00‐1:新たなる危機
『第三章!』ということで、今回も全力を出して書いていきます。
※これは『第三章!』ですからね!
――すべてを切り裂く覚悟はできている。
――過去も
――記憶も
――自分自身も
セルヴォ世界、人間世界―― 二つの現実世界。
すべてを滅ぼす脅威は去った。
だがそれはあくまで、目に見える“現実”の話。
マハエ、ハルトキ、エンドー。三人が人工島での戦いを終える頃――
デンテールの人工島、船着場――
「ふんぬっ!!!」
筋肉モード全開。窪井の重たい横振りの拳が風を起こした。
大林は体勢を低くしてそれをかわした後、地面に片手をついて全身に回転を加えながら蹴りを放った。
腹部に攻撃をくらった窪井。だがその痛みをねじ伏せて、すきができた大林を蹴り飛ばす。
何メートルか吹っ飛ばされた大林は、背中で後ろへ一回転し、足を踏み込んでブレーキをかけた。
とっさに蹴りから身をかばっていた左腕をさすりながら、立ち上がる。
二人は向き合い、にらみ合ったまま動かない。
二つの激しい息づかいが、コンクリートにぶつかる波の音にかき消される。
「ぬぐぅ……! ちくしょーめ……!」
窪井の低い声が波の音をかき消す。
「てめぇなんぞに……!」
大林は「フー……」と、細長い息を吐き出して呼吸を整えた。
「まさかオレも、弱ったお前にここまでやられるとは思わなかった……」
しばらく波の音だけが続いた。
風が、停泊している船のマストに当たって、ヒュオォォと鈍い音を出す。
その音の終わりを合図にするように、二人はほぼ同時に地面を蹴った。
「おあああああぁっ!!!」
二つのおたけびが重なる。
急接近し、すれ違う拳、腕。たとえクロスして相打ちになったとしても、窪井のバケモノ的頑丈な肉体と、まだ人のレベルを超えていない大林の肉体。
どちらが倒れるかは、火を見るよりも明らかだ。
窪井の拳が先に、大林の横顔を打った。
だが、窪井は不思議そうに目を細める。
殴った感触が伝わってこない。
それは、大林が窪井の攻撃の速度に合わせて首を動かしていたせい。
大林の構えていた腕はフェイク。
彼はそのまま体を回転させて攻撃を受け流すと、窪井の背後へ回り、回転の速度を上乗せした強烈な肘を放った。
「――!!」
窪井は後ろへ体を反らせた後、ドンッと片膝を着いた。
大林は窪井から五歩ほど距離をとり、その背中に警戒する。
窪井に動きはなく、苦しそうに、それでいてどこか嬉しそうにうなり、息を吐いた。
「……大林……、さすがは、オレのライバルだ」
大林は大きな背中をにらみ付けた。
「ライバルだと? バカを言うな。お前は“敵”だ」
窪井が「ハッ」と笑って、腕を動かす。
次の攻撃を想定し、大林は構えた拳に力を込める。
だが、窪井がレスリングコスチュームの、収納に便利な部分から取り出したのは、小さくて丸い白いボール。大林は即座にそれが何なのか理解した。が、すでに遅く、パシンッ!とボールがはじける音とともに、視界を白い光が支配した。
――閃光弾だ。
「あばよ、また会おう」
その言葉の後に、何かが海に飛び込ぶ大きな音がし、大林は握っていた拳を下ろした。
「くそっ……!」
白が薄れて目は見えるようになったが、その視界に窪井の姿はなく、波と風の音だけが、虚しく耳に聞こえていた。
戦いの中で袖の一部が破れたローブを肩にかけ、大林は赤く染まった空を見上げた。
「ちくしょう……」
大林はもう一度毒づいた。
――この時、窪井が逃走したことにより、このセルヴォ世界はまた、新たな危機にさらされることとなる。