表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

プロローグ

 そのひとは白雪のようなローブを羽織っていた。

 そのローブと同じ様な、透き通る白い手で僕の頬を撫でる。


「ねえ、君?」


 千切れた右腕と右脚の痛みで極度な混乱をきたした頭と、咆哮で破れた筈の鼓膜に、何故かその声は明瞭に響く。


「君に聞きたい事があるのだけれど……?」


 再び、その声は僕の耳に場違いな声音と質問を運んで来た。

 轟龍という、大きなトカゲの化物の顎から吐き出された火炎は、辺り一面をオレンジ色に染め上げ、肺まで焦げそうな熱気と、樹々の燃えた煙が雨雲の様に空を覆う…… そんな狂気の様相の中で、その人の周りだけはとても静かに涼しげだった。


「じ、し、死に、たく……っ!」

「ーーーー?」


 パニックに陥った僕の頭は、上手く言葉を紡ぐことは出来なかった。そんな僕に、彼女は首をかしげる。深く被ったローブの裾は鼻筋まで隠していて、彼女の顔を見る事は叶わなかった。

 その余りにも場違いな佇まいは、まるで夢の中にいる様な錯覚を持たせるが、千切れた手足の痛みが僕を現実に引き戻す。


「だ、だずげ、で…… ぐだ…… さい……っ!」


 頬に触れる彼女の手を、まだ残っている方の手で掴みながら、僕わ彼女にそう懇願した。彼女はそんな僕に僅かに逡巡するも頷いた。


「あ……っと…… うん、了解ーーーー」


 彼女はそう言うと、僕の手を静かに解き立ち上がった。彼女の後方には轟龍がこの世の全てを焼き尽くすかのごとく、狂った様に炎をまき散らしている。そんなこの世の暴威を象徴するかの様な光景を背に、彼女は振り返る。

 するりと解けるフード。

 銀色の髪がフワッと肩に乗る。

 そして、歌う様に紡がれる言霊を発する唇は、わずかな微笑を湛えている様に見えた。

 右手に持つ、奇妙な形の杖を掲げ、彼女は澄んだ声で術名を唱えた。


「――――――ゼロ・ブリザリスっ!!」


 魔法。

 確かにそれは魔法だった。

 僕はそちらの知識はほとんど無い。しかし彼女のそれは僕が伝え聞いた魔法とは明らかに違っていた。

 一瞬にしての沈黙。

 刹那に白く染まる視界。

 世界が…… いや、時間さえ凍り付いたのではと錯覚する。

 氷漬けになった轟龍が見下ろす中で、炎すらも凍り付き、雪が結晶のまま静かに降る世界に彼女は佇み、少し幼さを残す微笑みを僕に投げかけた。意識が途切れる前に、その笑顔を見れたのは幸運だと思える様な…… それはそんな笑顔だった。


 僕はその日、女神様に出会った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ