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65:不死身

 ハルトキは『縛連鎖』を発動させた。

 これで形勢は逆転する―― はずだ。

 ドラゴンはのっそりと体勢を立て直した。驚いたように「グルル」とうなりながら。

「デカイだけかい? そんなんじゃ、ボクには勝てないよ」

 『縛連鎖』を振る。

 ドラゴンの全身に巻きついた鎖は一切の行動を不能にし、そのままジリジリと締め付ける。

 隠れて見ているサーヤ達を横目で見てから、ハルトキは鎖を引いた。

 締め付ける鎖はドラゴンを窒息させていく。


「――!!」


 しかしドラゴンに強烈な抵抗が見られた。ただでさえ魔力を消費しすぎていたハルトキは、鎖を引きちぎろうとするドラゴンの力の重みに耐え切れない。

 ――魔力が弾け、その反動でハルトキは後ろ向きに吹き飛んだ。

 手の中で短剣の姿に戻っていく鎖を再びもどす力はない。ドラゴンは息絶え絶えに、しかし十分に戦う力は残っているようだ。

 ハルトキは立ち上がろうとする足が言うことを聞かないことに気付く。

「そんな……」

 両手を使って後ずさりすることしかできない。

 ――と、ハルトキは背中にぶつかる誰かの足を感じた。見上げると、二人の少年の姿があった。

「だらしないぜ、ヨッくんよう」

「あーあ、傷だらけだな。もう無理するな」

 見下ろして笑っているマハエとエンドー。二人は楽しげな顔でハルトキとドラゴンを交互に見て、

「どうやら一味違うみたいだぜ」

 エンドーが言った。

「二人とも、どうして?」

「愚問だね、ハルトキ君。キミの危険を感じ取って駆けつけたに決まってるじゃないか」

 冗談っぽく笑うエンドー。

「いやぁ、エンドーがどうしても気になるって言って」

「……そうか」

 ハルトキは二人から目をそらして笑った。情けない姿を見られてしまったことが恥ずかしいのだ。

 エンドーは驚いて見ているサーヤを見つけて、優しい顔でうなずいた。


「見ていてくれ」


 そう言うと、短剣をドラゴンへ突き出し、魔力を込めて、『発破鋼』を出現させた。

 マハエもそれにならって『壊波槍』を現す。

「……頼むよ」

「ああ」

 ハルトキの言葉に、二人は力強く答えた。

 エンドーは『魔力球』を放ち、ドラゴンの顔面で爆破させる。驚き、一歩引いたドラゴンへ、二人は突っ込んだ。


 ――そのときサーヤは、夢を見ている感覚で、エンドーとマハエを眺めていた。それからニヤニヤと笑っているジンへ、目を向ける。

「……知っていたの?」

「何を?」

 ジンは、ふいっと顔をそらす。

「…………」

 サーヤは気付いた。エンドーが彼女に伝えようとしていたことに。彼はサーヤの不思議な力におもしろがって近づいたのではなく、自分も同じく不思議な力を持つものとして、彼女を救おうとしていたのだと。

 ――バカなのは自分だった。

 サーヤは唇を噛みしめた。悔しかった。誰も自分の気持ちをわかってくれないとひがんでいたくせ、自分も彼の気持ちに気付かなかった。そんな気にすらならなかった。

「泣くなよぅ」

 涙を流し始めたサーヤに、ジンは不可解な顔を向ける。ジンも子供達も、サーヤの不思議な力のことは知らない。だから突然の涙に困惑していた。

「何でもない。何でもない……」

 彼女の涙は、嬉しさによるもの。自分は孤立してなどいなかったと。


「――はあっ!」


 マハエは魔力のこもった刃先でドラゴンの首部分を狙ったが、すばやい爪の一振りに妨害された。しかしエンドーの発破鋼の一撃は確かに命中し、同時に起こった爆発の衝撃で、ドラゴンは一声うめいた。

「……赤いドラゴンか。たしかに普通のドラゴンより数倍手強い」

 マハエは早くも呼吸を乱すが、エンドーは休むまもなく追撃をかます。一度爪に弾かれても、次は体の回転を加えた一撃を。ドラゴンは徐々に弱っていくようだが、確実に怒りを引き出しているよう。

 数度の爆発にも耐える強靭な肉体。敵を倒す前にエンドーの魔力が尽きるほうが早いかもれない。

「うおおおっ!!!」

 金棒を振り回し、ドラゴンの爪と弾きあう。

 ――救える者は救いたい。自分の命など二の次でもよい。とにかくそれで誰かを守れるのなら。エンドーがこの世界で築き上げた強い思いだった。そのために、誰よりも『VBT』に励み、強くなってきたのだ。

 横へ払われた爪を屈んでかわし、エンドーは強烈な一撃をドラゴンの横腹へ叩き込んだ。

「マハエ!」

 一瞬、ドラゴンが白目をむいているスキに、マハエはその心臓へ槍を突きたてた。

「グオォッ!」

 ドラゴンは一瞬うめいて、止まった。槍が抜けると力尽きた巨体がうつぶせに倒れた。

「やった!」

 エンドーは短剣をホルダーにおさめ、ハルトキへ歩み寄る。

「ナイス!」

 ハルトキはグッと親指を向ける。

 サーヤや子供達が、おそるおそる廃墟の陰から立ち上がり、彼らへ歩み寄った。


 ――そのとき、


 マハエは立ち上がる気配を背中で感じ、再び武器を発動させようとしたが、爪の一撃を食らってなぎ倒されてしまった。

 突進してくるドラゴンへ、短剣を抜こうと手を動かすエンドーだが、腹部への頭突きで吹っ飛び、その手から短剣が離れた。

「……何なんだよ?」

 ニ度復活したドラゴンをハルトキは見上げたまま、武器を構えることすら忘れていた。そうしたところで、彼に力は残っていないのだが。

「逃げろ……!」

 地面を這いながら、エンドーがハルトキと子供達へ言った。

 ドラゴンの内には、膨大な怒りがあふれているようだ。

「逃げろぉ!」

「やめて!!」

 サーヤは叫んだ。彼らの犠牲を見たくはなかった。自分達を救うための犠牲など、決してあってはならないと。ふとサーヤは足に当たった何かを見た。エンドーの短剣だ。無意識に、それに手が伸びた。

 何を考えているのか、自分でも理解は出来なかったが、サーヤは本能的に、短剣に埋め込まれた石に指を触れた。

 ――マハエがどうにか立ち上がる。エンドーもよろめきながら。

 そして彼らが目にしたのは、青い閃光を放つ短剣だった。サーヤの手の中で、彼女の魔力が短剣の『陰の石』によって実体化した、雷の長剣。

 サーヤだけが、すべてを呑み込めたという顔で、一番驚愕しているのはジンや子供達だった。

「来なさい! 私が相手になるわ!」

 ドラゴンは怒りの矛先をサーヤへ向けた。

 サーヤは恐怖を打ち壊し、迫り来るモンスターをまっすぐに見つめて、長剣を突きつける。

 爪を振り下ろすドラゴンの腕を、雷の長剣がすり抜けた。刹那、怒りとは違う咆哮が響く。しびれた腕をふらふらと動かしながらドラゴンはもう片方の爪を振り上げる。


「はあぁっ!」


 サーヤは一声を発し、ドラゴンの胴を長剣で貫いた。

 ――バチバチッ! と、いっそう強い閃光。

 全身を激しく痙攣させ、ドラゴンの咆哮は小さくなって消えていく。しばらく、完全に息の根を止めるまで、サーヤの魔力はドラゴンを貫いていた。

 ドラゴンの命が消えると同時に、サーヤの長剣も力を失い、短くなって短剣にもどった。

 今度こそ、完全にドラゴンの命は消滅し、巨体は三度目、倒れた。そしてサーヤも意識を失い、膝を付いて倒れた。

 ジンとエンドーが駆け寄り、ジンが彼女の体を抱き上げる。

「…………」

「よくやった。ってほめてやるんだよ」

 いまだに困惑しているジンに、エンドーが言った。それから彼女の手から短剣を取り上げ、ホルダーにもどした。

「オレがサーヤを背負っていく。寺院まで急ぐぞ」

 力の尽きたサーヤを背中に乗せて、エンドーはマハエとハルトキを見る。二人は黙ってうなずき、先へ歩き始めた。

 エンドーも子供達の後からジンと並んで歩き出す。


 ――サーヤはとても軽かった。一瞬前に一人で凶暴なドラゴンを倒したとは思えないほどに。


「ありがとうな」


 耳元で静かに呼吸をするサーヤへ、エンドーは小さな声でお礼を言った。

 同時に、もうこれ以上自分達と関わらせないほうがよいと思った。宗萱やグラソンの言うとおり、そのほうが彼女達のためなのだから。



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