17.老害が来ちゃった
俺はルナの手を引っ張ってこっそりみんなの後ろに回る。
つまり俺たちが一番ダンジョンの奥にいるわけ。
「(ルナ、バッグ出せ。買い出し用の。あとフライパンと)」(小声)
「(はい?あ、はい)」(小声)
俺は見えないようにルナがアイテムボックスから出した食料が入ったバッグを背負う。
「(ルナはこれ)」
「(……な? なんでフライパン?)」
前ではギーラーとかいう老害たちと若手ハンターリーダー、スミスがもめている。
「俺たちのほうが先に来たっス! ハンター協会の許可もちゃんと受けてるっス! いくらギーラーさんの言うことでもこれは譲れないっス!」
「そんなこと言っていいのかお前ら。明日から仕事がなくなってもいいのか?」
「いくらギーラーさんでもそんなことできないっス!」
「俺らがお前らのやろうとする仕事、全部先にやればいいだけの話だぞ」
「じゃあこの仕事だって俺らが先にやってるじゃないっスか!」
「こっちには王国の許可がある。見ろ」
紙をヒラヒラさせてやがる。
「王国の聖魔法士も連れてきてるんだ。お前らの出番じゃない!」
……今まで出番待ってたクセしやがってなにを言ってるんでしょうねこのジジイたちは……。
若い奴らに雑魚の相手させ、おいしいとこだけ持っていくつもり満々っすね。
「くっ……」
「さあどけ。特別に見学させてやる。俺たちのやることをちゃんと見てろ」
……ここまで体力もMPも温存しまくっておいてなに言ってるんすかね。
ふんっ、と鼻を鳴らして俺たちを押しのけて進む老害たち。
「……? なんだお前は。見ない顔だな」
「コックでヤンス」
俺は荷物を背負ってへこへことお辞儀する。
「コックだと?」
「へえ、みなさんの食事を女房と一緒に担当させてもらってるでヤンス」
ルナがフライパンを胸に抱えて、あわててお辞儀する。
「サトウさん……」
スミスが半目になります。
うん、間違ったことは言ってないし。ここまでコックしかしてないし。
「バカかお前ら。こんなところまでコックを連れてくるハンターがいるか! 飯食ってる暇があったら仕事しろ! まったく最近の若いもんは……」
のしのしと奥に進んでゆく老害たち。それに続く聖魔法でも使うのか僧服着た魔法使いたち。
「さ、みんな一休みだ。飯にしようか」
「サトウさん……なに言ってんすか」
「サトウさんだったらガーンと言ってくれると思ってたのに……」
「くそ――――っ! 老害どもめ! 俺らの手柄横取りする気だ」
「これで何回目だよ! 畜生!」
「落ち着けって、まあ見てろ」
そういってみんなをなだめる。
マジで食事にしましょうかね。
「ルナ、テーブル出して」
「あっはい」
(いてっ!)
(……なんだこれ?)
(壁があるぞ?)
(見えない壁? 結界か?)
奥が騒がしくなっておりますな。ふっふっふ。
(なんだ? か、硬いな!)
(ちょっと見せてください)
(頼む)
(……こんな結界見たこと無いですよ。魔力も感じられませんし)
(とにかく攻撃してみるか)
ルナと二人でジャガイモの皮むいて、ニンジンも大きくカットして、鍋にほうりこんで【プラズマボール】沈めて塩ゆでします。
ドガーン! ドゴーン!
老害たちいっせいに俺が張った【ウォール】に向かって攻撃してます。
びくともしないね。
(っっちっち、なんだこれ刺さりもしないぞ!)
(ちょっと燃やしてみましょうか)
(頼む)
ニンジンに火が通ったところで、どすん、でっかい牛肉出します。
分厚く切って、【プラズマボール】で熱したフライパンで一枚、一枚焼いていきます。ダンジョン攻略成功したら出してやろうと思って用意してきた特上肉です。
ごおおおおおおっ!!
ダンジョンの奥でものすごい火炎放射してますな。
(魔法も通じないって、なにこれ!)
(仕掛けないか? なんか周りに解除するスイッチとか無いのか?)
(あ、私どもの方で解呪してみます)
(おう、やってみろ)
「さ、食べて食べてー」
焼きあがった特大ステーキに特製ソースかけて、茹で野菜つけて、メンバーに配っていきます。
スミスたち、事の成り行きにポカーンとしてますね。
でも老害たちが四苦八苦してるのを見てなんか嬉しそうです。
僧服着たやつらがいろんな呪文試してますけど、全然解除できませんな。
当たり前だよ。俺の結界魔法、【ウォール】は空気分子固定の物理現象だからな。
魔法じゃ解除できないし、魔法の攻撃じゃびくともしねえよ。
物理的に破壊したけりゃ、エヴァにポジトロンライフルでも持ってこいってんだ。
「……ギーラーさんたち、どうなってんすかね?」
「なんか通れない結界があるんだろ」
「……そんなのどうしようもないじゃないっスか」
「だからそれ食って休んでろって」
ルナもなんか種明かしがわかっててニコニコしてますな。
「旨いっす!」
「最高っす!」
「こんなもの食えるなんて……嬉しいっす!」
「これが食えただけでも、ダンジョン来たかいがあったっす!!」
そうかそうか、よかったな。
(やるぞっ!下がってろ!)
奥がなんか物騒なことになってますな。
きゅい――――ん……魔法陣展開。
ドッカ――――ン!!
ドーン……ガラガラ。
(うわああ――――!)
……ダンジョンで爆発系魔法使うなよ。
崩れてくるに決まってるじゃねえか。
土埃飛んでくるんでさっと【ウォール】で蓋をする。
もくもくもく……土埃が収まったところで【ウォール】解除。
奥から全身真っ白になったギーラーたちが引き上げてくる。
「……このダンジョンは攻略不能だ。お前ら、後始末しとけ」
ペッとあの王国だかなんだかが出した紙をほうってよこす。
「ダンジョン攻略を失敗した責任を俺たちに押し付けるわけっスか?」
「うるせえ、あとは好きにしろって言ってんだ。ありがたく思え!」
自分でダンジョン崩しておいてなに言ってんすかねこの老害は。
「……まったく、旨そうなもん食いやがって、バカじゃねーのお前ら」
捨て台詞残して老害たちが引き上げていきますな。
「ルナ、照明弾」
ひゅんっと光が飛んで、電球が灯ったようにダンジョンが明るくなる。
「崩れちゃってるわ……」
「何やってくれてんすかギーラーさん……」
「こりゃもうダメっスね。俺たちも引き上げますか……」
「あ――っもうっ! なんて報告すりゃいいんだか!」
「何言ってるお前ら」
後ろから声をかける。
「でもこのありさまじゃ」
「どのありさまだ?」
ダンジョンが崩れて塞がっている岩に、範囲設定して【ウェザリング】をかける。
風化魔法だ。イオン交換を逆転させて酸化結合を急激に分解する。
岩がみるみるうちにさらさらと砂にかわって崩れてゆく。
「えええええ――――!」
「崩落すると二次災害になるからっと……」
【ウォール】で洞窟壁面を固定。あとギーラーを阻んでいてた正面の【ウォール】を【ブレイクウォール】で解除する。
「あれ?」
「普通に通れるけど……」
「なんだったのアレ」
ぱんぱんと手をたたく。
「さ、集中しろ! この先ボスだぞ!」
広いところに出た。
「ルナ、天上に照明弾!」
ひゅんひゅんひゅんひゅんっ!
ダンジョンの最奥地が真昼のように明るくなる。
「マンティコアだっ!!」
人間みたいな顔つけた巨大なライオンのゾンビだな!
これは気持ち悪いぞ! 初めて見るわ!
「しっぽが毒針だ! 気を付けるっス! 弓総攻撃!」
ひゅんひゅんひゅんっ! 弓隊の矢が飛ぶ。
ルナの徹甲弾が付き刺さって大ダメージ!
「壁隊囲め――――っ!」
「槍隊進めーっ!」
「アタッカー! しっぽ! しっぽ斬り落とせ!」
「槍だ――!」
「止め刺せ!」
ルナも入れて十二人で連携良く攻撃してるわ。スムースだね。
さすがA級。これなら大丈夫だな。手出さないでおこう。
あばれてたマンティコアもへばってきて、ついに倒れた。
「首!」
スミスが振りかぶって剣で首斬り落として、終了――!
「うおおおお――――やった――――!!」
十一人が飛び上がって喜ぶ。
俺もルナも嬉しいわ。
「レベル上がったー!」
「上がったよ!」
「すげー!」
みんな大喜びだね。自分のハンターカード見てレベル確認してるよ。
「ルナはいくつになった?」
「えーと……」
ハンターカードを取り出して見る。勇者じゃない普通の人は自分のステータスなんて見られないから、カードのほうを見るんだよね。
「81になりましたね」
「え……」
……なにみんなその沈黙?
ルナのアイテムボックスにマンティコア入れようかと思ったんだけど、こいつら解体始めた。これは自分たちで持って帰るってさ。ま、それもいいかな。
バラバラにして、分けて運ぶんだと。
みんなが作業してる間に、ルナはフロア一帯に聖水をタラタラたらして魔法陣描いてる。
勘違いしないでね、女王様の聖水じゃないですからね。本物の女神様が御自ら水に祝福を与えて瓶から垂らすやりかたですからね。
魔法陣の中央に跪いて、祈りを捧げると、魔法陣がふわーっと光って、岩場の広間に刻み付けられた。
みんな呆気に取られて見てたわ。
「これでもう、このダンジョンにはアンデッドが出る心配はないですから」
「……俺、なんか感動しました!」
「ルナさんて、ホント女神様みたいっすね」
「すごい人っすね」
「ホント、サトウさんが羨ましいっす」
「俺もこんな奥さん欲しいっす」
やらんからね。手出すなよ。
ダンジョンから出ると、ペーター君が一人で馬番してました。
「あっあの! 朝みんなが入ったあとすぐギーラーさんたちが来て、ムリヤリ入ってって、俺止められなくて……もう出て行ったけど……すいません!」
「あーそれもういいんだ。気にすんなペーター」
「ほら見ろよペーター! 今回の獲物!」
「マンティコアじゃないっすか!」
「食うなよ! これも一応グールだからな!」
「食いませんて!!!」
みんなでゲラゲラ笑う。
さあ、帰るか!




