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グラデーション  作者: はぎわら 歓


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18/23

18 浮気

(久しぶりに早く帰れるな)

 正樹は授業を終え帰り支度を始めた。

そこへ今年から転勤してきた、小野萌子がストレートの長い黒髪をなびかせて声を掛けた。

萌子は正樹が顧問を務める水泳部の副顧問でもある。


「田辺先生。今日はお暇ですか?

よかったら水泳部のことで相談があるんですが」

「ああ、小野先生。いいですよ」

「じゃああ。夕飯もご一緒しません?」

「そうですねえ。どこにするかな」

「そこのファミレスでもいいですよ」

「え。ああ。まあいいか。じゃ、そこで」

 正樹は生徒や父兄の目が少し気になったが、気にすることはないかと思い直して席を立った。

どちらかというと『ファミレスの飯』という方が気にかかった。

 


 正樹は萌子との相談という名のアプローチを思い返して、気分がモヤモヤしていた。


 萌子は強い目つきで教員にしては華やかな雰囲気を持っている。

学生時代は正樹と同じく水泳部に所属しており、大会入賞も数多く経験したらしい。


 堂々とした様子で萌子は正樹に告白をしてきた。

「私、田辺先生みたいな人好みなんですよね」

「ああ、そうですか」

「教員って出会いないじゃないですか。大っぴらに合コンとかもできないし。」

「まあね。職場結婚多いしね」

「私のこと考えてもらえません?」

「ごめん。彼女いるんだ」

「えー。全然そんな影ないと思ったのに」

「遠距離であんま会えないから……」

「なーんだ。遠距離なんだ。じゃチャンスありますね」

 もう勝ち誇ったような笑顔を見せる萌子に魅力を感じないわけではないが、少し疲れて正樹は帰宅した。


(なんか。こういうとき乙女がそばに居たらな)

初めて遠距離恋愛を恨めしく思った。



 パソコンデスクに座ってネットゲームに接続してみる。

 ローディング画面が流れ『月姫』が登場する。


ミスト:やあ

月姫:いたのか

ミスト:ちょっとインしてみただけ

月姫:もう落ちるの?

ミスト:十時には落ちるよ

月姫:体力つかってるもんな

ミスト:嫁といちゃつく時間なくなるからな

月姫:おっさんエロイぞwww

ミスト:姫ももうおっさんだろww


月姫:あのさミストは浮気したことある?

ミスト:ないよw

月姫:即答だなww

ミスト:浮気しそうなのか

月姫:いやたぶんしないと思うけど

ミスト:浮気ならしてもしょうがないしなw

月姫:でもさ遠恋ってきついよな

ミスト:まあね

月姫:身近な人と付き合う気持ちが最近わかるようになったよ

ミスト:気持ち>>>>>越えられない壁>>>距離

月姫:まあそうだな

ミスト:俺は元々淡白だから一人で平気だし

月姫:なんかミストは最初ストイックな感じだったけど

   結婚してからやけにエロおっさんだよなww

ミスト:w

ミスト:うちの嫁がせくしーなんだよwww

月姫:はいはいワロスワロスw

ミスト:まあ浮気はよしとけ本命失くすと間抜けだからさw

月姫:うn

ミスト:じゃ嫁が待ってるからノシ

月姫:のしw


 正樹はパソコンの電源を落として布団に寝ころんだ。

(ふー。小野先生にはハッキリ断っとこ。そもそもあのファミレスの飯で平気ってちょっと無理だな)

 ミストと話ができて良かったと思いながら、明日の授業のことを考えているといつの間にか眠りに落ちていた。


 数日後に小野萌子には彼女と婚約したと言った。

萌子は「あら、残念。」と言ったっきりで、しつこい性格ではないらしく正樹に再度アプローチをしてくることはなった。



 半年ほどたつと萌子から、正樹と同じ数学教師の立原健一と結婚をすると報告を受けた。

立原は正樹よりもさらに草食男子という雰囲気でおとなしく萌子に従っているように見えた。

(小野先生って肉食女子なのな)

 少し悩んだ正樹は軽く肩透かしを食らった気分だったがほっとした。


 少しだけ双子の姉たちに似ている萌子と、正樹と似ている立原を眺めると自分の家族を外から見るようで面白く感じる。

☆乙女☆がいなかったら、萌子の隣には立原ではなく自分がいたかもしれないなと正樹は想像した。

そして、そうならなくてよかったと心から思った。

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