04:見覚えのある顔
町は完全に息吹を失っていた。
ほんの数日前までは、小さいながらも、活気にあふれていたであろうメインストリート、酒場、店―― すべてに生気はない。
建物自体は最近まで機能していただけに、少しも荒廃してはいない。それがかえって、全体に奇妙な寂しさをかもし出している。
だが完全なゴーストタウンというわけではなく、人の姿もあるにはある。
ぼー、と立ちつくす人。座り込んでうつむいている人。
[町に残された人々です。娘、息子を失った親。夫を失った妻。中には、両親を失った幼い子供もいます]
「ひどいな……」
マハエは苦い顔をした。
会う人会う人、目が死んでいる。
町民の半数以上が、突然姿を消したのだ。そのショックは計り知れない。
「消えたも同然の町…… ね」
ハルトキがつぶやいた。
[消えた人々は、守民軍が捜索しています。しかし、見つからないでしょう]
「人々は窪井の配下にある、か」
ハルトキが「ふむ」とあごに手を当てて、考えるしぐさをする。
「支配した人達を使って、窪井は何を仕掛けてくるのか……」
「…………」
マハエは、町の入り口を見つめて泣いている女の子を見ていた。
案内人が言っていた、両親を失った幼い子供とは、この子のことだろう。父さん、母さんの帰りを信じて、ずっと待っているのだ。
「どうにかできないかな……」
[あなた達がすべきことは、ここのような“悲しい町”を、これ以上生み出させないようにすることです]
「わかってる。けど……、いや、そのとおりだよな。オレ達が嘆いたってしかたがない」
「そうだ。オレらは、目に見えていることしかできないんだからよ」
エンドーが言った。
[さて、まずは隕石が落下した場所まで案内します。落下地点は、町の中心。小さな町ですので、ここからすぐですよ]
「近づいて大丈夫なの? ボク達が感染したり……」
[心配ありません。放たれたウィルスは、空気中では短時間で死滅します。それに、セルヴォではないあなた達には効き目はないでしょう]
「そう。よかった」
ハルトキはほっとした。
「こら、キミ達! 何をしている!」
三人の前方から、木製の鎧を装着して腰に短刀を装備した、守民軍兵とおぼしき男が一人歩いてくる。
「この町の住人ではないな。ここで何が起こったかは知っているだろう? 遊び半分でこんな場所に来るんじゃない!」
三人と同じく、この町へ調査に来た軍の一人だろう。
ハルトキが手を前で振りながら説明する。
「すいません、違うんです。ボクら三人は『シラタチ』の一員で――」
「シラタチ? あっはっは、バカを言うな。お前らみたいな子供がか?」
「そうです」
「ふん。さっきも向こうでシラタチと名乗るやつを二人見かけたが、あいつらは何がしたいんだか。消えた町民の捜索をしているようには見えん。だいたい、対モンスター組織が出しゃばる幕じゃないんだ。お前らもくだらん嘘はやめて、とっとと家へ帰れ!」
軍兵は三人の肩を押し、追い払おうとする。
「ちょ……、本当なんですって! マジ」
マハエはわかってもらおうとするが、軍兵は聞き耳を持たない。
「帰れ帰れ!」
「わからず屋め!」
三人が本気で抵抗しようとしたその時――
「う、うわああ!!」
男の人の悲鳴が響いた。
「何だ!?」
軍兵が、はっと町の入り口を見る。三人も振り返って見た。
真っ黒なマントで全身を覆った人物が、入り口のところに立っている。
三人はギクリと、身が固まる感覚を覚えた。
黒いマント―― 三人には吐き捨てたい記憶しかない。しかもそのマントが顔につけているのは、ドクロの仮面。
「対SAAP……!?」
その姿はまさに、前回三人を苦しめた改造プログラム、対SAAPそのものだった。
――なぜアレが?
今はそれどころではない。対SAAPは腰を抜かしてしまった男の人に、今まさに剣を振り下ろそうとしている。
「――まずい!」
駆け出したのはマハエ。対SAAPが剣を振り下ろす。
「(まだ間に合う!)」
マハエは片足から、凝縮した衝撃を放ち、いっきに加速した。
――ガキンッ! と、剣がはじかれる。
「間に合った!」
次に、剣をはじいた肘を対SAAPの胴に叩き込む。
「(しまった! そういえば……)――あれ?」
マハエは首をかしげた。
足音が近づく。いくつもの足音が。
大勢の対SAAPが、次々と町へ入ってくる。
「どういうことだ? 何だこいつら!」
軍兵がわめく。
「くそっ!」
ハルトキとエンドーは、対SAAPの進攻を阻止しようと、駆け出した。
さっきまで立ちつくしていたり、座り込んでいた町民達も、悲鳴を上げて逃げ出す。
剣をはじかれ、肘を叩き込まれた対SAAPがよろめく。
ハルトキとエンドーも戦いに加わったが、次々と押し寄せるやつらを止めることはできない。
「こいつらの弱点は仮面だ!」
マハエは前の戦いを思い出し、地面に転がった剣を拾い上げると、柄頭で仮面を打った。
仮面にヒビが入り、ぼろぼろと崩れる。
「――!?」
その下にあった顔を見て、マハエはたじろいだ。
人の顔。茶髪で鼻の高い男の顔。だがその眼は、異常なほど黄色に輝いている。
「まさか……!」
マハエは対SAAPの頭部を覆っているフードを除けた。
「ラィル……!?」
後ろにかばっていた男が、驚いた声を上げる。
「やっぱり……!」
マハエは衝撃波で対SAAPを転倒させると、ハルトキとエンドーに向かって叫んだ。
「ヨッくん、エンドー! 攻撃するな!」
言って、ふと後ろの軍兵を振り返った。
軍兵はおびえる女の子を後ろに、短剣を対SAAPに向けている。
「賊め……! それ以上近づけば容赦はしない!」
「殺しちゃダメだ!!」
マハエが叫ぶ。
「こちらの命令に背く場合は、止む終えん!」
「そうじゃなくて……!」
軍兵は短剣を逆手に持ちかえ、敵の首を掻っ切るように振った。が、マントから素早く伸びてきた手に腕を掴まれ、締め上げられた。そしてそのまま横へ放り投げられ、頭を打って気絶した。
ハルトキが目の前の敵に『金縛り』をかけ、女の子に向けて『メイス』を振りかぶっている対SAAPに飛びついた。
そのとき、締め上げる対SAAPの仮面とフードが取れ、素顔があらわに――
「え……!?」
ハルトキは目を見開いた。その顔に見覚えがあったからだ。
茶髪リーゼントの不良の顔に。
「ヨウ、ハルトキ……」
対SAAPがニヤリと笑った。
「なんで……?」
「ヨッくん! こいつらは対SAAPじゃない!」
マハエが叫ぶ。
「こいつらは、この町で行方不明になった町民達だ!!」
ハルトキは力をゆるめた。
「そんな……」
“田島弘之の不良”―― “ソウシ”が、ハルトキを振り落とし、メイスを構えた。
「消エトケ」
ハルトキは驚きとショックで動けなかった。『動体視』で、ゆっくりと自分の頭に振り下ろされる凶器を呆然と眺めていた。
「――ソウシ!!」
一筋の風が吹いた。
誰かがソウシを横から押し倒した。
朱色の髪と灰色のローブ。その人物はソウシとともに地面に倒れ、メイスを取り上げると、彼の腕を後ろへねじって抵抗を防いだ。
「何をしているんだソウシ!」
メイスを投げ捨て、男が叫ぶ。
聞き覚えのある声で、ハルトキは我に返った。
「ハル! 無事か!」
「……大林さん……」
ハルトキは驚きの顔を微笑みに変え、男の名を呼んだ。