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13.クマを保護しちゃった


 最近ちょっとおサボり中だったレベル上げを再開しよう。

 いつまでも幸せに浸ってる場合じゃない。それはそれこれはこれだ。

 レベルだけ上げても危ないので、実戦形式で倒せる相手がいいな。

「ハイイログマか……」

 掲示板を眺めてると、オルファスが声をかける。

「まだ人の被害は出ていないんですが、大きい個体が多数目撃されています。猟師も山菜取りの人も山に入れなくて困ってますね」

「多数目撃ってのは何頭かいるの? それとも一頭がいろんな人に見られてるの?」

「大きさが大きさなので一頭だと思われます」

「了解」




「さあやってきましたキャリラン山」

「はい!」

「今日は山に踏み込み、自力でくまを探します!」

「はいいっ……!」

 今日は師匠モードなので敬語を使います。

 これを使うと、相手は落ち着いて行動してくれますからね。

 師匠だからと言って怒ったり怒鳴りつけたりは相手が委縮してしまっていざという時に落ち着いて自信をもって行動することができなくなります。


「ルナさんそれはなんですか?」

 ちりんちりん……。

「く……クマ避けの鈴」

「没収します」

「うわ――――ん」

 ルナのアイテムボックスに放り込みます。


「(クマは体が大きいので歩きやすいところを歩きます。狭いところにはいません)」

「(はい)」

「(なので獣道を探してそれをたどることにします)」

「(はい)」

「(くまは目が良くありませんが犬よりも鼻がいいです。風下から探索するのを基本とします)」

「(はい)」

「(最高速度は時速50kmオーバー。人間が走るより速いですので距離を取って攻撃が基本となります)」

「(はい)」

「(体重は最大で500kg、150kg程度のツキノワグマとはケタが違いますので直接の戦闘は不可能だと考えてください)」

「(はい)」

「(クマは動物の死体も好んで食べます。死んだふりは通用しませんので覚えておきましょう)」

「(はいっ……ってそうなんですか?)」

「(先に発見して遠距離攻撃。ルナさんの弓で倒します。頼みますよ)」

「(はいい……)」

「(熊が立っているときは顎の下、後ろの時はしっぽの付け根、横に見えるときは前足を出したわきの下を狙います。頭が大きくて硬いので通常頭は狙いません)」

「(はい)」

「(発見したら高いところに静かに移動して、見下ろし射撃します)」

「(はいっ)」

「(フンですね……少し古いです。高いところに移動しましょう)」

「(はいっ)」


 見晴らしのいい場所まで移動してきた。

 山の斜面が見下ろせる。

 


「(あ……あの、佐……あなた……)」

「(はい)」

「(その……あ、ちょ、ちょっと緊張しちゃって……)」

「(はい)」

「(その……お花摘みを)」

「(ここでして下さい)」

「(はい?)」

「(ここでして下さい)」

「(ええええっ!?)」

「(ここでして下さい。離れるのは厳禁です)」

「(いっいやっそのっいくらなんでも……)」

「(ここでして下さい。豊かな自然に神の御恵みを、女神様の聖水を)」

 ……涙ぐんでますな。

「(わかりました……。ドームの【ウォール】をかけます。私は離れて300数えたら戻ってきます)」

「(あ……ありがとうございます)」

「(いいですか?)」

「(どうぞ。うう……)」

「(【ウォール】)」


 女の人は面倒ですね。


 戻ってきたら、しゃがんだままの姿勢で睨まれました。

 立ち上がれるサイズにしておけばよかったですね……。


 さて、実はルナと離れた間に、熱源探知魔法の【ホーミング】で山の稜線一帯を走査してあります。

 いる場所はわかったので、高い位置から接近を開始します。

 

「(あ、あなた! あなた! いました!)」

「(……親子連れですね。メスだったんですか)」

「(……どうしましょう)」

「(……どうしたいですか?)」

「(……)」



 ルナが考え込む。

「(……人を襲った人食いグマってわけじゃありませんし)」

「(はい)」

「(保護して、どこか遠くの山に放してあげたいですね)」

「(はい、じゃ、そうしましょうか)」


 やっぱり女神様ですね。慈悲深いです。

 綺麗事と言えば綺麗事です。でも、その綺麗事を女神様が言わずに誰が言います。

 したいようにさせてあげますよ。


「(使えそうな魔法はありますか?)」

「(麻酔弾(スリープアロー)があるんですけど)」

「(ここから狙えますか?)」

「(はい、なんとか……)」

「(じゃ、【バリスティック】と、【アキュラシー】をかけます)」

「(どうぞ)」

「(落ち着いて)」

「(はい)」

「(深呼吸して)」

「(はい。ふ――――っ。す――――っ)」

「(いつでもどうぞ)」


 ルナが立ち上がって、太い木の幹に体を預けるように固定して弓を引き絞る。

 距離120m……ぐらいかな。

 ひゅんっ。


 とすっ。

 クマの前足脇の下に刺さりました。

 クマ、しばらくもがいています。

「次弾、目標子熊!」

「はいっ」

 ひゅん。

 もがいていた母グマの横にいた子熊に刺さります。

 こっちはすぐにぱたんと倒れましたね。

 両方おとなしくなりました。


「接近、クマは寝たふりをするので30mまで近づいたら追い撃ちでもう数発!」

「はいっ!」

 斜面を駆け下り、クマに接近。

 30mまで近づいたところで五矢ほど母熊と子熊立て続けに撃ち込んでもらう。

 念のため、【ウォール】を張って接近する。

 二頭とも、くうくう息をして寝ていますな。

 どうやら大丈夫そうだ。

「お見事でした」

「はいっ! ありがとうございます!」

 二人でぱーんとハイタッチする。



 一応、倒したという部位証明が必要だな。

 そうでないと村人が安心して山に登れないからな。

 気の毒だけど、短い尻尾を切り取って、【ヒーリング】で治療しておく。

 あとは【ウォールボックス】で二頭を囲んだ後、ルナのアイテムボックスに収納する。


「どこがいいかな……」

 【マップ】をルナにも見えるように展開して、よさそうな場所を探す。

「アトラン山とかどうでしょう。綺麗ですし、山の幸も豊富です。神聖視されていて人が住んでいませんからきっといい場所ですよ」

「そうか、じゃ、そこにするか」

 ルナが地図を指でタッチして【ナビ】設定完了。


 南の方なので暖かい。もうすぐ夏かな。いい季節になってきた……。

 雑木林が多く、熊の餌になりそうなものも多い豊かな山だ。

 着地して、まだ寝ている熊を放す。


「さ、今夜のキャンプ地でも探そうか」

「いいとこありますよ。滝があるんです」


 【フライト】でしばらく飛ぶと、小さな小川と滝が見えた。

 おー、2mぐらいの手ごろな落差で滝のシャワーになってますな。

 じょぼじょぼじょぼ……。

 水も綺麗で冷たくなくて、いいところだ。滝つぼは直径5mぐらいか。小さな滝だ。

「こんないい場所よく知ってたな」

「一度来てみたかったんです!」

「ルナも来たことないんだ」

「地上に降りたことなかったので……」

「そうか……」


 テーブルを出して、焚火を焚いて、夕食にする。

 星空、半月。滝の音だけがする静かな夜……。

 これは、アレやってみたいな。

 水がきれいすぎて魚もいないしな。

 【プラズマボール】を作って、滝つぼに沈める。

 俺の【ファイアボール】は爆発するだけで火じゃないんだよな。なので熱源にしたいときは、【プラズマボール】を使う。

 じゅじゅじゅじゅじゅ……。水が温水になった。

 服をぱっぱと脱いで、どぷんと浸かる。

「天然露天風呂っ!」

 タオルなんか頭にのっけちゃって、いい気分!

 極楽極楽……。ふわあ……。


 ぽちゃん。

 ルナが入ってきた。

 すいーっ。

 泳ぐな泳ぐな。

「気持ちいい――っ」


 しばらくお湯に浸かって、二人で疲れを癒します。


 月明りに照らされて、濡れた体、濡れた髪。


 ……美しい……。

 ……こんなに綺麗な人だったのか……。

 ……いつの間にこんなに綺麗になったのか……。


 ルナが、そっと近づいてきて、二人で抱き合う。

 ぽちゃっ……

 ぽちゃっ……。

 ぽちゃっぽちゃっぽちゃっぽちゃっ……。


 水が冷たくなるまで、素敵な夜になりました。



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