10.爆発しちゃった
ルナを背負って【フライト】で飛ぶ。
「ルナ! グールってどんなやつだ!」
「アンデッドです!」
「どう倒すのが一番いい!?」
「聖域で浄化!」
「任せていいか!」
「はいっ!」
さすがに音速は超えられないが、全速力に近い。
目的地はテンパール村。上空から【ホーミング】で走査する。
「あれか!」
【フライト】を切って自由落下。
今度はルナは悲鳴も上げずに目をつぶってしがみつく。
眼下で戦闘中はハンターたちか……。
【フライト】をかけ、速度を落としど真ん中に着地する。
「やれ!」
「聖域光!」
ぶわっ!!
青白い光のドームがルナを中心に爆発するように広がる。
衝撃波を受けるように次々とグールたちが吹っ飛び、四散する。
……。
三十体近いグールに囲まれていたハンターたちが、俺たちを見る。
「あ……あんたあんときのジジイ!」
「……ジジイはないだろせめてオッサンと呼んでくれよ……」
「た……、助かった……」
ケガだらけの六人がへたり込む。
どいつもこいつも見たことあるぜ。あんとき俺に絡んできたバカ共だな。
グールの欠片を見る。
うん……死体だね。白骨化しかかってるやつらもいる。
ゾンビだね。気持ち悪いわ。
「お前ら、噛まれたりとかしてるのか?」
「……ああ、こいつら斬っても殴っても全然平気でよ。お構いなしに襲ってきやがって……」
ゾンビだね。
「治療します。そのままだとあなたたちもグールになってしまいますよ」
うん、間違いなくゾンビだわ。
「あ……、すいません。あの、ありがとうございます。おば……お姉さん」
……ルナにっこり。
うん、あの慈悲深いあたたかな笑顔は女神様の顔ですね。裏は無いですね、多分だけど。
「お前たち、戦闘しててグールの倒し方、わかったか?」
「わからんかった……。首を斬り落としたやつは倒れたけどよ……」
「ふむ……やっぱり頭か。魔法はなにか使ってみたか?」
「魔法使えるやつはハンターなんかにならねぇよ」
「なるほどね。ルナ、俺は村を一周してくる。そいつら頼む」
「はい、あ、武器に付加付けますよ」
「じゃ、頼むわ」
俺のハンティングナイフが淡い光を刃に纏う。
村を一周して、五体ぐらい見つけて【プラズマボール】で蒸発させた。
え、武器の意味ねーって? だってゾンビだし近づくのイヤだし。
戻ってきてみると、だいたいやつらの治療も終わってるな。
もうハンターの目が女神様を見る目だよ。女神だけどな。
「協会では、失礼いたしましたっ!!!」
やつらが一斉に頭を下げる。ずいぶん物分かりよくなったじゃねーか。
俺は奴らを完全に無視してルナと勝手に話を進める。
「グールって、元はなんなんだろう?」
「死体です。墓場にある遺体とか、行き倒れになってる人とかの」
「噛みつかれると感染する?」
「はい。聖域に触れて消滅するのは元が死体の人ですね。生きたままグールになった人には効きません」
「そういう人はどうするの?」
「治療しますよ」
「じゃあ村人に感染した人がいないか調べて、全部治療してもらっていい?」
「はい!」
「俺は村全体に壁を作ってグールが入ってこられないようにする。一晩様子を見てこれ以上侵入が無かったら、大丈夫かな。これ、なんでグール化したかわかる?」
「……自然発生する場合もありますが、こんなに大量なのは術かもしれません」
「誰かグール化させたやつがいると」
ルナが頷く。
「……魔王か」
「……あるいはその眷属」
「よし、お前らここの村長と顔合わせてるな?」
「はいっ!」
「じゃあ、このお姉さん連れてって、事情を説明して、村人を集めて治療に当たれ」
「はい!」
「あと、お姉さんに手出したら問答無用で殺すからな」
「はっ。……はいいい!!!」
初めてルナと会った時、正直おばさんだと思ってたけど、今こうやってみると、綺麗なお姉……おばさまだわ……。ちょっとむっちりしてきたし、妙に色っぽいし、変わるな、女って。
もっとたくさんしてやったら、もっともっと綺麗になるかもしれないな。
うん、いっぱいしよう。
早めにフラグ回収しといてよかったわ。
村に【ウォール】を張り巡らせて、村の中央に戻ってみると、三人がルナの治療を受けていた。
村人がほぼ全員集まってきている。チェックは済んでいるそうだ。
「こんにちは。ハンター協会の者です。今から丸一日、この村から出入りを禁止します。グールが入ってこれないように結界を張りましたからご安心ください」
村人たちから安堵の声が漏れる。
怖かったよな。よかったな。
「村人は全員いますか? まだ戻ってきてない人とかいますか?」
「全員います」
村長らしい人が返事する。
「最初にグールが襲ってきたのはいつ?」
「一昨日です。街に早馬を飛ばして一人連絡にやりました」
「連絡は届きましたからその連絡係は無事ですね。襲ってきたグールは何体?」
「一体でした。一人襲われて」
「その一体はどうしました?」
「村人総出でなんとか倒して、薪を積んで燃やしました」
「じゃあ大丈夫ですね。この三人は?」
「二人は村の外で襲われたのです。逃げてきたんですが危なかったですね」
「わかりました。治療ができる者がいますので、明日まで私どももここに滞在させてもらいます」
「ありがとうございます!!」
村人全員が頭を下げる。
うん、大惨事になる前になんとかなったな。
「お前らにも話を聞きたい。三十近くいたあのグールはいつ現れた?」
「俺たちが到着して村長と話をしたら、グールが来たーって声がしたんで飛び出していったら群れで襲ってきやがった」
ハンターのリーダーらしき男が言う。大男でガラわるそうだな。
「そうか。ま、村が襲われるのを止めたんだ。上出来だよ」
「すいません……あんたたちが来なかったら正直やられてたわ」
「お前たちの行動が悪いとは思わん。グールに襲われているという村の情報を聞いてすぐに駆け付けた行動力もある。村を守ろうとする気概もある。今回は敵の数が多くて運が無かったな」
「俺の村なんです。母ちゃんが心配で。それで仲間に頼んで」
ハンターの一人が手を上げる。
「わかった。悪いようには報告しない。報酬は全部お前たちが受け取っておけ」
「ありがとうございます!!」
「その代わり今夜は徹夜で警護しろ。三人ずつ交代でかまわん。村人もたぶん一昨日から寝てないからな。任せていいな?」
「はいっ!」
「村長さん? あー」
「テスランと申します」
「こいつらに飯食わしてやって」
「はい!」
「佐藤さん……」
「ん?」
ルナがうるうるした目で俺を見上げる。
「……かっこいいです」
「だろ?」
にやり。伊達に魔王代行を5年もやってねえよ。
その後、俺とルナは一応確認のため、村の牛や馬といった家畜や犬猫にいたるまで、グール感染してないか調べて回った。
夜になって、ルナが照明弾を撃ちあげて村を照らす。
これで朝まで明るいはずだ。持続時間が数分とかのケチ臭い魔法じゃないのがすげえよ。
三十体のグールとの戦闘があった場所で、テーブルと椅子を借りてきて、二人で夕食を作る。
周りでは、村人たちに指示してグールの欠片を薪で燃やした焚火の跡がくすぶっている。触るとばっちいので、欠片の上に薪を積んで燃やした。
野火の延焼とか怖いので、一応俺たちはそれの見守りってこと。
ルナが一生懸命、料理を覚えようとしてくれるのがうれしいね。
ふふ、女房と二人でキャンプに来たって感じ。
村長に牛肉をもらえたんで、ステーキにして食べようか。
パンと塩ゆでしたジャガイモ、ニンジン、刻んだキャベツでコールスローサラダ。
それにステーキ。ソースは瓶入りの売ってたやつで。
「おいしいです!」
「豪勢な食事になりましたなー」
「はいっ」
……。
「グールが集団で現れた……。魔王復活の前兆なのかな?」
「そうですね……」
「時間はどれぐらい残っているのだろう」
「……わかりません」
「魔王が復活する場所はわかってる?」
「魔王城……ですね」
「復活するまでに阻止、封印」
「はい」
「魔王が復活する前に魔王城ごと木っ端みじんというわけには?」
「強力な結界が張られています」
「ファンタジーだねぇ」
「ふふっ、佐藤さんてなんでもファンタジーで考えるんですね」
「だってそんなもの何もない異世界から呼ばれてここにいるわけだし」
「……そうですね。私の勝手で、申し訳ありません……」
「いいんだ。だって俺元の世界で死んでるんだよ?」
「……」
「本当だったら、それで人生終わり。なにかやりとげたとか、人に胸張って自慢できるようなことも大して無し。せいぜい知る人ぞ知る機械を幾つか作ったぐらいで、人生終わってた」
「……」
「でも、前の世界でも、ちゃんとなにかやり遂げた。世界の平和とか、そこに住む人々の幸せとか、守れた。主人公じゃなかったけど、ちゃんとやれた。そこは嬉しかったな」
「はい、私、佐藤さんの活躍のお話、大好きでした」
「なんでそんなことが知られてるんだか……」
「女神のネットワーク、舐めちゃいけませんよっ!」
「『女』のネットワークの間違いじゃないの? 俺のいた世界でも一番敵にまわしちゃいけない存在だよ」
「あははははっ!」
「どんなふうに伝わってるの?」
「教会の暴走を止めて、魔王様と恋に落ちて、戦争をやめさせて、人間の国王と和解させて……。勇者さんがコテンパンにやられちゃうの、笑っちゃいました」
「三郎には悪いことしたわ……」
「獣人の娼婦を、救ってあげて、魔王様まで復活させて、奴隷の獣人たちを助けてあげたり……」
「女神のサリーテスにはさんざんだったな」
「私、佐藤さんに逢いたかった。いっしょに、冒険してみたかった。あこがれてました」
「そんなふうに言われると、ちょっと照れる……」
「思った通りの人でした」
「妙なフラグ立てないで」
「あははっ、はい!気を付けます!」
「これからもいっぱいしようね」
きゅ――――んっ、ぼっ!
ルナさんが爆発しちゃいましたよ。
こんなに可愛い人だったとは、最初は思わなかったね。




