01:再び始まる戦い
※ややこしくなる部分があったので、案内人のセリフを、「〜〜〜」から[〜〜〜]に修正いたしました。
「――そんなことだろうと思ったよ」
話を聞いたハルトキが、首を振りながら溜め息をつく。
港町の展望台は、赤い夕日に照らされていた。
潮の香りを乗せた風が、髪を梳いて吹き過ぎる。
展望台には、小守真栄、吉野春時、遠藤京助以外に人の姿はなく、三人は海をバックにして手すりに寄りかかり、人目を気にすることなく案内人と話をしていた。
溜め息をつきたいのはハルトキだけではない。
「ここまで楽しませておいて、さあ帰ろうと思ったとたんにこれだ」
と、マハエ。
「けっきょく、お前は大嘘つきだ」
エンドーが大げさに溜め息をつくと、今度は案内人の言い訳。
[嘘は嘘でも、これはやむを得ない嘘です。最初、話そうと思いましたよ。ですが、あの場であなた達を怒らせるよりは、この世界で少しはいい思いをしてからですね……]
マハエが「もういい」と、案内人の言葉を制する。
「手口が卑怯なんだ、お前は。考えてもみろ、オレ達はいたいけない育ち盛りの思春期少年だぞ。それを無理矢理戦いの中に引っ張り出してよー」
「そうだそうだー!」と、ハルトキとエンドーも拳を突き上げる。
[何を言ってるんですか。ひと月前だって、見事にデンテールを倒したじゃないですか]
「だからさぁ、そういう問題じゃなくて――」
「まあマハエよ。この野郎に何を言っても無駄だということくらい、さんざんわかってきたはずだぞ」
エンドーの言葉に、マハエは口を開いたまま固まった後、ゆっくりと閉じた。
[よろしいでしょうか?]
「…………」
三人はうなずく代わりに沈黙した。
案内人と言い争うのは、無駄な体力を使うだけだ。
[KEN 窪井。正確にはまだ、彼は見つかっていません]
「何か手掛かりでも?」
ハルトキが訊く。
[ええ、手掛かりというよりは……、大きな動きがありました]
案内人の声が真剣になる。いたって真剣に。
[二日前、ここから西地方にある一つの町が消えました]
三人も真剣な表情になり、腕を組んで話の先を促す。
[人口は七十人程度の小さな町ですが、二日前にこの町に隕石が落下したそうで――]
「まてまて、隕石だって?」
マハエが顔をしかめる。
[とりあえず聞いてください。その隕石自体の被害はほとんどなかったのですが……。その後、町の人口七十人の中の約五十人が、突如行方不明になりました]
マハエが「謎が解けた」と手を叩く。
「宇宙人来襲だ。きっとみんな食われたか、実験用に連れて行かれたんだ。くそっ、いよいよ大規模宇宙戦争の始まりか」
[真面目に聞いてください]
「真面目だよ?」
マハエが目を大きくして大げさに言った。
ハルトキがため息をつく。
「それで? それが窪井とどう関係するの?」
[そうですね。“隕石”というのは目撃者の証言でして、実際にはそれが隕石だと確認されていません。それが隕石ではなく、ミサイルだったとしたらどうでしょう?]
「…………」
三人は黙った。
エンドーは思い出していた。前回彼を殺そうとした、クソッタレ町長のことを。
町長は隕石で死んだ。だがそれをたしかに確信したわけではない。思い返せば、あれは隕石ではなく、ミサイルだったようにも思える。この世界の住人達は、当然『ミサイル』なんていう兵器を知るはずがない。だから『隕石』が落ちたと騒ぎ立てていたのかもしれない。
エンドーは口を開いた。
「ミサイル……。ってことは、まさかその行方不明者って――」
ミサイルによる被害はほとんどなく、その後に続出した行方不明者。そこから考えられることは一つしかなかった。
「ウィルス……」
三人同時につぶやいた。
[そうです。そしてそれができるのは、あのとき島にいて、闘いから逃走した窪井以外に考えられません]
「それが手掛かりか……」
マハエが肩を落とした。
「確実じゃないな。それだけの手掛かりでオレ達を呼んだのか?」
[今回のあなた達の任務は、窪井の捜索と発見、および被害拡大の完全阻止です]
「つまりは、窪井を見つけ出して倒せってことだろ?」
エンドーが簡潔にまとめる。
[できれば生かしたまま、です。彼は最初からこの世界の住人ですから、デンテールとは話が違います。つまり、こちらの目的は、“デンテールの尻拭い”です]
それを聞いたエンドーは表情を和らげた。
「よかった、安心したぜ。殺せって言われたら断ってる」
[引き受けてくれますね?]
「どうせ選択肢はそれしかないんだろ。なら、さっさと終わらせよう」
マハエが伸びをして歩き出した。
[簡単に終わればいいのですけどね。問題はまだあるんですよ。――まあ、詳しいことは明日話します。今日はこの町で宿をとってください]
「デンテールよりも厄介な存在でないことを、心から願うよ」
ハルトキが言った。
願いたい気持ちは三人とも、案内人も同じだった。
「宿代、15Pいただきます」
宿のフロントに硬貨を払い、三人は二階へ、階段を登った。
港町の西側にある宿は、安いうえにサービスがよい。一階には一人用の部屋が五つあり、二階には三人用の部屋が三つある。そして地下には浴場があるらしい。
フロントで渡されたカギで、部屋のドアを開けようとしたエンドーが、振り向いて言った。
「その前に風呂だ。風呂入ろう!」
一日中遊びまわったせいで、汗で汚れてへとへとの三人。浴場で疲れを癒そうというエンドーの案に、マハエとハルトキは即賛成した。
「わーい、大浴場だ〜!」
小学生にもどったように、はしゃいで廊下を走る三人。
深く帽子をかぶった少年とすれ違い、階段を下りていった。
「…………」
一階から上ってきた帽子の少年は、しばらく立ちつくしてから、帽子の前の部分を持ち上げて、紫色の短髪を覗かせた。
「間違いなく、ターゲットだ……」
ニヤリと笑うと、静かに踵を返した。