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03:シラタチ

 三人が白い鎧のSAAPに案内されたのは、装置があった部屋から、廊下を少し進んだところにある『休憩室』だった。


 途中、先導するSAAPと同じ格好をした人物、二人とすれ違った。どちらも足を止めて頭を下げていたので、三人は自分達が彼らにとって“目上”の存在だということを感じ取っていた(感情の見られない事務的な対応なのだが)。

[量産型のSAAPは、感情が乏しいようです。完全なセルヴォとはいえない存在ですね]

 案内人が言っていた。


 休憩室の畳の床にあぐらをかいて、目の前のテーブルに置かれた茶をすすりながら、三人は案内人の説明を聞いていた。


[ひと月前に起こったモンスター出現の件ですが、これまで前例がなかったようで、この世界の警察―― 一般に『守民軍』と呼ばれ、この世界の中枢的存在なのですが、彼ら守民軍にも、やはりなかなか手が出せなかったそうです。そもそも軍は人を相手に戦う組織ですので、モンスターという存在には対処が難しく、どうにか殲滅は成功しましたが、軍人と一般民、確認されているだけで合わせて三十五名が死亡しました]

「三十五人……、むしろ被害がそれだけでよかったじゃん」

 エンドーが言う。

[そう言ってしまえばそうなのですが、モンスターが出現したのはこの地方の、この辺の地域だけでしたので、被害は大きかった、とも言えます。実際、モンスターの集団によって、小さな町が二つ潰されました]

 ハルトキが「ふむ」とうなずく。

「なるほど。モンスターの勢力を抑えつけるのに、軍だけでは力不足だったと。とくにこの世界は、連絡の手段も移動の手段も満足ではないから、なおさら」

[それと、一番深刻だったのは、戦闘員不足です。人相手ではない強敵と戦うだけの能力を持った者が極端に少なかったと]

「たしかに、剣や槍なんかで簡単に勝てる相手じゃねぇからな」

 エンドーが言った。

 マハエも、

「オレ達には魔力があるから、まだいいけど――」

 そこで気がついた。


「ああ、そうか、だからこの組織――」


[そうです。これ以上のモンスターによる被害を抑えるためには、守民軍の他にそれ専門の組織が必要です。この我々の組織『白剣シラタチ』は、そのために設立されました]

「……表向きはでしょ?」

 ハルトキが言う。

「ボク達の最大の目的は、デンテール―― もとい、制作者の尻拭いでしょ? 表で堂々と行動するには、そういう組織の一員だという理由が必要だった」

[……たしかにその目的もあります。ですが、本来の目的ではありません。純粋に、この世界を守っていこうというものですよ。軍の直属ではないので、彼らの認定も必要でしたが、モンスターの殲滅には、SAAPも大いに貢献しましたから、楽勝でした。あちらの上層部の方々は意外とかしこいですよ]

 その話を聞いたマハエは大げさに何度もうなずいて見せた。

「ほほう? それじゃ、窪井の件もSAAPに任せておけばいいんじゃないの?」

[…………]

 案内人は黙った。それは「たしかにそのとおりなので言い訳に困った」というわけではない。

[昨日言いましたよね。問題はそれだけではないんです]

「…………」


[今回、戦闘用SAAPは、第三部隊まで存在していました。ですが、一週間ほど前、突然、第一部隊との連絡がとれなくなったんです。一つの部隊が丸ごと、消えたのです]


「それって……」

 苦笑いするハルトキ。

[窪井の仕業、という可能性が高いです。新型の戦闘能力は旧型の倍以上ですよ]

「それを消せるほどの力が、窪井にはある?」

 マハエが拳をにぎる。

[ですから、むやみにSAAPを投入するのは、危険なのです]

「だからオレ達ってわけか」

 エンドーがため息をつく。そしてお茶を飲み干した。


「何にしても、戦うしかない! そうだろ?」


 それを聞いたマハエが拍手する。

「おお、エンドーちゃんが頼もしい!」

「けど、湯呑みをにぎる手が震えてる」

 ハルトキが付け加えた。


[『白剣シラタチ』は、赤く染まらない真っ白な剣。平和をつくる、汚れなき剣です。あなた達はシラタチの、三人部隊『銀の矢』として動いてもらいます!]


「(さ…… 三人部隊……!)」


 三人はぐっと、拳をにぎりしめた。

 目を輝かせて……。


「やってやるよ!」

 マハエが拳をあげた。

「戦って、勝つ! 単純な話だ」

 エンドーが拳をあげた。

「ボク達にできることなら」

 ハルトキが拳をあげた。

 力強く掲げられた三つの拳に、迷いはない。彼らが覚悟したのは『死』ではなく、勝利へ向かって突き進むこと。

 結束の三本の矢。力を合わせれば、どんな困難でも乗り越えられる。

 

[えー、それでは、さっそく任務です]


「…………」

 三人はピタリと固まった。

 拳がゆるゆると下がる。

「計ったな……?」

 マハエが言うが、遅かった。

[いやぁ、やる気になってもらえて助かりますよ、ほんと。今日はまず、昨日話しました、“隕石”が落ちた町へ行ってもらいます]

「…………」

[先ほどのテレポート装置で、その町の近くまで移動できますから。ささ、お茶を飲み干して、靴をはいて、レッツゴーです]


「……アイアイサー……」



 この建物には、休憩室のほかに医務室も設備されている。一応、城全体が『シラタチ』という組織だが、本部と呼べるのはこの最上階だけ。それよりも下は、“異”テクノロジーのかたまりである本部を隠す、『仮本部』となっていて、十数人のSAAPが受け持っている。


「……それにしても、一ヶ月前とはえらく違うな」

 装置の部屋への短い廊下を進みながら、マハエは観察するようにそこかしこを見回していた。

[新型SAAPがこちらへ送り込まれたのは、あなた達が人間の世界へ帰った翌々日でした。一ヶ月もあれば、城を改装するくらいSAAPには十分ですよ。それに、もっとすごいものも用意されています]

「へー、楽しみにしておこー」

 マハエは棒読みで言った。


 装置の部屋――

[――テレポートは、装置から装置へ行き来できるのですが、移動先の装置に登録してある人物しか、その場所へは移動できません。ですから、他の誰かが装置を使って本部に忍び込むという心配はないです]

 説明を聞きながら、まずはエンドーが、白い光を放つプレートに立った。

 装置を使って平然とした顔をしているのはエンドーだけだったので、マハエとハルトキは先陣を譲った。


[まずは、となりのディスプレーで、移動先を指定してください]

「おいおい、変な場所に飛ばすなよ?」

 ディスプレーの下にあるスイッチをいじっているマハエに、エンドーが冗談めかして言う。

「任せとけって、この『地獄の三丁目』ってところでいいんだよな? 案内人」

[はい。そこでオーケーです]

「まてこら」

 エンドーがプレートから降りる。

「冗談だよ。――この『ソレィアド』ってのでいいんだよな?」

[はい]

「ソレィアドって何だ?」

 エンドーが訊く。

[ここから西にある地方のことを、『ソレィアド地方』というんです]

「ほらエンドー、プレートに立て。本当に地獄の四丁目に飛ばすぞ」

「なんかレベルアップしてるっ!?」

 マハエは笑いながら、エンドーが再度プレートに立ったのを確認すると、上下に動く大きなレバーを下げた。



 ――三人全員がテレポートした先は、港町のものとまったく同じ、レンガの小屋の中だった。

 だが外に出てみると、そこはまったく違う場所だ。

 黄色い荒野の中にぽつんと建つ、赤い屋根の小屋。

[ここは『ソレィアド地方』。港町と本部の城があるのは、ここから東の『フーレンツ地方』です]

 案内人が説明する。

[西へ少し行けば、目的の“町”―― だった場所に到着します。もうほとんど消えたも同然の町ですから]

 西側は荒野が広がっていて、そう遠くない場所に、本当に小さな町がぽつんとある。東側を見ると遠くに高い山があって、北と南には水平線がうっすらと見える。海に挟まれた細長い地形のようだ。


[この世界は、一つの大陸が主となっていて、それが五つの地方に分けられているのです。本部がある『フーレンツ地方』、今あなた方がいる『ソレィアド地方』、フーレンツ地方の東に『サラバック地方』、フーレンツ地方の南に『クラウルル地方』、そのさらに南に『トーネリカ地方』。このソレィアド地方は、中でも一番小さく、荒れている地方です]


「どうしてこんなに荒れてるのかな?」

 町を目指して植物のない地面を踏みしめながら、ハルトキが首をかしげる。

[理由はわかりません。ですが、ずっと昔からこのような状態らしいです]

「ん〜、いい気分じゃねぇな。ここの空気は」

 エンドーは眉間をしかめ、荒野のあちこちに目を向ける。


「……生暖かい風だ」



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