1.テンプレな召喚をまたされちゃった
シリーズ第3弾。まったく違う異世界から始まりますので、別作品としてお送りします。
「佐藤雅之さん、お気の毒ですが、あなたは亡くなられました……」
なにもない白い空間。ただただ白い……。
「しまった……」
頭を抱える。
ごめんなさいすいません今度ばかりは俺のミスです。
言い訳できません全部俺のせいです。
俺が山で陸フグとか獲ってきたからいけないんです。申し訳ありません。
「それ、毒があるんですよ!?」
「イヤです! 絶対に食べませんからね!」
らぶちゃんもミルクちゃんも絶対に食べない宣言したんで、しかたなく俺が自分で食うのにさばいたんだよな。
あ、らぶちゃんてのはラブランのことで、まあ言ってみれば俺の嫁。
いろいろあって一緒になった、獣人のウサギちゃん。かわいいぞ。
ミルクちゃんてのは俺の相棒、魔王ルシフィスのまあ嫁さんみたいなもんだ。
こちらも牝牛の獣人さんで、高身長、ナイスバディ、爆乳、美人さんと何拍子もそろってるいい女だ。
同じ屋敷で一緒に住んでて、四人で共同生活していた。
ほら、フグって毒あるの内臓だから、内臓さえちゃんと処理すれば問題ないはずなんだよ。テトロなんとかだっけ? テトロドトキシン?
俺あいかわらず料理とかヘタだと思われててさあ、意地になっちゃったよな。失敗だったわ。
ルシフィスが獣人ハンターの手伝いに外出してる時にやっちゃったのもマズかった。あいつだったら解毒とかできたのにさあ。
ああ……らぶちゃん、ゴメン。ほんっとゴメン。
せっかく三つ子のウサギ獣人の赤ちゃん、引き取る話決まりかけてたのに……。
萌え死ぬほどかわいかったのに……。
俺って、天然毒には耐性無かったんだな……。LV999だから油断してたわ。
……いや、もしあのままだったら俺らぶちゃんもミルクちゃんも毒殺してた? いや、食べてくれないで良かった――!
俺一人で済んでよかったよ! 危なかった――――!
それ考えたら冷や汗が止まらない……。
四十二歳にもなってなにやってんだか俺……。そのせいでまた異世界転生かよ。
顔を上げて女神様を見ると……、なんというか、大人の女神様です。
金髪のふわふわの髪長くて綺麗。美人さんです。
スレンダーで、お年を感じさせません。でも疲れた感じがします。
ちょっと陰のある感じですかね……。薄幸そうな女神様です。
離婚会見で大女優さんを、ひさびさにテレビで見た、という感じですかね。
「今回あなたがジャンケンの勝者でしたか……」
もういいよ。その点はもう突っ込まない……。
俺は生前、中小メーカーに勤めて機械の開発とか設計とかしていたんだけど、その合間にネットにファンタジー小説を趣味で投稿してた。
どうしようもないテンプレでハッピーエンドのお花畑という恥ずかしい代物だったが、なぜかそれが女神たちの間で人気で、俺が死ぬたびにこうやって自分の世界もハッピーエンドにしてもらおうと、女神たちの間で俺の争奪戦が行われているのであった……。またその流れなんですねそうですね。
「違います」
「えっそうなの?」
「佐藤さんサリーテスさんの世界でさんざんやってしまいましたよね。覚えがありますよね」
はいあります。
ありますねーありすぎるほどありますよ。
前の世界では、頼まれてもいないのに魔王を勝手に復活させ、女神をムリヤリ降臨させて罵詈雑言を浴びせて糾弾した上に脅して協力させ、魔王と俺で、腐敗しまくってたとはいえ女神様の教会を完膚なきまでに破壊しつくしましたからね。
こうして客観的に考えてみると俺すげえ酷いことしてるわ。
あんなの見せられたら俺を召喚したい女神なんてもういるわけないな。よーくわかりました。
「あれで佐藤さんの人気、女神たちの間でガタ落ちです。佐藤さんが死ぬってことになっても誰も引き取り手もいなくって、それで私が引き取ることにしました」
「……引き取るって、そのまま死なせてくれるわけにはいかなかったんでしょうかねえ……」
「佐藤さんの手腕、よく承知しております。あなたが弱き者のために、虐げられている者たちのために、闘ってくださったこと、私は知っています」
「正しく評価してくださっていることは感謝します。でも、どうせなら元の世界に戻してくれるとか、生き返らせてくれるとか、もうすこしこう、なんとかできなかったものでしょうかね……」
「申し訳ありません。それだけはできません。一度死んだ世界にはもう帰れないんです……。これだけはどうしようもありません」
だろうね。
……そうだよね。
……ルシフィス、俺の親友。もし俺が死んでも、後のことはなんにも心配するなと言ってくれたあの世界の魔王。
……後のこと、頼むわ。らぶちゃんのことも。
こんな形で、ごめんな。ルシフィス……。
「で、俺を呼び出したからには、なにか御用があるのでしょうか」
「はい」
「どのような問題が」
「私の世界では、魔王が定期的に復活します。残虐で非道な魔王です。そのたびに私が異世界から勇者を召喚し、これを倒してもらっていました」
「で、俺に勇者をやってくれと」
「違います。勇者を召喚して倒させるのでは、なにも解決しないことがよくわかりました」
「そりゃそうだろうね」
「勇者が魔王を倒しても、百年ほどで復活してしまうのです……」
「……それもまた、ファンタジーのお約束の一つですな……」
「はい」
ループか。ループものは多いよ。バッドエンドさ。
倒しても倒しても、魔王が復活する。
そのループを壊す本当の勇者が、現れるまで止められない世界。
「解決方法はあるのですか?」
「……私が、魔王を封印してみようと思うのです」
「はい?」
「もうこれ以上異世界から勇者を召喚するなど、勇者にとっても気の毒な話です。そんな無理な話を一方的に押し付けるようなことは私ももうやめたい」
「ちょちょっと待って!? 女神様が勇者になるの?」
「はい」
「そんなんできるの?」
「前例はありませんけど、やってみようと思うんです」
「……ホントに? ホントにそれやるの?」
「はい。すべてを終わらせるためです」
「それで俺は?」
「私は地上に降りると力の全てを使えません……。この身を守る術もないのです。どうか私のパーティーメンバーになって私を守ってくれませんか」
「魔王を封印するまで?」
「はい。勝手なお願いだとは重々承知しております」
復活しそうな魔王がいる。それを防ぐため、女神様自らが勇者となって復活を阻止する。俺は勇者パーティーの一員となって、勇者である女神を守る。
女神……。この人とか……。
美人は美人だけど、うーん……。おばさんだよな。
上品だし、おばさまにしといてやるか……。
……まあいいか。俺も42歳のおっさんだしな。
「わかった。いいよ」
「ありがとうございます!!」
女神様が嬉しそうに笑う。
今までのどの女神とも違う。勇者だの異世界人だのに全部丸投げじゃなく、自分で何とかしようとしている。
それぐらい、ちょっと助けてやったって、いいじゃないか。
どうせ三回も死んだ、オマケの人生だしな。