蒼の王太子の婚約
王都から自分の店に戻ると、店の入口の前に一人の男性が立っているのが見えた。
そこに立っていたのは私の恋人でこのアルカディア王国の王太子でもあるジークことジークフリード王子。
ジークは私に気付くと満面の笑顔になり私に近付いて抱き締めてきた。
「ちょっ!ジーク!?どうしたの?今日は忙しいから来れないとか言ってなかった?」
「なんとか無理矢理時間を作って君に会いに来たんだ」
「ジーク・・・」
「はぁ~やっぱりこうしてサラを抱き締めると落ち着く」
「・・・大丈夫?もしかして仕事忙しいの?なんか疲れているようだけど・・・」
ジークに強く抱き締められながらその顔を見るとあまり顔色が良くないように見える。私が心配そうにジークを見上げているとジークは微笑んで私の額に軽く口付けを落とす。
「ジーク!?」
「・・・サラのその顔を真っ赤に染めて恥ずかしがる所はいつ見ても可愛いな」
「・・・ん!」
ジークはそう言って今度は唇に口付けを落としてきた。
何度か唇を啄まれ私は恥ずかしがりながらもその口付けを受け入れていたのだ。
漸く唇が離れ私はジークを羞恥で軽く睨み付けるがジークはそんな私を愛しそうな瞳で見つめてくる。
「ジーク!今日はお店が休みで人がいないとは言え、街道沿いのこんな目立つ場所ではさすがに困るから!」
「すまない。サラがあまりにも可愛かったから我慢出来なかった」
「っ!ちょとは我慢して!!」
「今度から気を付けるよ・・・多分ね」
「多分って・・・はぁ~もう良いよ。とりあえず家に入って休んで。本当に顔色良くないからさ。今日買ってきたばかりの新しい紅茶入れるね」
「サラ、ありがとう・・・ただごめん。この後大事な夜会があってもう戻らないといけないんだ」
「そうなの?」
「ああ」
・・・せっかく会えたのにもう帰るんだ・・・。
私がちょっと寂しそうな表情をすると、ジークは堪らないといった表情でさらに抱き締める力を強めそして私の髪を優しく撫でてくる。
「このままここに居たい・・・」
「ジーク・・・そう言ってくれるのは凄く嬉しいけどその夜会は公務なんでしょ?なら戻らないと・・・」
「・・・分かっている。だけど後少しだけサラを感じさせてくれ」
「・・・しょうがないな~」
私はチラリと回りに人がいないのを確認し、ジークの背中に手を回して私からも抱き締めた。
そして驚いて私を見ているジークに笑顔で私から軽く口付けをしてあげる。
「これで頑張れる?」
「・・・っ!サラ!!」
「んんっ!」
ジークは照れていた私の唇を今度は激しく奪ってきたのだ。
暫く深く激しい口付けに翻弄され、漸く解放された時には足の力が抜けてジークに支えられてしまっている状態だった。
その後名残惜しそうにしながら帰っていくジークの背中を見送りながらふとある事を思い出す。
そう言えばクラリスも今日夜会とか言ってたな・・・・・あ!ジークに街の警備強化頼むの忘れてた!!
気付いた時にはもう馬に乗っていたジークは見えなくなっていたのだ。
・・・まあ、またすぐ会えるだろうからその時で良いか。
そう思い私は家の中に入っていったのだった。
────ジークと別れてから数日。
私は店のカウンターでカップを布で拭きながらため息をついていた。あれから何故かジークが全く来なくなったのだ。
ジークどうしたんだろう?・・・はっ!もしかして顔色良く無かったから体壊して寝込んでいるのでは!
そう思い付くと今度は心配になってそわそわし始めた。
その時入口の扉が勢いよく開きそこから慌てた様子のロブおじさんが駆け込んできたのだ。
「サ、サラちゃん大変だ!ジークフリード様が侯爵令嬢と婚約したらしい!」
「え!?」
ガシャン
私はその言葉に衝撃を受け持っていたカップを手から落として割ってしまった。しかし私はそんな事を気にする余裕もなく呆然と心配そうに見てくるロブおじさんを見た。
「ロブさん・・・その話し本当なの?」
「・・・今王都の街ではその話題で持ちきりになっているよ」
「嘘・・・」
「サラちゃん、ジークフリード様から何も聞いてないの?」
「・・・何も」
あの最後に会った時のジークを思い出すがやはりそんな様子は全く感じられなかったのだ。
・・・もしかして私がいつまでも婚約話を避けていたから?
その考えが頭をグルグル回り出し私はその場で放心状態となった。
結局その後店を続けられる状態では無くなってしまいそのまま店を閉めた。そして次の日から熱を出し暫く寝込んでしまったのだ。
なんとか熱も下がり、これ以上店を休むわけにはいかないと憂鬱な気持ちのまま開店準備をする為店の外に出た。
するとそこに豪華な馬車が一台止まり中から身なりの良い一人の若い男性が出てきたのだ。
私はその男性を何処かで見たことある様な気がして、不思議そうに見ているとその男性は胸に片手を当て頭を下げてきた。
「サラ様お久し振りです。その節は大変お世話になりました」
「・・・え~と?」
「やはり覚えていらっしゃらないようですね。僕はジークフリード殿下の侍従であの時体調を崩しサラ様の部屋で看病して頂いた者です」
「ああ!あのジークがこの店で襲われた時の侍従さん!」
「あの時は本当にありがとうございました」
「いえいえ。困っている時はお互い様ですよ。もうあれから体調は大丈夫なんですか?」
「はい。お陰様で」
「それは良かった・・・それで侍従さんはどうしてここに?まさかお礼を言う為にわざわざここに来たとか?」
「僕の事はルカとお呼びください。勿論直接お礼が言いたかった事もありますが、今日はジークフリード殿下の使いで参りました」
「ジークの!?」
私はまたジークの婚約話を思い出し落ち込みそうになるのをグッと堪えた。
「ジークフリード殿下はどうしても緊急にサラ様をお城にお呼びしたいとの事です」
「私を城に?」
「はい。本当はご自身で迎えに来られたかったそうなのですが、今は城を離れられ無い状態でして代わりに僕がお迎えに上がったのです」
「離れられ無いって・・・ジークどこか体が悪いの?」
「いえ、そう言う訳では・・・とにかく急を要するのでこのまま一緒にお城に来て頂けないでしょうか?」
「今すぐ!?・・・・・・分かりました。準備するから少しだけ待ってください」
そう言って店の入口にまだ暫く休むと張り紙をし、身支度を整えルカと一緒に馬車に乗り込み城に向かったのだった。




