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82:戦いに尽きる

 

お待たせしました。

何の予告もなしに更新を中断していたことを深くお詫びします…。

復活しましたので、気合を入れて執筆いたします。週二回の更新を目指します。

 


 炎が動くたびに、激しい熱風が顔面を襲う。

 宗萱とグラソンは武器を構えて魔力を込める。

 グラソンの連結された長い金属棒は、氷をまとって先端を細い刃へと変えた。

「氷ごときで拙者の炎を防ぐとでも?」

「炎には勝てないが、この熱気を少しは抑えることができる」

「この炎を前に、まだそのような戯言を……。ならば楽も感じぬ間に焼き尽くしてくれる!」

 両刀の一振りで膨れ上がった炎が二人へ押し寄せる。

「氷壁!」

 グラソンの氷が二人の前でドーム状の壁となり、炎をさえぎった。しかし氷の壁は紅丸の強大な炎に耐えきれない。

 魔力は大きく削られ、壁は数秒で蒸気と化す。


「桜舞灯―― 『這風』!」


 真空の刃が薄くなった氷の壁を割って、炎を切り裂く。

 紅丸は跳び上がって刃を避けると、壁を蹴り宗萱とグラソンの頭上へ。

「燃えつきよ!」

 放たれた炎。二人は左右に散ってそれを回避し、グラソンは氷の槍を、宗萱は真空の刃を、紅丸が着地する前に彼へと撃つ。

「くっ!」

 氷の槍は炎で焼き尽くされた。しかし真空の刃は炎では止められない。

 紅丸は二本の刀ではじいた。

 二人は次の攻撃へ。相手が攻撃を仕掛ける前に。

 着地した紅丸は真空に削られた刀の炎を再び燃やし、壁をつくる。

 再度、グラソンの氷の槍が放たれた。

「氷なぞ効かぬ!」

 氷の槍は紅丸にとどく以前に、彼を覆う炎にすべて溶けて消えてしまう。――しかし、溶けない“物”もあった。

 溶けた氷に覆われていた短い金属棒が、炎を越えた。そしてそれをはじいた二本の刀は、紅丸本体の防御に大きなスキを生じさせた。ほとんど同時に放たれていた真空の刃が、隙間から紅丸を斬る。

「ぐうっ!」

 身体をそらせて倒れる紅丸。

 刀の炎が揺らいで、勢いを弱めた。

 ――それでも、ダメージは小さい。宗萱の弱まった魔力では、大きな傷を負わせるほどの攻撃は出せない。

 しかし少しばかりの効果として、紅丸を動揺させることはできた。手を付いて立ち上がる紅丸は胴体に軽傷を負っている。

 氷の蒸気が白く目の前を覆う。二人は黒い影の紅丸へ、いつでも攻撃できるように構えている。彼の両手の刀は、弱い炎のまま。一度勢いをそがれたことで、無理な力の反動が身体を圧迫しているのだろう。

 グラソンは床の金属棒を取り、両手に持った金属棒に氷の刃を。氷の長剣、二刀流で紅丸へ向かう。宗萱も刀で続く。

 ――しかし紅丸のスキはほんの一瞬だけ。

「ぐおおう!!」

 吠える声。それとともに炎が再び強まった。蒸気を吹き飛ばす圧力に宗萱とグラソンも近づけず床を転がる。

 腕や顔面が焼け焦げる熱に、歯を食いしばり耐え、目を閉じることなく紅丸を捉え続ける。

 炎の帯がグラソンを包囲した。彼はすぐに氷の壁で身を守る。しかし熱気の中で空気中の水分を集めることは困難で、防御には氷がとても足りない。

「あがくでないぞ!」

 炎がグラソンを縛った。氷の壁は無意味に。

「ぐ……」

 身体が焼かれる。しかしグラソンは悲鳴を上げなかった。自分の身体にまとわせた魔力で、苦しいながらも炎にあらがっていた。

「グラソン!」

 宗萱が真空の刃を紅丸へ放ち、炎は途切れた。

「……せめてもう少し水分があれば……」

「この場所ではとても勝ち目がありませんね……。しかし外へ出て戦えば、相手にとっても酸素が十分。更に勢いを強めてしまいそうです。――それにしても……」

 宗萱は炎の中の紅丸へ声を発す。

「無理しすぎではありませんか? これでは我々に勝ったとしても、あなたも生きてはいられませんよ」

「……構わぬっ!」

 言葉と同時に炎が激しく震えた。

「…………」

「やはり場所が悪い。ここから出よう」

 グラソンは熱気に負けないほどの魔力を一度に放出し、空気中にあるだけの水分を氷に変えて、小さく固まったいくつもの氷を紅丸へ放った。氷は炎によって一瞬で蒸気と化し、その蒸気を目くらましに二人は出口へ走った。

 ――グラソンが開けた壁の穴から脱す。


「よし、ここなら」


 そこは宗萱が渡った貯水池の近く。

 後ろからは炎が迫りくる。二人は横へ転がって穴から吹き出た炎をかわした。

「とにかく、あの貯水池まで行けば申し分ない」

 二人は貯水池まで走り、中央の橋の上で構える。

 紅丸は炎の圧力で壁の大半を破壊し、姿を見せた。

「身が持たぬな……。我が身の滅びぬうちに……」

 地面を蹴り、炎に呑まれて舞い上がる紅丸。

 両の二本の刀が炎の翼のごとく。急降下して二人が立つ橋の半分を一撃で吹き飛ばした。

 二人はそれぞれ反対へ貯水池にとび込む。グラソンの魔力が、水面に二人分の足場を形成し、不安定な氷の上に着地。紅丸はグラソンへ炎を振るが、厚い氷の壁がそれをさえぎった。反対側から迫る宗萱の真空の刃を紅丸は大きく跳んでかわし、地に足を着くと同時にまた蹴り上がり、攻撃を続ける。

 グラソンは水面を凍らせながら滑り、宗萱のもとへ。

 グラソンが立っていた足場は炎の塊によって大量の蒸気と化した。

「あの攻撃は……、威力で確実に仕留めるつもりだ」

「この滑る足場で、次をよけきれますか?」

「防御は得意だ」

 放たれた炎を氷の壁が防ぐ。

 しっかりとは言えない防御力。

「……しかしオレの魔力も限界が近いか……」

「そうですね……。相手はまだ戦えるみたいです」

 炎が雨のように降り、水面で破裂して消える。紅丸は戦えるようだが、その攻撃は命中しない。次に放たれた攻撃も。

 蒸気で標的を捉えられないのか、それとも意識が薄れ、力を制御できないのか。

「あいつの攻撃を防ぐのはやめよう。すべての魔力を次の攻撃に込める」

「たしかに、それしか勝ち目はなさそうですね……。わたしとあなたの力を合わせれば、威力は十分かもしれません」

 紅丸の炎に命中すれば命はないが、この瞬間ほどのチャンスはない。一撃にすべての魔力を込め、彼を仕留めるチャンス。

 蒸気の中で、二人は上空の紅丸の影を捉えた。

「宗萱、魔力はまだ残っているか?」

「心配しなくても、攻撃は可能です」

「よし」

 グラソンは金属棒を振り上げた。魔力が注がれ、空気が冷やされていく。

「外せばオレ達は死ぬ」

「外しませんよ。仲間は誰も死なせません」

 宗萱も刀に魔力を注いだ。

「いくぞ!」

 金属棒と直刀が同時に振り下ろされた。


 ――蒸気が、爆発したかのように、突然散っていく。晴れて目視できるようになった水面に標的の二人を見つけた紅丸は、振り上げた両刀をぐっと堪え、全力で意識を集中させて狙いを定める。

「……む?」

 熱気と必死に繋ぎとめる意識で揺れる視界の中で、紅丸はその光景を見た。

 押し寄せる二つの魔力を。

 ――風の魔力と同調する氷の魔力。渦巻く風が、蒸気と空気中の水分を凍らせ、貯水池の水もそれに巻かれて凍り、紅丸へ押し寄せる。巨大な氷の柱、氷の渦が、大きな口を開けて紅丸を呑みこもうとする。

「――くっ!」

 振り上げていた両刀の炎を、紅丸は氷の渦へと放った。――しかし真空を帯びた風によってそれはたやすくかき消された。

「(あやつら……!)」

 宗萱とグラソンが最後の魔力をその技に込めたことは、紅丸にもわかった。その技を打ち消せば、彼の勝利は確実。――しかし……、紅丸にそれだけの炎を今すぐに繰り出すことはできない。

「どの道、この命はすぐにでも尽きる、か……。ならば……!」

 刀を前で交差させ、紅丸は熱を高めた炎にすべてをかけた。


「拙者はたやすく散らぬ!」


 氷の渦と、炎に呑まれた紅丸とが接触した直後、空中で大爆発が起きた。

 氷と風は吹き飛んで散っていき、破片が宗萱とグラソンに降り注ぐ。二人は空中に紅丸を探した。


 ――炎もすべて消え、ぼろぼろの紅丸が宙を舞っている。


 彼に力は残っていなかった。それでも刀は握ったまま離さない。


「……窪井殿……」


 紅丸は薄目を開けた。


 ――拙者の正しいと思うこと……?


 『灰白の世界』が、紅丸の記憶に蘇った。


 ――世界を救ってください。


 女の声も……。


 ――窪井賢はとても強い者だった。最初に窪井賢と刀を向け合い、拙者は疑問を感じた。何のために刀を振るうのか、と。……迷いが敗北を生んだ。そのとき、この男のために戦うというのもよいかもしれぬと思ったのだ。……“正しいこと”を見極めるためにも。


「拙者は……、誰に忠を尽くした?」


 紅丸は刀を持ち上げ、左右で両刀を振ると、落下していく下へ目をやった。宗萱とグラソンへ、彼の最期の敵へ。

 魔力、炎もなしに。

「拙者の忠義は、つねに己の意思にあった!!」

 力の限り吠え、地上へ迫る。

 宗萱はグラソンが両手で持ち上げた金属棒を踏み、跳び上がった。


 ――空中で交差した紅丸と宗萱。振られたのは両者の刀。どちらも素早く、鋭いひと太刀だった。


 宗萱は池の手すりの向こうへ着地した。その背後で、完全に力尽きた紅丸が、水の中へと落下した。

「…………」

 黙って立ち上がった宗萱は、水面に顔を浸けて浮く紅丸を見て、彼に言った。


「立派な侍です」


 それから手を伸ばして這い上がろうとしていたグラソンを引っ張り上げ、疲労の息をはく。

「勝ったな」

「……生きてますね……」

 宗萱はそれを実感した。そして安堵した。

 たった今決着のついた戦いで、二人の戦闘力はほとんど消費された。しかしまだ終わりではない。

[宗萱さん、グラソンさん]

 案内人が静かに話しかけた。

[大林さんは、独りで窪井へ向かったそうです]

「……やはりそうですか。彼らの決着は、彼らに任すしかないようですね……」

 宗萱とグラソンは、基地の上階のどこかで牙をむき出している大林の魔力を感じ取っていた。

 休んで回復を待つような時間はない。二人はすぐに歩き出す。強者を退けたからといって立ち止まってはいけない。戦場にいる限りは。



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