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76:独りぼっち

 宗萱チーム。

 マハエは短剣を構えて宗萱の後に続く。その後ろからSAAPが背後を警戒しながら。

 鉄板の張られた灰色の壁に、天井の照明が反射して明るい廊下。

「目立つな、オレ達。あの黒マントでも着ていればよかった」

「どちらにしても強行突破です。それに敵も、我々の侵入にじき気づくでしょう」

「…………」

 後ろのSAAPを向いた。

 彼は剣ではなく、対人用の短いこん棒を持っている。剣は腰のホルダーだ。

 死者を出さず、この組織と戦うのは困難だろう。

 窪井や幹部を除いた相手は、マハエ達とそれほど変わりのない年齢だ。マハエはそんな少年達に戦場で散ってほしくはないと思う。


 そのとき、彼らの前方、廊下が十字に分かれている場所で、彼らを待ち受け隠れる影がいた。

 影は手に持った短剣を鈍く光らせ、現れた宗萱へ向かってそれを振り下ろした。

 ――直後、影は目を見開いたまま崩れる。

 突然攻撃をしかけた手下の短剣はきれいに刃を切断され、手下自身も宗萱の目にも止まらない太刀業により、気を失った。

「峰打ちか……、速い……」

 あ然とするマハエ。

「まだまだ来ますよ」

 宗萱は刀を抜いたまま、数歩下がる。

 十字廊下の左右から、複数人の手下がさまざまな武器を手に現れた。

「げ……」

「七人ですか。どうやら敵はとっくに我々に気づいていたようです」

「マジか」

「走りますよ!」

 宗萱は手下達の壁へ走り出す。

 襲いかかる武器をことごとく破壊し、峰打ちで手下を倒していく。

 マハエも凝縮波を込めた蹴りで一人をふっ飛ばし、その後ろにいた手下も同時に倒した。

 SAAPも応戦し、三人が走り過ぎた後の廊下には、うめきながら転がる手下達だけ。

「おお、なかなかいい感じ」

「これからですよ真栄さん」

 三人が走る廊下に警報が響き始めた。

「大勢出てくる感じ?」

 そういう感じ。警報で侵入者の位置を知らされた手下達が、目の前に押し寄せてきた。

「こりゃまずいぞ!」

「こっちです!」

 先頭の宗萱が右へ方向を変えた。

 その通路はせまく、先にはドアが一つあるだけだ。――が、迷わずそこへ飛び込み、内側からカギをかけた。

「どうするんの!?」

 マハエは飛び込んだ狭い部屋を見回して、逃げ場のないことに気づく。ほとんど空っぽの棚が並ぶ、倉庫のようだ。

 手下達はすぐにでもドアをぶち破ってくるだろう。

 しかし宗萱は落ち着いて、刀を鞘に納めると、ドアの反対側の壁を向いた。

「真栄さん、合図をしたら壁を蹴ってください」

「え?」

 鞘を左手で構え、刀に魔力を込める。

「あー、はい……」

 マハエも足に魔力を込めた。

 宗萱の居合が壁を乱れ斬り、直後にマハエの蹴りが切れこみから壁を破壊した。

 ――壁に開いた孔は、前とは別の廊下につながった。

「当たり!」

 マハエはその通路の存在に驚く。

「先ほどの廊下で、周辺の見取り図を見かけました。この倉庫を抜けて行けば、奥へ続いていそうです」

「おお! オレはそんな見取り図なんて少しも気づかなかった!」

 そのとき、後ろで倉庫のドアが悲鳴を上げていた。

「とにかく急ごう!」

 マハエはついでにそこら中の棚を蹴り倒して、孔をくぐった。

「これで少しは時間が稼げるな。あとはこの通路がどこへ繋がっているのか」

 最終的には仲間達と合流しなければならないのだが、この広い基地の中に果たしてその地点はあるのか。そして窪井の前に戦うべき幹部達と、どう出くわすのか。窪井を目指す前に立ちはだかるであろう強敵達と。――ここは魔物の腹の中。不意打ちも考えられる中で、焦った行動は避けたほうがよいのかもしれない。

 ここで一人きりになれば、たちまち胃袋で溶けて消えてしまうだろうと、マハエはぞっと肌をさすった。

 無意識に走る速度が落ちて、宗萱とSAAPの後ろにいた。

 振り返ると、遠くから追ってくる手下達の姿が見えた。

「――真栄さん!」

 先頭の宗萱が、よそ見をするマハエに叫んだ。

 見ると、廊下の先のほうで、シャッターがゆっくりと降下し始めていた。

「うおおおおおおお!!!」

 マハエはがむしゃらに足を速めた。

 シャッターが閉じてしまえば袋の鼠だ。

 床との隙間はちょうど滑りこめるほど。前の二人が床を蹴って滑りこむのを見て、マハエも思いきり隙間へ向かって床を蹴った。


 ――ガシャン。


 静かにシャッターは降りきり、廊下をふさいだ。

 宗萱は帽子を押さえたまま床に伏せって、後ろで閉じた鉄の壁を見て「ふー」と息を吐いた。

 間一髪、宗萱は無事。SAAPも無事。マハエも無事――

「……真栄さん……?」

 宗萱は立ち上がって、自分の目を疑うように何度もそれを確認した。

 ――宗萱達と鉄壁との間に、マハエの姿はなかった。

「…………」

 しばらく、言葉はなかった。


 ――そんなむなしい静寂など、マハエは知らない。

 手下達の足音と興奮の声が迫ってくる中、閉じられたシャッターに顔面を押しつけて、うつぶせにまっすぐ伸びていた。

「間一髪……」

 気持ちは仲間と同じくシャッターの向こう側。

 現実は、逃げ場を失った孤独な子ネズミ。


「にゃはああぁぁぁ!!!」


 悲痛な叫びをシャッター越しに聞きながら、宗萱とSAAPはただその場にたたずんでいた。

 マハエのピンチだ。しかし魔力の刃でも、この壁は斬り裂けない。

 二人は考えた末、その叫びを振り切るように背を向けた。


 ――二人のあきらめなど知る由もないマハエは、仲間の助けを信じてシャッターを叩き続けるが、背後へ足音が近づく。

 もう敵はすぐ近くだ。

 そのとき、近くの壁の一部が人一人通れるほどの孔を開いた。

 マハエは迫る敵に圧倒され、迷わずそこに飛びこんだのだが……。そこがこの窮地を脱するためのもであるはずがない。

 しかしマハエはその開かれた通路を進んでいくしかない。大勢に踏みつぶされるよりはマシだ。







 グラソンチーム。

 エンドーはグラソンの後に付いて、薄暗く狭い廊下を歩き続ける。

 まだ一人の敵とも遭遇していないのは、勘で進んでいるらしいグラソンのおかげか。

「こっちだな」

 グラソンは迷いなく見つけたドアを開けてはその先へと歩いていく。エンドーとSAAPはただその後を追っているだけだ。

「福チーフ、どこへ向かっているのですか?」

 エンドーの後ろからSAAPが訊く。

「……当然、この基地の深部だ。訊くまでもないだろう」

 グラソンはぶっきらぼうに答えた。

 しかし彼の歩調から、そうは思えない。それはエンドーもSAAPも同感だ。

 SAAPはこん棒を右手で構えつつも、左手は常に腰の剣に触れている。

 エンドーがSAAPにささやく。

「どう思う? 敵はオレ達に気づいてるかな?」

 昨夜侵入した場所には、監視カメラがいくつか設置されていた。それをエンドーは思い出す。

「そうだとすれば、我々は待ち伏せされているかもしれません。確実に仕留めにかかるはずです」

「……待ち伏せか。先頭のグラソンが注意してくれないとな」

 エンドーはSAAPに、よりもグラソンに言った。

「安心しろ、敵に囲まれたとしても、お前なら一人で大丈夫だ」

 励ましているのかほめているのか。そう返されてもエンドーはふんぞり返ることができない。

「……安心しろって、オレは安心できねぇよ」

「そうか。……それでも、戦う準備はしておけ」

 グラソンはまたドアを開く。――少し広い部屋で、向かう壁にもう一つのドアがあった。しかし部屋の中央でグラソンは立ち止まった。

「敵だ」

 金属棒を抜くグラソン。

 機械の音とともに、周りの壁の一部がまるでドアのように開き、大勢の手下が現れた。

 数は十数人。完全に囲まれ、戦わずしての突破は無理だろう。

「あの人の言った通りだ。ここで待ち受けて正解」

 手下の一人が笑いながら言った。

 SAAPは周囲へ目を回し、攻撃に備える。

 エンドーも発破鋼を発動させた。

「待ち伏せ専用の部屋か……」

 エンドーは動じず、金棒を近くの手下へ向けた。

「来いよ、勝てると思うのなら」

 余裕の表情で言われ、向けられた手下は剣を振りかざして斬りかかった。周りの手下達もそれにつられるかのように、いっせいに動き出す。

 エンドーの金棒―― 発破鋼は、振り下ろされる剣を受け止め、それと同時に爆発を発生させてそれを吹き飛ばす。それから蹴りの一撃で手下を倒した。

 二人が同時にグラソンの相手をしていたが、すぐに蹴散らされる。SAAPも襲い来る者から確実に倒していく。

 エンドーも負けてはいられないと、金棒を右手に任せ、左手に魔力を込める。――右から来る武器を金棒で防ぎ、左の手下へは掌底で魔力球を叩きこんだ。

 気絶させるくらいなら、軽い魔力の消費で十分だ。

 しばらく爆音が続いた後、部屋は静まった。

「よっしゃ、一丁上がり!」

 エンドーはまだまだ余裕の表情で、グラソンへ振り向いた。


「…………」


 しかしそこに彼の姿はなかった。それどころか、SAAPの姿も。

「……えー、と?」

 床に倒れる大勢の手下達の中、エンドーは独り立ちつくしていた。



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