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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ナオトとアイト

作者: 桂野耀里

#ヘキライ 企画第6回参加作品

目覚ましが起床時間を告げる。

ぼんやりとしながらベッドサイドに手を伸ばして乗っているものを掴む。

それを目の前に持ってきて我に返ったが遅かった。


「あっ」


声を上げたと同時に意識が途絶えた。



私は今、彼から逃げている。

自分からデートに誘っておきながら。

なぜ逃げているかと聞かれたら、勘としか言いようがない。

待ち合わせ場所に着いたのは10分前。

その直後、言い知れぬ悪寒に襲われ逃走を決意。

バスと電車を乗り継ぎ、気がつけば見知らぬ土地に来ていた。

今日は家にも帰らない方がいいだろう。

道を引き返して、途中から待ち合わせ場所とは別の繁華街に向かう。

スマホでビジネスホテルに予約して避難先を確保、後は籠城するだけだ。

目的地に着いてバスを降りると、目の前に当の彼がいた。

眼鏡の奥が明らかに不機嫌な色を映している。

思わず脱走を試みるも、腕を掴まれ引き寄せられる。

側から見れば彼氏が彼女を抱き寄せたように見えるだろうが、そんなロマンチックなものじゃない。


「何ボサッとしてんだ!死にたいのか!」


こんな感じで終始怒られる。

ホントの「彼」だったら怒らずに無事を確認する。

「彼」も心配しているのは分かるけど、優しく声をかけることが難しいらしい。

手を上げないのが唯一の救いだと思う。


「今日はナオトと会うの!アイトじゃない!」


密着に乗じてアイトの眼鏡を奪おうと手を伸ばすが、直ぐに捕まる。

そのままバス停から離れて街中をずんずん進んで行く。

この方向は。


「どこ行くの」


「ホテル予約したんだろ?だったらチェックインしないとな」


怒る以外の感情、イジワルな表情が出てくる。

予感的中。

アイトは頭が良く、数手先を読み行動する。

問わずとも分かっている。

だからこそ大学院で難しい研究が出来るのだ。


ふと、眼鏡を外すアイデアを思い付き、嫌がりながらもついていくことにした。



「おはよう、ナオト」


目覚めて直ぐに彼女の笑顔が目の前に現れた。

彼女の後ろは見知らぬ天井。

病院独特の匂いはしない。

となると。


「は、はわあぁ!僕、いや、アイト何かしてない?」


頭を抱える僕を見て彼女はクスクス笑っている。


「大丈夫、何もしてないよ」


「ホント?」


「ホント」


笑顔で返され、ようやく安堵する。


「眼鏡は、ジャケットの胸ポケットに入れてる」


彼女の表情が少し翳った。

アイトが苦手だということは分かっている。

それでも、離れずにいるのは僕のせいだ。

アイトは僕の別人格だから。


僕の父は、母を風俗で働かせて自分は別の女と遊び、母が過労で急死したあと、今度は僕で金を稼ごうとした。

泣き叫ぶ僕の頬を叩かれた瞬間、アイトが現れた。

アイトは父を含め僕を連れて行こうとした男達を倒し、自ら母方の親戚に避難した。

警察官の伯父が色々と世話を焼いてくれたおかげで大学院にまで通わせてもらっている。

僕やアイトのことを本当の子供として接してくれている。

このことを他に知っているのは彼女だけだ。


僕はアイトを眼鏡に封じた。

父が眼鏡をかけていて、僕の中では未だに克服出来ないトラウマになっている。

同時に父を倒したアイトが怖い。

アイトは別人格とはいえ、実は僕の一部かも知れないから。

いずれは向き合わなければならないのだけど、今はその勇気はない。

再び一つになるか、どちらか消えるか。

もし、僕が消えたら彼女は大丈夫だろうか。


「ナオト?話聞いてた?」


「ごめん、何?」


ちょっと拗ねた表情の後、昨日行く予定だった映画を見に行こうと言った。

そういえば、この映画も二重人格ものだっけ。


ご飯を食べてチェックアウトの準備をする。

ジャケットを羽織ってポケットから黒縁の眼鏡を取り出す。


『閉じ込めたのはお前だよ、ナオト』


眼鏡の向こうでアイトが語りかけて来たような気がした。




ナオト、アイト、彼女ともに清い交際です。

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