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18:到着、到着!

 宗萱チーム、大林チームの四人は、早朝から乗合馬車を乗り継いで、正午少し前には『ネーベル山』のふもと町に到着した。


「さぁて……」


 マハエは山を眺めて緊張で震える息を吐いた。

 うす雲が広がる空の下に、『ネーベル山』は控えめにそびえている。

「ちょっと恐いね……」

 マハエの横で、ハルトキも同じような心境だ。宗萱もあまり顔には出さないが、少なからずは二人と同じだろう。

 ――だが一人だけ、彼らとは違う心境の人物もいる。

 大林は、緊張する彼らよりも更に険しい表情で、山のどこか―― 窪井がいるであろうどこかを探すように見つめている。

「まずはどこかで食事を。それからです」

 あくまで冷静な宗萱が、マハエとハルトキの心を鎮めてくれた。






 窪井の隠れ家、地下監禁室――


 昨夜と同じ手下が、昼食を運んできた。朝食もそうだったが、やはりパンだ。

 このところ主食はパンだけだが、エンドーは文句一つ言わずに食す。――寝袋にくるまって。


「お前はいいやつみたいだが、オレは頭領には逆らえない」

 去り際に手下が言った。

 「これからお前達がどんなにヒドイことをされようと、助けるわけにはいかない」そういう意味だろうと、エンドーは理解した。期待はしていなかったが、それを聞いて少しばかり気が沈んだ。


「宗萱達がふもとの町に到着した頃だろう」

 グラソンは体内時計で時間を計っている。

「オレ達を助けるために、もしもあいつらまで捕まったらどうするつもりだ?」

「心配はない。あいつらは助けには来ない」

「……へ?」

 呆気にとられる。

「助けに来ないって……、なんで?」

「正確に言えば、助けられる必要がないからだ」

 そう言うと、グラソンは牢の扉に近づき、鉄格子から腕を出して鍵穴に指を付けた。


 氷が形成される、パチパチという音の後に、扉が―― たやすく開いた。


「…………」

 呆気を通り越し、頭の機能が一瞬、停止する。

 鍵穴の中に氷を形成し、簡単な鍵をつくったというわけだ。


 ――つまり、いつでも脱出できたというわけだ。それも数秒で。


 目の前で起こったことがあまりにも簡単すぎ、エンドーは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「少しの間はここで待機だが、武器は持っておけ」

 保管庫からエンドーの武器を取り、投げ渡す。

「従いますとも。万能魔力様の後ろにいれば、恐いものなしだ」

 ナイフとかハサミとか、便利な七つの道具がワンセットになったサバイバルアイテムを思い出していた。

 最初から何もかもが計画どおりだったことを、まざまざと思い知った。






 登山道、入り口――

 その道が名ばかりの登山道だということは、入り口を見ただけでもわかる。

 賊が身を隠すには打ってつけなのかもしれない。


 簡単な昼食をすませ、同時に打ち合わせもした。

 実際に行ってみなければわからないが、案内人の情報で、やぶ道を抜けたところに例の山小屋があり、中から地下通路を進んで地上に出ると、そこに大きな門があるということがわかった。

 門にはおそらく見張りが何人かいて、そこを突破しなければ侵入はできないが、そこはマハエとハルトキに作戦がある。


 ――雑草、穴だらけの登山道を、グラソンやエンドーと同じように気をつけながら登り、わき道にたどり着き、トラップだらけのやぶ道を抜けて、三十分もかからず山小屋に着いた。


 二人はここで敵に捕まったが、今回は誰もいないようだ。


 宗萱がゆっくりとドアを開ける。

 山小屋の中は、まったく何もない。ところどころ穴が開いている薄い木の壁に、床はコンクリートのようなもので固められている。


 少し調べると、大林が床の一部に、七十センチ正方形の小さな溝があるのを見つけた。

 正方形の端と端に、持ち上げるためのものと思われる穴があり、マハエと大林が協力して、重たいフタを持ち上げた。


 ――現れた地下通路は四角い空間で、周りはすべて山小屋の床と同じ素材で固めてある。広さは、大人が中腰で歩けるほど。

 奥へ奥へと続いているようだが、視界は完全に闇に支配されている。


「大丈夫、見張りはいない」


 『暗視』を発動したハルトキが知らせる。

「案内をお願いします」

 ハルトキにそう言うと、宗萱は彼の後ろについた。

「『ニュートリア・ベネッヘ』って、どういう組織なんだ?」

 マハエが思わず疑問をもらす。これはいくらなんでも、手が込みすぎだと思ったのだ。

 それに対しては誰も答えることができないが、大林が一つ言う。

「謎の多いやつらだ。それはこの組織が活動を始めた当初からそうだった。長い間、敵対している『田島弘之』でも、やつらの本質は見抜けていない」

「……なんかオレらって、そういうのとばっかり関わってる気がするな」

 そう言うが、「『シラタチ』という組織も例外ではない」とは、思っても言わなかった。



 ゆっくりと、十分ほど歩いて地下通路の終点。そこには長いはしごがあって、木の板が上の穴を塞いでいた。

 宗萱が先に上がって様子を見てから、すぐに合図を送る。

 入り口と同じように重たいフタで塞がれていたら大変なことだが、板は簡単に持ち上がって、全員が地上に出ることができた。

 いっせいに背伸びをして、森の中の小さな道のようなその場所を見回す。

 ――いや、そうではない。三方を切り立った高い岩の壁に囲まれ、その内側の木々の間にできた道だ。


 そして、壁のないもう一方には案内人が言っていた、大きな門が立ちはだかっていた。


「見張りはいないな」

 大林が確認する。

 門の外側には見張りはいない。おそらく内側だろう。その両方にいないなんてことは考えられない。

 一歩一歩を慎重に歩み寄り、門の前で耳を澄ます。


 ――すると、中から人の声が聞こえた。二人の少年が話をしている。


「ヒマだよなぁ、見張りって。早く交代したいぜぇ」

「お前、それ何回目だ? 聞き飽きたよ」

「三十七回目」


 ――ため息の声。


「あの噂だけど、お前どう思う?」

「あの噂ぁ?」

「掴まえた二人のこと。わざと捕まったんじゃないかとか、噂が流れてるだろ」

「そうなのかぁ? ははは、それはないと思うぜぇ。そんなことして何の得があるんだ? どっちにしても、牢を抜けることはできないだろ」

「それもそうか」


 納得し、それから思い出したように言う。


「……そういえば、“あの三人”帰ってこないな」

「捕まったんだろうぜ、『シラタチ』によぉ。だいたい、たったの三人でどうにかできる連中じゃねぇ。大林一人襲うにしても、二十人は必要だぜ」

「でも、例の『レッド・クロウ』も一体連れて行ったんだぞ? あの『地中兵器』も」

「あなどれない連中だ。それに、やつらに情報がもれてる。あの三人が吐いたとしか思えねぇ」

「そうだな。――ったく」


 ――門を挟んで話を聞いていた四人。

 門の向こうに、見張りは二人。それ以上の気配は感じられないが……。

「さて、どうやって入るつもりですか?」

 宗萱がマハエとハルトキを見る。二人は自信満々にニヤッと笑った。

 そして彼らよりも一歩前に出て――


「ちわ〜!! 宅配屋ッス〜、開けてくださ〜い!!」


 門の向こうへ―― 叫んだ。


 …………冷たい沈黙。


「駄目か」

「当然です」


 宗萱と大林は今までにないほどの、深い深いため息をついた。

 だが向こうの見張りに反応は―― 向こう側で、かんぬきが外される音がした。


「まさか……!?」


 思わぬ出来事に、全員が身構えた。

 ――ギギギ……。と、門の片方がゆっくりと開いていく。


 門の半分が完全に開いたそこに、二人の男の姿があった。


「ようこそ、『ニュートリア・ベネッヘ』へ」


 グラソンとエンドーが怪しい微笑みで出迎えた。



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