15.パーティーメンバーが増えちゃった
どんどんどんどん!
ドアが乱暴にノックされる。
まだ眠たいのになんなんだよ……。
とりあえず腰にタオル巻き付けて、カギを外す。
ルナも毛布にくるまって起き上がってるな。
うん、見えてない見えてない。大丈夫だ。
「お・は・よ・う」
ドアを開けると、ハンター協会の職員がいた。
「サトウさん、ちょっと大至急お願いが!」
「どうした?」
「スミスの隊が帰ってきたんですけど、ワイバーンにやられちゃって、ケガ人がけっこういて危ないんです。奥さんに治療してもらえたらと思いまして」
「わかった。すぐ行く。場所はハンター協会でいいの?」
「はい!」
ドアを閉めて、ルナに振り返る。
「支度しろ。急ぐぞ」
大急ぎで平服に着替えて、【フライト】でハンター協会に向かい、入り口前に着地。
ホールに入ると、ハンター風のやつらが十人以上、ヘトヘトになってうずくまってたね。
すぐにルナが中央に跪いて祈る。
ふわーっと金色の光が降り注いで、その場にいたやつが全員全回復。
……てアッサリかよ。アッサリしすぎだよ。
もうちょっと、こう、演出というか、ありがたみというか、そういうのが欲しかったな。
「うお――――!! すげえ!!」
「痛くねえ!!」
「な……骨折治ってる!!」
もう松葉杖のやつとか包帯だらけのやつとかみんな起き上がってぴょんぴょん跳ねてるよ。
女神の祝福強力すぎ。
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!!!」
リーダーらしいやつが礼をすると、全員が合唱する。
こいつがスミスか。
「いや……話には聞いてましたけど、凄いもんですな……」
ゼービスが感嘆する。
いやあ俺もいろんな世界でいろんな魔法見てきたけど、こんな凄いのは俺も他に知らないね。
「お前がスミスか。この隊のリーダーか?」
「はい、そうっス!」
「ワイバーンだったな? どうした?」
「バッチリっス。なんとか倒せましたっス! でも仲間は無傷ってわけには、さすがにいかなかったっス……」
「そりゃあお気の毒に」
みんな、それぞれ包帯を外したり、足に巻いてた添え木を取ったりして傷口を確認してる。完全に治療されてて驚いてるな。
ルナが、一人一人、診て回ってるぞ。
「サトウさん凄いっス。二人でドラゴン倒したとか絶対なんかウソだと思ってたけど、こんな凄い奥さんいたらホントって気がしてきたっス」
「それ褒めてるか?」
「あ……失礼だったら謝るっス」
「わかったわかった」
ちょっとやりすぎたかな。あんまり変に評判が広がって、ルナを利用しようとするやつがわんさかたかってきそうな悪い予感がするな。
「おまえらどういうチームなの?」
「俺たち、ラナスのAランクチームなんす。全員Aランクで、まあ普段は二パーティーに分かれてるんすけど、大物ん時は合同でやることにしたんすよ」
「ほう」
「あーでもさすがにワイバーンはきつかった――! めっちゃ強いっスねアイツ!」
「ワイバーンと戦った経験のあるやつはいないのか?」
「いるんすけど……舐めてたっスね……。今回のは大きかったっス」
まあ頑張ったほうだよな。
「ワイバーンの死体はどうした」
「ちょっと持って帰れる大きさじゃなかったっスね。仲間もだいぶダメージ受けたし」
「ああそれは協会の方で手配して、取りにいかせますよ」
ゼービスが答える。
「頼むっス」
うん、まあAランクだ、それほど悪い奴らじゃないな。
十二人の合同パーティーでやっとか……。ワイバーンってそんなに強かったっけ? あんまり苦労した覚えないからこの世界は違うのかもな。
「……サトウさん、助けてもらってなんスけど、頼みがあるっス」
「パーティーなら入らないぞ」
「そこを何とか……」
「ダメだ」
「奥さんだけでも……」
「もっとダメだ」
「……そりゃそうっスね……。二人でドラゴン倒せちゃう、ダンジョンも攻略できちゃうんじゃ、俺らいらんっスよね……」
「お前らの合同パーティーには魔法使いはいないのか?」
「いますよ。三人ほど」
「魔法が使えるやつはハンターなんかになんねぇよって、前に聞いたが?」
ゼービスがかわって答える。
「使えるようになると国に召し抱えられちゃいますからね……。魔法使いはみんな、国に召し抱えられるのが目標ですから。こいつらもまだまだ修行中って感じですね」
魔法使いは貴重か。
ケガしてもこんなところでウロウロしてるってことは病院とか医者とかもまだまだ整っていないか、民間レベルまでまだ降りてきていないというとこか。
ルナがじっと俺を見てる。
うん、わかったわかった。
「じゃあ、俺もAランクチームに入れてもらうよ。合同で大きい仕事やるときは、俺たちにも声かけてくれればいい。それでいいか?」
「はい!!」
「やった――――!」
「すげ――!」
すげえ嬉しそう。
まあ、悪い気はしないな。
ルナもニコニコだ。
「それにしても奥さん美人っスね! うらやましいっス!」
「やかましいわ。手出したら殺すからな」
「ハイっス」
みんなゲラゲラ笑う。
なんか一気に十二人もパーティ増えた……。
めんどくせえ。
「今夜はトリスの店で打ち上げやるっス! 全部おごるから来てくださいっス!」
「わかったわかった」
なんか妙な約束させられちゃったな……。
今日は仕事に出かけられないか。まあ、夜まで風呂入って昼寝して、ぶらぶらするか。
通称トリスの店という『トリス酒場』に入るとみんなもう来ていて、「うおおお――――っ」と大歓声が上がった。
「よく来てくれましたっス!! ありがとうございます!」
一同がグラスを持ち上げて礼をする。
「それじゃあ、サトウ夫妻が来てくれたところで、今日の完了報告をするっス!」
リーダーのスミスが立ち上がって声を上げる。
「本日の稼ぎ、金貨八百枚っス! 協会が俺たちの初めての合同パーティーの成果にちょっと色つけてくれたっス!あと、ワイバーンにも値段つくんで、あとでそれも各自ハンター協会に取りに行ってほしいっス。今日はみんな、好きなだけ飲み食いして、余った金を全員で分けるっス! じゃんじゃんやってほしいっス!」
「うおおおお――――!」
「本当だったら、ケガしたやつとかに多めに配るっスけど、今日はサトウさんの奥さんが全員タダで治療してくれたから、全員平等っス! 文句ないっスね?!」
「おう――――!!」
タダなんて言ってないぞ。
……まあいいか。
「さあさ、乾杯するっス。サトウさんなにを飲みます?」
「水」
「お水お願いします」
「……冗談スよね?」
「水」
「お水でお願いします」
「……水もってこ――い!!」
二人で何度も食事してきたけど、実は俺もルナも酒は飲まないんだよな。
俺は酒飲めないし、ルナはなんか理由があってかな……。
いやあ料理すごいね。旨いよ。
もっぱら宿屋の飯ばっかり食ってたけど、こういうのもやっぱりいいわ。
「サトウさんはいったいどっから来たんすか?」
「なんでそんなに強いんす?」
「どこ出身?」
「武器はなにを使うんすか?」
「魔法って、どんなの使うんです?」
「カード、見せてもらっていいですか?」
「どうやってドラゴン倒したんですかぁ?」
「ダンジョンにどんな敵いました?」
「サトウさんレベルいくつなんですか?」
「奥さんレベルいくつです?」
「奥さんあんな魔法どうやって使えるようになったんですか?」
「奥さん名前聞かせてもらっていいですか?」
「奥さんどうやって知り合ったんス?」
「奥さんおいくつなんですか?」
「奥さんご結婚してどれぐらいですか?」
「奥さん旦那さんのどこがよくて結婚したんですか?」
「奥さん旦那さんに不満とかありません?」
「いいかげんにしろ――――!!」
「はははははははははっ」
「はははじゃねえよもう質問はやめてくれ頼むから、誤魔化しきれねえよ。十二人の相手はきついよ」
「んー、いろいろ秘密なんすね」
「まあそういうこった。あんまり喋っていいことじゃないのはわかってくれ」
「わかりましたっス。まあハンターってそういうもんっスからね」
「勘弁してくれ、俺もルナもお前らのオヤジ、オフクロぐらいの齢なんだからな。それでいいだろ」
「分かったっス、じゃ、俺らのオヤジ、オフクロってことで!」
「もういいよそれで……」
ルナもニコニコと嬉しそうだ。
「お前らみんなAランクにしては若いなー」
「Aランになったばっかりのやつらで作った同盟っスからね」
「人材不足ぽいな」
「きついっス……。ま、実際Aランハンターってあと十人ぐらいいるんすけどオッサンっスね。威張っちゃって俺らのこと利用するだけなんでなんかついていけないとこあって、で、若い奴らで同盟作ったんス」
「下はチンピラで上は老害か……」
「その通りっス。わかります?」
「わかんない。そんなのすぐわかんないから」
「まあでも、サトウ夫婦は別ですね! 俺らサトウさんたちがライアン草持ってきたの見て、どんな仕事でもちゃんとやるのって、あーハンターってこうでないとダメだなって思いました!」
「さっき初めての合同パーティーって言ってたな」
「はい。Aランのジジイたちに顎で使われるのがヤになって、合同でデカい仕事して見返してやろう、もうアンタたちなんかいなくてもやっていけるわ――ってとこ見せてやろうと思いまして」
「そうか。でも無理すんなよ」
「よーくわかったっス。でももうジジイの手は借りないっス」
「俺たちの手は借りてもいいのか?」
「サトウさんも奥さんもジジイじゃない! 奥さんはお綺麗ですし!」
「わ――――――――!!」
……なんだかなぁ……。
「魔法使えるやつ!」
三人が手を挙げた。そういえば三人って言ってたな。
「治療できるやつは?」
二人だ。
「うーん少ないな」
「しょうがないですね。魔法使える人はハンターより稼げますし」
「次はなんの仕事を狙ってるんだ?」
「ジジイハンターズが狙ってるダンジョンあるんで、それを先に攻略して鼻を明かしてやろうかと」
「どんなダンジョンだ?」
「……アンデッドが多い、ちょっと不潔な感じのイヤーなとこっス」
「いつからやる?」
「……そうっスね、今回ケガ人多かったんで先延ばししようと思ってたんすけど、奥さんに治してもらったし明日からでもいいですよ」
「じゃ、それやるか」
ルナに聞いてみると、頷く。
「おいみんな――――! 明日、デッドダンジョン2行くぞ――!」
「えええ――――――――!!」
「おおおお――――――――!!」
悲喜こもごもですな。
「今日は大変だったんだから、一日ぐらい休んでもいいんだぞ?」
「ジジイハンターズが教会の偉い司祭さんだかなんだかに話しつけて聖職者用意して攻略するつもりらしいんすよ。負けてらんないっス」
「おう――――っ」
「あの、それじゃあ……」
ルナが立ち上がる。
「サトウの妻のルナと申します。至らないところも多く、レベルもまだまだ低いのでよろしくお願いいたします。明日のために、みなさんに、疲れが取れる魔法をかけますので、ちょっとそのままにお願いします」
「うぉぉぉぉおおおおおおお!」
なにその地響き。
ルナが祈りを捧げてから手を広げる。
「集いし若人たちに豊かな未来を、明るい希望を、女神の祝福を」
きらきらきら……全員に金色の光の粒子が降りかかる。
「あ……あれ?」
「筋肉痛が治った……」
「肩こりが……」
「さっきまでダルかったのに……」
「食いすぎて腹痛かったのに……」
「……あんなに飲んでたのに……」
「……」
全員、酔いがさめちゃいました。
なにやってくれてんすかルナテス様。
あんなに消費していた酒は、どこにいっちゃったんすか……。
ルナさんは浄化が強力すぎて酒飲んでも酔わないんですなきっと。
それで水か……。
みんなはもう一回、飲み直しですねこりゃ。




