16 プロポーズ
がむしゃらに働いて気が付くと正樹は三十歳になっていた。
三ヶ月ぶりに☆乙女☆がやってきて、何日か遅れた誕生パーティを行った。
「おめでとう」
「ありがとう」
「もう三十か。早いね」
「あっという間に二十代終わっちまった」
「ほんと。私も来年三十か。もうオバサン」
「あんま変わらないけどな」
「ずっと見てるからだよ」
バースデーケーキは☆乙女☆の手作りでほろ苦い、ガトーショコラだった。
「お前の作るものってほんと美味いな」
「姫って何気にグルメだよね。外で食べるとうるさいもん」
「そうか?普通だよ」
「だってファーストフードも行かないじゃん」
「まあな」
「仕事どう?」
「相変わらず忙しいよ。三年の担任になったもんだから進路指導が大変でさ」
「そっか」
「今時の親ってすっげーうるさいか、全く放置か極端でさ。中間層がいねーの」
「ああ、保育園もそうだよ。保育士さんストレス半端ないって言ってた。
親に対してね」
「ほんと。子供相手だけならなあ。親がきついって」
食べて寝ころぶ正樹の髪を☆乙女☆が優しく撫でた。
正樹は☆乙女☆の優しい目を見つめて言った。
「なあ。俺たち結婚しない?」
「え」
「きっとお互いにこれ以上一緒にいられる相手っていないと思うんだよ」
「それはそう思うけど」
「いやなのか」
「嫌じゃないけど。もう少し後なら」
いつも正樹の提案を受け入れてくれていた☆乙女☆が、初めて難色を示した。
「私、今年から調理の副主任になったの。メニューも考えることが増えたし」
「そか」
仕事への理解を示したいが、正樹の思い通りにならない☆乙女☆に、複雑な気分がして正樹は黙った。
☆乙女☆は気まずい空気を感じて片付けを始めた。
三か月ぶりに会ったというのに、この夜、正樹は☆乙女☆を抱かなかった。
☆乙女☆を駅まで送って帰宅し、パソコンデスクに座って机に頭を置いた。
なんだかモヤモヤした気持ちが正樹の中を駆け巡る。
別れ際の☆乙女☆の顔を思い出す。
初めて会った時から変わらない澄みきった瞳。
今回抱かなかったことを少し悔やんでマスターベーションを始めた。
☆乙女☆は昂ぶってくると正樹の手を欲する。」
『姫……。手を繋いで……』
正樹は左手で彼女の右手と繋ぎ、右手で彼女の肩を持って身体を動かす。
どこかに行ってしまいそうな感覚が恐いのだろうか。
感じれば感じるほど☆乙女☆は正樹の手を強く握る。
(この手を放して遠くへ飛ばしてやりたい)
そんなふうに思うが手はしっかりと固く繋がれていた。
(いつか一緒に飛ぼう)
少しずつ慣れ親しんでいった身体の繋がりは心の繋がりも深めていく気がする。
「ああ……。うぅ」
左手が空をつかんで、ここに彼女がいないことを思い出させる。
少しすっきりしたが、恋しさは募り机に突っ伏して少し休憩をした。




