですね……」
「そうだな。二人の時間も無くなるか……」
「……ん」
たまらなくエロいですガーターベルトとストッキング。




