07:旅の武器商人
「やれやれ、まぁたここか……」
いささか気分悪そうに、エンドーが頭をかいた。
マハエ達三人と大林は、再び『ソレィアド』の荒野を西へ歩いていた。
『シラタチ』に協力することを許された後、大林は「会わせたい人がいる」と、三人を連れ、装置を使って、つい先刻までいたこの地へテレポートしてきたのだ。
[――その人物の詳しい情報をお願いします]
案内人が大林に言う。
「…………あんたは、どこからしゃべってるんだ?」
声の主を探してきょろきょろと見回しながら、尋ね返す。
[わたしの声は、設定した特定の人物にしか聞こえません。ですから、どこからしゃべっているのかとか、そういう疑問を投げかけられても困ります]
「それがよくわからない。つまり、あんたは何者なんだ?」
[そうですね……、宗萱さんが言っていた『三種の生命体』。その中には入らない、もう一つの生命体というところです]
「…………」
[まあ、わたしのことはこの三人がよく知っていますから]
三人はブンブンと首を振った。
「(案内人のことを説明するのは、もっとも難しい!)」
その様子を見て大林は、「まあいい」と。あきらめたようだ。
「……これから会うのは、オレら『田島弘之』が世話になっている武器商人だ。単身、各地方を旅しながら武器を売っている。今はこのソレィアドに滞在していて、ソウシに頼んだ使いっていうのも、その男に武器の修理を依頼するためだった」
[そうですか。それで、その武器商人に『シラタチ』としてどのような用件が?]
「その男は、オレらだけではなく窪井とも繋がりがある。“お得意様”としてだが。ヤツについて何か知っているかもしれない」
[……たしかに、会ってみる価値は十分にありますね]
納得した案内人に、ハルトキが思い出したように訊く。
「宗萱さんとグラソンは何をしてるの? そういう重要な用件なら、あの二人も来るべきだったんじゃ?」
[あの方達は忙しい身なので。窪井の件ももちろんそうですが、立ち上げたばかりの組織を潰さないために]
それを聞き、マハエが少し不安そうな表情になる。
「多忙か……。でもまあ、どんなに忙しくても、子供の相手をきちんとできる父親にはなってほしい!」
腕を組んで口をへの字にゆがめた。そんな友人に、エンドーが非難の視線を浴びせる。
「あのなぁマハエ……、父親も大変なんだぞ! バブルが崩壊し、今はまったく不景気な時代。子供の気持ちもよくわかるが、父親からすれば、すべては子供の―― 家族のための自己犠牲さ! 裕福に暮らしていくには、いくら働いても足りはしない! ……その上、リストラなんてされれば再就職も難しくなる!! 崖上の細い道を歩いているようなものなんだ!! その細道をさらに重荷を背負って歩いていけというのか!?」
両腕に力を込め、全力で訴えるエンドー。
「――それにしても、あの二人が『シラタチ』のトップだったとはね……」
ハルトキが、意外だというように、ため息を吐きながら言う。
[わたしも意外に思いました。初めて『シラタチ』の話を聞いたときは。もともと一つの任務のために造られたはずの宗萱さんと、デンテールの手下だったグラソンさんが……]
「…………」
話が途切れる。
二人ともこの世界を滅ぼすために造られた存在だった。それがまさか世界を救うために働いているとは。何より、造られし者が、自分達の意思で行動していることに驚きだったのだ。
「――お父様が悪いわけじゃないんだ! 時代の流れは、子供には理解できないかもしれない。けど……、責めないでやってくれ……」
「……そんなことはわかっているさ! でも今の子供は愛に飢えている! そんな子供達が育ってしまえば、世の中どんどん腐っていくぞ!! ここで止めようじゃないか……! 今の親御さん方が、崩壊寸前のわが国の、最後の砦なのではないか……!?」
案内人は途切れた話を中断し、別の話に変えた。
[――しかし、今の制作者の目的は、この世界の研究、分析です。それで、わたしも彼らに協力するよう、命令を受けました]
「命令ね……」
ハルトキはどことなく悲しそうに、微かに肩を落とした。
話を中断する前の案内人のしゃべり方が、どこかうらやましそうに聞こえていたから。
「――最後の砦か……」
「止めよう! 止めねばならない! 明るい未来のために!!」
「ああ!」
向かい合い、涙を流しながら力強く握手を交わすマハエとエンドー。
誰もが幸せになれる世の中をつくっていこう! 強く誓うように、また、互いの友情を確認し合うかのように、がっちりと抱き合うのだった。
本来の目的を忘れつつある二人を、ハルトキと大林と案内人は完全無視し、後ろに置き去りにする。
「――ところで、あの町の住民で、行方不明者は五十人。ソウシさんを除いて、帰ってきた人達は二十人。あと三十人はまだ窪井のもとにいるわけだよね?」
[そういうことですね……。これからどのような形で攻撃をしかけてくるのか。――大林さんは何かわかりますか?]
「……ヤツが何を考えているのか、オレにはわかりかねる。だが、あの予告状を見る限りでは、四日以内に大きな動きがあるとは思えない。腐ってはいるが、自分の決めたルールにだけは従うやつだ」
[それが確かなら、四日後に行動を起こしてくるとわかっている分、マシなのですが……]
「…………」
大林は何も言い返せなかった。
『ニュートリア・ベネッヘ』という存在が、大きく膨らんでいく今、窪井が『田島弘之』と敵対していたころの窪井であるという確証はない。もしくは、そんなルールなんて、とっくに捨てているかもしれないのだから。
ミサイルが落ちた町の付近まで来ると、大林が、取り出した白い筒の導火線に火をつけた。
「発煙筒だ。これで相手の位置がわかる」
筒から白い煙がまっすぐに、空高く昇り、数分後、それに答えるように同じ色の煙が昇った。そう遠くない場所だ。
大林はすぐに歩き出し、三人も後に続いた。
その場所にはオアシスのような小さな池があり、木もいくらか生えていて、涼しい。
一頭の馬が馬車に繋げられていて、そのすぐそばには白いテント。打ち付けてある看板には、『WEAPON』の文字。
「よぅ、久しぶりだなぁ、大林」
男がテントの前で木箱に腰かけ、手を振っていた。
鮮やかな山吹色の髪を後ろで束ね、暗緑色のマントを身に巻いている、いかにも旅商人風の男に、大林も手を振り返す。
「おう、儲かってるか? レック」
「ぼちぼちだ。まあ、少し前より客は増えた。……モンスターの件でな」
レックと呼ばれた男は、見たところ大林よりもいくらか年上のようだ。彼とは古くからの知り合いらしく、会話は親しげだ。
「三日前に若いのをよこしたな。依頼されたやつなら、まだ直ってないぞ」
「いや、そういう用件ではない。少し訊きたいことがあってな」
大林は後ろの三人をちらっと見た。
「こいつが、武器商人のクリング・レックだ」
どうも。とあいさつする三人。
「何だ? お前んとこの新入り?」
「そうではないが、まあ、事情があってな」
レックは座ったまま、まじまじと三人を―― とくに三人の黒髪を見つめ、表情に面倒くささを浮かべて大林を見上げた。
「事情か……。お前が遠出してまで、わざわざオレを訪ねたということは……、何かヤバイことに巻き込まれたか、首を突っ込んだか?」
「…………」
「図星だな? これだけは言っておく。オレを巻き込むのだけはやてくれ。二年前だって――」
「違う。そういうつもりで来たわけじゃない。言ったろ? 訊きたいことがあると」
レックはしばし訝しんで大林とにらみ合っていたが、根負けして首を振った。
「何だ? 言っておくが、タダでオレから情報を聞き出そうなんて思うなよ?」
ケチだ。ケチだな。と、離れてひそひそ悪口を言う黒髪三人。レックが投げたナイフが、ビヒュッ!と三人の顔面すれすれを抜けて馬車に突き刺さった。
「…………」
「仕方ない。少しだけ安くしてやろう。お得意様だからな」
文句あるか? と三人を見る。三人は正座してプルプルと首を振った。
「KEN 窪井と、最近会わなかったか?」
情報代を払って、大林は訊く。
「窪井か? ああ、あいつならつい先日、会ったぞ」
「なに? どこでだ?」
「フーレンツの西だ。五人くらい手下率いて、荷車引いて来てな。ありったけの武器を買っていった。でかいケンカでも、おっぱじめるつもりかねぇ?」
「フーレンツの西か……。何か言ってなかったか? どこへ行くとか」
そう質問され、レックは「さてねぇ」と考える。
「……ああそうそう、ヘルプストの町にどうとか、手下に言っていたな」
「ヘルプスト? フーレンツの、東の町か……」
「それ以上は知らないぜ。なんだ? またニュートリアと何かあったのか?」
表情を曇らせて考え事をする大林の姿は、誰の目にも、尋常ではない何かがあった。としか見えない。大林もそんな自分に気付いてか、ごまかすように微笑んだ。
「……いや、すまんな。ありがとう」
大林は三人のほうを向き、「帰ろう」と言う。
「なんだなんだ、もう帰るのか? 武器は? 安くしとくぞ、少しだけ。新しいのを仕入れたんだ。WC社の新製品だぞ」
「またこんどにしておくよ」
「おい、大林ー!」
レックは背を向けた大林を呼びとめ、真剣な眼差しで言った。
「無理はするんじゃないぞ」
大林は無言で彼を見つめ、微笑みもなしに手を振った。
大林と三人を見送りながら、レックは「やれやれ」と、心底呆れた顔でつぶやいた。