16.パーティーに参加しちゃった
十四人が四人ずつ、四台の二頭引き馬車に乗り、出発した。
みんな昨日のうちに道具、防具を綺麗に磨きなおして、小ざっぱりした格好に戻ってるな。ハンターの一人が交代で御者もやるので、一台三~四人ぐらい。
俺とルナは最後尾で、Aランクになったばかりのテル君が御者をやってくれてる。
女連れは俺だけで、夫婦なので俺たちだけで一台使わせてくれている。
おっさんとおばさまのゲストなので気を使ってくれたのか。
女っ気ゼロだね。このパーティ団。嫁と一緒にハンターやってるのがそもそも珍しいというか、女性のハンターがまるでいないというか、ファンタジーのお約束みたいに美少女冒険者なんて実際には、いるわけないんだよな……。
ルナは馬車が初めてなので車酔いでもするかと思ったが、ケロリとしている。
「あなたに乗るほうがずっと酔いますもの」
乗るってあっちじゃないっすよ。【フライト】のほうっすからね。
こっそり自分に酔い止めの魔法とかかけてんじゃないですかね?
ハンターっちゅうのは行動中は一日二食だ。
遅い朝と早い夕だけ食べる。それでは腹が減るやつは各自携帯食だ。
カロリーメイトなんて便利なものは無いので乾パンみたいなやつだね。
俺とルナはアイテムボックスから肉野菜サンド取り出して馬車の中で勝手にお昼にしております。
テル君がよだれダラダラっすね……。わかったよ一つやるよ。
武装したハンター集団の馬車なもんだから別に魔物が出たとか強盗が出たとかのいらんイベントも起きずに夕方にはデッドダンジョン2に着いた。
今夜はダンジョン前でキャンプで、明日の朝から本格的に突入する。
二パーティーの合同なので、みんな十人ぐらい寝られる容量のでっかいテントを人用、荷物用と三張り要領よく設営して火を囲む。
俺とルナは二人だからな。一応持ってた二人用テントで別に寝るよ。
テーブルと椅子を出して夕食の準備をする。
「あ……アイテムボックス……」
全員が驚愕する。
そりゃするわ。40mのドラゴンを丸々収納できるこの世界最大のアイテムボックス保持者だからな。
時間がなかったので宿屋から金を出して借りてきたデカい鍋や食器を並べ、鍋の底にプラズマボールを張り付けて熱し、水を入れ野菜や肉を刻んで入れて、【ウォーター】で煮込む。それに【プラズマボール】をフライパンの下に張り付けてバターで炒めた小麦粉を加えてさらに煮込む。牛乳と香辛料も使うぞ。
一時間ほどで、十四人分のシチューの出来上がり。
「さあ食え」
「うおおおおおおおお――――!!」
乾パンだの干し肉だのしょうもないものしか持ってきてない野郎どもが群がる。
「奥さん、旨いっす!」
「ルナさん、最高っす!!」
「お母さんと呼ばせてほしいっす!」
「お姉さん! お姉さんと呼びたいっす!」
……いや作ったの俺。ルナは野菜刻んだだけだから。
「あっちに小川あったから、各自皿は洗って返すこと。わかったな!」
「は――い!!」
……遠足かよ。
夜の見張りはこいつらで勝手にローテーション組んでやってくれるらしいから、俺とルナはさっさと寝る。
いや期待すんなよお前ら。いくら夫婦だからってそんなに毎晩しないよ。
一応乱入避けにドーム状に【ウォール】張っといたからな。
今日もふかふかの見えないエアーマットの上に大きな寝袋敷いて、眠りました。
寝心地いいです。
朝。
……なんで期待した目で見るんだよ……。
しょうがないな……。
屋台で大量に買い込んでルナのボックスに入れておいたサンドイッチを配る。
これで我慢しとけ。
「説明します!」
リーダーのスミスが声を上げ、ダンジョンの前でみんな集まる。
「ここはデッドダンジョン2、アンデッドが多いので、遭遇した魔物については倒した後必ず首を斬り落とすか、聖水を振りかけてください。敵はいまのところグール、グール犬が確認されています。二チームありますので馬番を一人残し入ります。先頭は一通路ごとに交代します。壁役はできるだけ先頭に参加してください。アタッカーはどんな敵にも決して一対一では闘わず、かならず二人以上でかかってください。敵の数が多かったら無理をせず退くように。あと、ケガをしたらどんな小さいケガでもすぐに後退して治療を受けてください。グールなど感染するアンデッドもいますので気を付けて。治療係はMPを温存し魔法攻撃は参加しないように。八時間を過ぎたら、一旦後退し、ダンジョンを出てここで宿泊します。よろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす!」
かわいいなこいつら。
二パーティーのリーダーでコイントスし、負けたほうが自分のパーティーから一人、ダンジョンの外に残って馬の警備と世話係になる。中に入るのは今日は俺たちを入れて十三人だ。
「サトウさん夫婦は最後尾でバックアップをお願いします」
「わかった。みんなちょっと注目!」
みんながこっちを見る。
「各自武器を出して、ルナの魔法を受けてくれ。順番にどうぞ」
みんなが剣とか槍とかを出し、ルナがそれぞれに聖属性の付加を付けると刃が青白い光で包まれる。
「うあーなんかすげ――!」
効果はまあ、使ってみてのお楽しみだな。
入ってみて思ったのは、ダンジョンで十三人はちょっと多いなーって感じだ。まあ先頭の五人にまずは期待だ。みんなランタン持ってるな。
俺は後ろでこっそり【マップ】を使ってマッピングだ。
「グール犬2!」
きゃんきゃんっ
「すげ――っ!」
「一撃だ!」
ルナの付加だな。
後ろからじゃまあ、なにやってるのか全然わからないね。
うん慎重、十分慎重。
広い場所に出た。
「ルナ、照明弾」
「ライトアロー」
ルナがマジックショートボウから矢を天井に向けて放つと、電球が灯ったみたいに広場が明るくなる。
「すげ――!」
えっこんな魔法で驚くなよ。
いや、俺も最初は驚いたか。
「三つに分かれてるね」
「一つずついくか」
「どれからいく」
「右!」
後ろから声をかける。【マップ】で見ると右が一番短いんだよね。ちなみに地下につながってるのは中央です。
「じゃ、右にしようか」
「右からだね」
「右、行きまーす!」
……そこは少しは揉めるとかしようよ……。
ゾンビ犬ことグール犬を順調に倒し、突き当りまで到達する。
「ここで終わりっすね」
「隠し扉とかあるかな」
「ちょっと調べようか」
ないんだけどね。まあ好きなようにやらせるさ。
「無いよね」
「ないね」
「ないみたい」
「じゃ、もどろっか」
「ルナさんこれ凄いっすね」
「グール犬が一撃っす!」
「これ、どういう付加なんすか?」
早く戻れよ……。
「次は中央行く?」
「左!」(俺)
「じゃ、左だね」
「左いこうか」
「左行きまーす!」
「了解!」
「メモメモ……っと」(マップ係)
……なんだかなあ……。
そんなこんなで八時間経って地下B6まで行けましたな。
ゾンビ犬と吸血コウモリばっかりだったけど、B6にはでっかいゾンビクマがいて、全員で倒してました。
若いしさすがA級。戦闘になればなかなか強いわ。
特にやることもなく安心して見てられたね。
まあ、ルナの付加がでかいっちゃでかいけど。
「シチューっすね」
「シチューだね」
「シチューか……」
「この中で鍋一つで十四人分の料理を作ったことがあるやつは挙手」
「………………」
しょうがないだろ。醤油とかみりんとかあれば肉じゃがつくるし、米とカレールーがあればカレー作ってやるよ。でもこの世界そんなのないじゃん……。
俺とルナはダンジョンの中で寝泊まりしてたけど、あれはまあ強力な結界魔法があっての話だ。そんなもんないこいつらはいったんダンジョン外に出て寝泊まりして、翌日改めて侵入するというのは仕方ないな。
まあそれが普通のやり方だろう。
夕食にしながら、全員で車座になってミーティング。
「昨日とは肉が違うっすね!」
「これなんの肉なんすか?」
「鶏肉でしょう?」
「ダンジョン来てこんなもん食えるなんて贅沢っスよね!」
……いや、ミーティングしようよ。
「熊いたけど人型のグールいなかったっすね」
「動物のグールばかりだー」
「入った動物がグール化するってことだね」
「グールにやられてグール化するってことか……」
「元凶がいるんすねきっと」
「最深部か」
「明日は到達できっかね」
「情報無いしなー、行ってみんとわからんな」
「とにかく慎重に、慎重に。全部しらみつぶしに探索するのがやっぱり一番安全だから。急がずやるっス」
「そうっすね」
うん、黙って聞いてたけど俺が口を出すようなことも別にないな。
そもそも俺この世界に来てまだたった二十日ぐらい。こいつらのほうが大先輩だしな。それにしても男ばっかりだからなんのイベントもないよなこいつら。
「それにしてもルナさんの付加すごいっすね」
「どんな敵も一撃っすからね」
「俺こんな楽なダンジョン攻略初めてですわ」
「ありがたいっすホントマジ感謝します」
……そんくらいにしとけよ。なんのイベントも起きねえよ。
翌日、一応クリアした岐路にもう一度踏み込んで改めて確認しながら、下に降りる。うん、それやっとかないと後ろから攻撃受ける場合あるからね。慎重でいいね。
二時間ぐらいでB6到着して攻略再開。
ワニとかオオトカゲとかゾンビ化した動物も巨大化してくる。数も多いぞ。
B8で初めてケガ人が出た。テル君ですね。
コケて後頭部打って血が出たけど、ルナに撫でてもらってご満悦です。
「俺も!」「俺も!」とわざとケガした人が寄ってくるようなベタなイベントはさすがにないです。それは保健室の美人な先生の話ですから。
やってきましたB10。
【マップ】だとここが最深部だね。
「ルナ、照明弾」
ルナがライトアローを撃ち込むと、奥のほうまですーっとまっすぐ飛んでいき、見えなくなった。
「……一本道っスね」
「いよいよボスか……」
「よし、今まで以上に慎重に行くっスよ!」
「よーし! お前ら、そこまでだ!」
唐突に後ろから声がかかった。
うん、知ってた。十人ぐらい後ろから付けてきてるの。
完全に出番を待ってる感じだったんで、そろそろ来るかと思ってたんだよな。
これはアレだろ……。
「ギ、ギーラーさんっ!」
こっちの若手リーダースミスが慌てる。
「お前らなに勝手にダンジョン攻略してる! 邪魔だ! あとは俺たちがやるから出ていけ!」
……老害来ちゃったよ……。




