20 続・双子の姉
軽く職員会議が長引いて正樹はいつもより遅く学校を出た。
いつの間にかあたりは暗くなり、夜の訪れの早さに冬を感じる。
今日は☆乙女☆が来てるはずだ。
合鍵を渡しているので困ることはないだろうが、正樹は小走りで帰宅を急いだ。
「ただいま」
「おかえり」
水色のエプロン姿で出迎える☆乙女☆に、少し照れ臭くなり正樹はごまかすように「あー疲れたー」と大げさに言った。
「ご飯いつでも食べられるよ」
「ん、着替えてくる」
着替えると言ってもスーツを脱ぎ、Tシャツにトランクス姿になるだけだった。
「姫、寒くないの?」
「うん。俺、暑がりだしさ」
「そっかー。今日お鍋なんだけど、嫌だったかなあ」
「鍋?全然オッケーだよ。鍋なら夏でもいいよ」
「よかった」
ほっとして☆乙女☆がコンロの鍋に火を入れた。しばらくするとだしのいい匂いが漂ってくる。
「いー匂い。何鍋?」
「キムチ鍋」
「えっ、キムチ鍋?意外だな」
「昨日職場の人にいっぱいもらったの。結構周りの人は定番みたいでさ。
うちでは刺激強いから食べたことなくて減らなさそうだから持ってきたの。
辛いの平気?」
「平気だよ。ナンもないときザーサイで飯食ってる」
「やだあ。ちゃんとご飯食べてね」
「たまにだよ」
月に数回しか☆乙女☆の料理を口にすることはないが、彼女の料理は上等な外食のようだ。
しかし鍋はアルミ製で、まあまあ大きさはあるが独身男の住まいだなあと感じさせる。
「土鍋買っとくかなあ」
「えっ。姫一人でも使う?家族に見られたら変に思われない?」
「んー。この前姉貴たちに乙女の事ばれた」
「ええっ?なんで?」
「歯ブラシ忘れただろ」
「あっ。ごめん……」
「いいよいいよ。別に隠すつもりもなかったしさ。姉貴たちはなんか乙女の事気に入りそうだし」
「そうなの?なんでだろ」
「ま、いいじゃん。飯まーだー」
「あ、はいはい」
笑いながら☆乙女☆はアルミの両手鍋を小さなテーブルに置いた。
そして揃わない二つの小鉢に装って差し出した。
「鍋だけどお茶でいいの?」
「うん。俺、やっぱ酒全然ダメっぽい。飲みたいとも思わないしさ。
乙女は気にせず飲めよ」
「ふふ。一本だけビール買ってきたんだ」
正樹は下戸だったが☆乙女☆はそこそこ飲めるらしく、料理に合わせて少しだけアルコールを飲むようだ。
それでもビールを一本、グラスワイン一杯程度でゴミになるからとたしなむ程度持ってくるだけだった。
「あっちっぃ」
「ゆっくり食べて。姫は猫舌なのに熱いもの好きだよねえ」
「うーん。中途半端に生ぬるいってのが一番まずいじゃん」
「まあ、そうかもね」
卓上コンロもないので食べながら☆乙女☆は別の鍋にも追加分を作っている。
二人ともよく食べるのだ。
「鍋に人参って変わってるけど美味かったな」
「よく食べたねえー。雑炊やめとこうか」
「いやっ。食うよ」
「じゃ軽くね」
正樹が満腹になるまで食べるのは☆乙女☆の料理だけだった。
先日断られたプロポーズだったが、一緒に居ると毎日こんなに食べてしまうのかと少し危惧する。
(身体が満たされると満足するよな)
関係はまだ変わりそうにないが、とりあえず満足した。
寝室でだらだらと過ごす。
二人とも日中は精力的に活動しているせいか、ゴロゴロするのが好きだった。
「姫のお姉さんたちって双子だったよね」
「うん。一卵性だからそっくり」
「双子って大変なんでしょ?この前ね。
お兄ちゃんから双子の赤ちゃんが大変だったって聞いたんだ」
「ああ。姉貴たちもソータイカン輸血症候群ってやつで、母さん半年入院してたってさ」
「半年も?」
「命に関わるってことで絶対安静だったみたい。死ぬほど心配したって言ってた」
☆乙女☆は真剣な顔つきで正樹の話を聞いている。
「そんな顔すんなよ。今、元気なんだからさー」
「え、ああ、うん」
「おかげでさ、母さんは子供たちは元気ならそれでいいってことで、
あんまりうるさくないんだ。
でも姉貴たちは甘やかされ過ぎだとおもうけどなあー」
「そっか。姫はどうだったのかな」
「俺?俺は姉貴たちと違って何の心配もなかったみたいだよ。
だからかなあ、なんか扱いが雑な気がする」
笑って正樹が言うと☆乙女☆はほっとした顔つきで「よかった……」と呟いた。
その表情があまりにも愛しく思え正樹は肩を抱き、引き寄せ強く抱きしめてキスをした。
「んんっ」
いきなりで☆乙女☆は驚いたようだが、抵抗はなく正樹の首に腕を絡ませる。(ああ、なんか……ダメだ)
彼女を欲する気持ちが強くなり、いつもよりものめり込んで抱いた。
そして☆乙女☆も情熱的に応じ、長い夜は更けていった。




